第235話☆ 過去は後ろに 道は前に



 あ~~💧 なかなか話しが纏まらずに更新が遅くなりました。



  ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「おい、ヴァリアスあんた、ただいま絶賛不機嫌中じゃなかったのかよ?」

 確かさっきまでメルトダウンまで秒読み状態だったのに、いま目の前に現れた奴は見るからに平常モードだ。


 言葉の絶妙な滑らし方もいつも通りだから、まず奴本人に間違いない。

 これはどんなシェイプシフター(色々な姿に変身できる魔物)でも真似できないポイントだろう。


「ああ? いつまでもオレが、そんなマイナス感情に引きずられているとでも思うか?」

 奴が心外だと言わんばかりに、眉を上げてみせる。

「どうせ(禁酒の)期限は決まってるんだ。それなら解禁後がさらに酒が旨いってもんだろ。

 なら、終わるまでそれを楽しみにしてればいいだけだ」

 ニーッと、サメが牙を見せて笑った。


「それじゃ罰にならね――」

 つい皆の視線を感じて口をつぐんだ。

 取り敢えず俺が嘘をついてたわけじゃないのはわかってくれただろうか。

 

 それにしてもこいつの前向き思考ポジティブシンキングは、まさに帝王グレートキング級だ。

 神様、いいんですか? これくらいじゃこいつには全然効きませんよ。

 やっぱり禁酒期間が短すぎるんじゃ……。


 とはいえ今回のことは、奴なりに人助けした事が起因している。

 それにあまり期間を長くし過ぎて、それこそ不満爆発ゴジラ降臨にでもなったら、国が1つ消える危険もはらんでいるのか。


「とにかく話はもういいだろ」

 奴が肩を揺すってまた俺の方に戻って来た。

「…………」

 警吏と審問官の3人は、奴の流し目――ひと睨みとも言う――で目を逸らした。


「(証言の)残りはこれで十分だ」

 パサッとテーブルの上に二つに畳まれた紙を置いた。チコが持って来たタブロイド紙のゲラ刷りだ。

「そいつにオレの証言が載ってる。というかほぼオレが教えてやった事ばかりだがな」


 審問官が驚いてタブロイド紙を手にすると、それを機会に警吏たちも向かいの捜査官側に飛んで行った。

 同時にフワッと柔らかくもしっかりした綿で全身包まれた感触で、急に俺の体が浮かぶ。


「蒼也、帰るぞ」

「え、だけどまだ――(ポーを撫でてない!)」

 足で踏ん張ろうとしたが、宙でジタバタするだけに終わった。見るとポーは、こちらに背を向けて横になっている。

 ポー、こっちに気付いてくれよ!


 みんなの呆気に囚われた視線を一身に集めて、ドアを潜ると俺たちは転移していた。

 お帰りなさいと言うキリコの声と共に戻ってきた応接室の中は、芳醇で深いコーヒーの香りが濃厚に漂っていた。


「おい、いきなりなんだよ」

「なんだって、お前も絡まれて困ってたじゃないか。それに潮時だから迎えに行ったまでだ」

 奴はソファにまたふんぞり返るように座ると、俺を隣に下ろした。いつも通り行儀悪く足を組む。


「いつもいきなり過ぎんだよ! これじゃ俺まで非常識に思われるじゃないか」

「お前だって寝衣パジャマでうろついてたじゃねえか。無防備過ぎるぞ」

 あんたのせいじゃねえかよ。

 ったく、自覚ねえなあ! 本当に脳みそ、ゴジラじゃねえのか?!


「……まだ(ポーを)ひと撫でもしてなかったのに……」

 くそっ、すぐ隣の建物とはいえ、今さらどのツラ下げて戻れるのか……。


「ああ? お前そんなことで不貞腐れてるのか?」

 奴がちょっと呆れたトーンで言った。それから足を組み直すと

「だったらもう少し待ってれば、向こうからやって来るぞ。アイツらの性格からして、帰る時に挨拶ぐらいはしにくるだろ」


「……そう、かな?」

 なんかそう言われるとそうかもしれない。

 我ながらちょろいと思うが、まだワンチャンありと考えると怒りも収まって来る。


「そんなことよりお前、護符アミュレットをちょっと出してみろ。確認しておきたいことがある」

 そう言った瞬間に、すでに奴の手の中に俺のスマホが移動していた。

「確認て?」

 何か不具合でもあったのか?


「う~ん、まあ動作確認というか……」

 そう言いながら奴は、シュッシュッと慣れた手つきでスマホを操作しだした。

 いかにも外国人らしく、片手親指操作だ。

 片手で持ってもう片手で操作する、いわゆる両手持ちは日本人だけの特徴というのを誰かに聞いたことがある。

 うん、俺はやっぱり日本人だな。

 

 横で見ていると奴は、ある動画サイトを開いた。次々と画面をスクロールしていく。

「どうだ? 何かおかしいとこあるか」

「そうだなぁ、ちゃんと(異空間の)受信が上手くいってるか確かめないと――」

 言いながらスクロールばかりでなかなかタップしない。


「だったら、何でもいいじゃないか」

 俺が横から適当に選ぼうとすると、奴がスマホを遠ざけた。

「どうせなら面白そうなのがいいだろ。ん、これなんかどうだ?」

 奴が画面をタップすると同時に、目の前に大きく引き伸ばされたスマホの画面が現れた。


「……もしかして、あんた、ただ映画を見たいだけ……なんじゃないだろうな?」

「たまにはいいだろ。暇潰しによ」

 空中の光のパネルは、『ワ●ルド・スピード』を映し始めた。


「あんたっ! 本当はこれを見るために俺を呼び戻したんじゃないのかっ?!」

「いちいちつまらないことを気にするな。そんな細かいこと言ってると、また胃を悪くするぞ」


 こっ、こいつ! 禁酒中の気を紛らわせるために、映画見たかっただけじゃねえのか。

 守護者が傍にいない状態だと、俺から護符(スマホ)を外すことが出来ないからって、このぉヤロぉ~~。


 ――結局……観てしまった。

 もうここでジタバタしても奴が言ったとおり俺の胃が悪くなるだけだ。腹立つが、ゴジラメンタルには勝てないのだから。

 

 ちょうど一本見終わり、次を選んでいるとドアがノックされた。

 ギルドの係が来客を告げにきたのだ。名前を聞いてもちろん通してもらう。悔しいが、奴の言った通りだった。


「助けてもらったのに、本当にお礼も出来なくて申し訳ない……」

 エッボがそう言って頭を下げると、パネラとレッカも同じく頭を下ろした。

「そんなの別に要らないよ」


 俺は彼らの座るソファの横でポーの丸い頭を撫でていた。

 そうそう、この柔らかくて可愛い生き物を触らせてもらえるだけで満足なのだ。それに人助け出来たし、もう気分は十分だ。

 

「実は僕たち……、この町を出て行くんだ」

 レッカがおずおずと言った。

「あ、そうなんだ。確かに色々あったから居づらいよね。

 で、もうどこに引っ越すか決めたの? 俺もあちこち移動してるから、たまに会いに行けるかも」


 パネラ達との仲もあるし、もう俺はレッカにも砕けた口調になっていた。

 友達の友だちはもう友人である。

 これが縁でたまに遊びに行くのもいい。多分に猫目当てなのが自分でも不純だとは思うが。


「ううん、まだ決めてないんだ。とりあえず今、ジゲー町長家が混乱している間に出て行きたくて……」


 引っ越しじゃなくて夜逃げだった。

 俺は本当に考えが甘かった。

 

 全てが終わったと思っていたが、それは元通りになるという訳ではなかった。

 何の力も持たない一介の市民が、町の権力者の不興を買ったのだ。

 今は確かにこの事故の責任者という事で、それどころじゃないだろうし、町長たち一族全員が処分される可能性もあった。


 だが、彼らは古くから根付く権力者。有力な地元の貴族とも親戚関係を結んでいる豪族だ。

 もし町長達がいなくなっても、沢山の親類縁者の中の強勢な者が残る可能性はある。そいつらに今後何かされないという保障はどこにもないのだ。


 もしかすると、下々の者レッカとアメリが盾を突いた――大人しく従わなかった――事が、今回の祭り事に厄を招いた要因だ、などと逆恨みする者が出て来るとも限らない。

 そんな理不尽がまかり通る世界なのだ。


 パネラとエッボも直接ジゲー家に関わった訳ではないが、ちょっと調べればレッカ達と仲が良かったことはすぐにバレてしまう。そこから匿った事も分かるだろう。

 もし地元の警吏達だけなら、そこは記録に残さないように配慮してくれたかもしれない。(人種差別者でなければ)


 だが、事情聴取に直接審問官が来てしまった。彼らは一言たりとも関連事項を省かないだろう。(俺の顔写真だけは特別だが)

 あの時エッボが懸念を抱いたのはその事だった。自分たちの消せない足跡を残してしまった。


 そうして彼らは亜人と呼ばれる存在。

 ヒュームよりも格段に、容赦ない敵意の対象にされるに違いなかった。


 俺はやはり彼らと違って部外者だった。

 何かあれば地球に戻ればいい。そうやって安全な所から、逃げ道も確保した上で彼らと関わっていたのだ。

 ゲームと同じで、危なくなったらリセットボタンを押せばいいように。

 だが、彼らはこの世界でしか生きて行けない。

   

「……せっかく知り合いになれたのに」

 ポーもそうだが、3人とは今後も仲良くやっていけると勝手に思っていた。

 

 ギーレンの人々と別れた時、名残り惜しくもあったが、それだって訪ねていけば会う事は出来る。

 けれど逃げ隠れしようとする彼らは、関わりを持った相手を避けるだろう。そんなとこに押しかけていく訳にもいかない。


「しょうがないわよ、生きてるだけマシだもん。

 そう、生きてさえいれば、またいつかどこかで会えるかもしれないから」

 パネラが淋しそうな笑みを浮かべて言った。


 みんな黙り込むと自然に目は下に落ちた。

 きっとそんな可能性が低いことを誰もが分かっていたからだ。 


 すると今まで我関せずと、ソファにふんぞり返っていた奴が急に口を挟んで来た。

「行き場がねえなら、とりあえずジジイのとこでいいんじゃねえのか?」

 この急な発言に皆が顔を上げた。


「ジジイ?」

「アイザックのジジイんとこだよ。あそこならここから離れているし、亜人も多いだろ? 

 まあ田舎が嫌だっつうんなら別だが」


 あ、ラーケル村か。

 あんたはいつも、ジジイかオヤジかお前しか言わないから、どのジジイか一瞬分からなかったよ。


「ううん、別に都会でなくても全然いいわ。しばらく身を隠せるのなら」とパネラ。

「でもそこは大きなコミューンなのかい? あまり住民が少なかったり、閉鎖的だと余所者は目立つから」

 横からエッボが心配そうに尋ねてくる。


「小さな村だけどハンターもよく来るみたいだし、みんな和やかな人たちだよ。

 特に村長が」

 俺もラーケルを推した。

 3人が顔を見合わせる。


「なんだよヴァリアス、あんた、たまには気の利くことを言うじゃないか」

 俺はちょっぴり心から感心した。

 そうだよ、ラーケルならしばらく身を隠すのに打って付けじゃないか。


「フン、お前がすぐに思いつかなさそうだから、教えてやったまでだ。どうせ後から思いついて、間に合わなかったと泣きごと言うに決まってるからな」

 くそぉ~~! やっぱりこいつ腹立つっ!


 しかし助かったのも事実だ。

 それから3人はラーケルの場所などを聞いてから、ひとまず仲間とも相談したいと慌ただしく出て行った。

 どうもアメリが匿われている隠れ家というのは、この町の外にあるらしい。

 閉門まであと四半刻30分の鐘が鳴っていた。


 ただ俺のまわりも急に忙しくなった。


 何しろ先程の来客で、俺の具合が良くなったと知ると、あらためて夕食時にギルドの副長と支部長が訪ねてきたのだ。

 厄介になっているので断り切れず面会すると、そこに待ってましたとばかりに王都のギルドのお偉いさんまでついて来た。


 さらに俺の所在を知った、あの魔道師ギルドのメイヤー部長までもが見舞いにかこつけてやって来たのだ。(そういやガイマー次長ル氏は無事だろうか? 左遷か降格されてないだろうか)

 どうも魔導師ギルドに登録する約束を、忘れているのではないかと不安になったらしい。考えるとは言ったが、そんな約束した覚えはない。

 しかも皆どこぞの情報なのか、ボトル持参で。


 俺はまたもやみんなを、メガメテオなサメから守らなければならなかった。

 何しろお偉いさんなんぞは興奮して奴に握手を求め、俺が間に入らなければ嚙み殺されそうな状況になった。


 なんでいつも奴から世間を守らなくてはいけないのだろう。どちらが守護者なのか分からなくなってきた。


 それと我に返った若頭が謝りに来たが、これまた奴が直接会わせるのを拒絶したので、映像と声だけこちらに寄こすという、まさしくテレワーク謝罪を受けた。


「しばらくは草葉の陰から見守らせていただきます」などと、物騒なことを言っていたのがちょっと怖かったが。  

 

 そんなこんなで今日が終わった。

 全くやっとダンジョンの件が収まったと思ったらこれだ。……俺に安息日というものは無いのだろうか……。



    ******



 次の日も俺はギルドから出ることが出来なかった。

 

 まずエッボ達がいつ訪ねて来るか分からなかったのだ。こちらから連絡を取りたくてもまず連絡先を聞いていなかった。


「用があれば向こうから連絡して来るはずだ。逆に来なければ、そのまま縁を切りたいって意味だ。そこは分かってやれ」

 奴が淡々と言った。


 そんなものなのか。

 昨日は少しは希望が出来たと思っていたが、隠れ家に戻ってやはり危険と判断したのだろうか。

 逃げるならたとえ親しい人間にも逃亡先は知らせていかないだろう。

 なんだか淋しいものだ。


 とにかくこのまま待っててもしょうがないので、キリコを留守番に置いて外に出かけようと思ったが、奴に遠くに行くなと言われた。

 何しろ護符を外したままだからだ。


 この野郎はあれからオールナイトどころか、まさに『24 -TWENTY FOUR』状態で動画を見ている。つまり俺のスマホが必要なのだ。奴のは通信しか出来ないから。


 ならいつも通り一緒に出かけようと声をかけると、外では酒が目につくから嫌だと言う。だからお前もここにいろ―― こっ、このヤロ!


「なんであんたの都合に合わせなくちゃいけないんだよっ!」

「オレはお前に24時間365日、あと946年は合わせてやるんだぞ。それがたったの(あと)35時間48分ぐらい、たまにはねぎらってやろうって気にはならねえのかよ!」


「ねぎぃ~~!(絶句)って、自分で言うかよ?! 押しかけガーディアンのくせに」

 なんでホントにこんな奴がガーディアンなんだ。俺が欧米人なら思わず『オーマイガー!』と、叫びたいところだが、そもそもその神様が寄こしたガーディアンなのだ。……なんだか怒りよりも眩暈がして来る。


「それにお前、そんな暇あるのか? テストまであと何日だと思ってるんだ」

 あ~~っ!! すっかり忘れてた! 

 大体ダンジョンに行った理由だって、試験勉強のためだったんだ。

 つい、ひと仕事終えてほっとしていた。 


 ……結局、ギルドの応接室で受験勉強をする羽目になった。


 だが嬉しいこともあった。

 ヨエルが記憶を取り戻したのだ。


「すまん……やっと思い出した」

 昨日あれからしばらくして混迷がおさまり、自分が記憶喪失の状態であることを知った。そこでひとまず自分の持ち物を調べてみたそうだ。

 するとリュックから、例の奴隷売買書が出てきた。


 名前が違うから他の者達には分からないだろうが、それでも彼自身にパニックを起こさせるには十分だった。何しろ覚えてないのだから。


 もちろん物がモノだけに、怪しまれないよう動揺をすぐに抑え込んだが、心療師には筒抜けだったらしい。

 また魂(心)を激しく揺らすのは良くないと、強制的に眠らされてしまった。


 それで目が覚めたのが今朝。

 ひと眠りしたおかげで魂と脳が連動しだしてきたのか、徐々に俺たちのことも思い出してきたそうだ。

 少しなら動いても良いと、心療師の許可もあってこうしてやって来たというわけだ。

 

「髪の色が元に戻ってるのにも驚いたが、額の傷が綺麗さっぱり無くなっているのにもビックリだ」

 そう言いながら彼は自分の頭を撫でた。今やなんの痕も残っていない額を。


「そうよ、しかも肌だってこんなにツルツルになっちゃって。悔しいけど女のあたしより綺麗なんじゃないの?」

 一緒について来たエイダが彼の隣で羨まし気な声を出した。

 そりゃあ全細胞を総入れ替えしたからねえ。肌もピチピチになりますよ。 


「さあ……とにかく師匠を見つけた時は、ひたすらポーションをかけまくりましたから。そのせいかも……?」

 俺は軽く嘘をついていた。

 ヨエルを救出した時の話は、彼がダンジョンの奥に倒れているのを発見したことにしてあったのだ。


「ふ~ん、そうなのぉ? 

 お金持ちが使ってる美容薬ビューティポーションってとっても高いんだけど、なら普通の傷薬キュアポーションでもお肌に効くのかしら」

「やめとけ、薬を違う用法に使うと禄でもないことになる」


 この美容薬というのは、肌の再生に特化したハイポーションらしい。

 くすみや小ジワが取れ肌が瑞々しくなるというので、貴族や富豪の貴婦人たちの間で密かに人気らしい。

 もちろんお値段もそれなりで、質によってはハイポーションよりも高価なのだとか。


たしなめるヨエルにまだ不満顔のエイダ。そりゃあ彼氏が自分より肌艶良くなったら気になるか。

 するとヴァリアスが口を開いた。


「こんなの持って3週間(こちらでは27日間)ってとこだ。細胞はそれくらいの周期で入れ替わるからな。

 その美容薬とかいうブツも、結構な紛い物も出回っているし後遺症が出る場合もあるぞ。反動で一気に20年くらい老けるとかな。

 それでも止められないんだから、女ってヤツは……」

 最後はフンと鼻で笑った。


「そんな……、後遺症が出るなら仕方ないわね……」

 ちょっとムッとしたエイダだったが、渋々忠告は受け入れたようだ。


「ところで師匠、どこまで思い出せたんです? 俺と別れた後までですか」

 俺は話題を変えた。

 実際に彼がどこまで覚えているか知りたかった。もし俺たちの正体まで覚えていたら……。


「ああ薄っすらとな。確かハンターから脱出して動けなかったら、猫のやろうが来たんだ。 

 そいつが俺をどこかへ引きずって行って……。

 ――そういや、あの山猫はどうした?」

「ポー達なら昨日帰りましたよ。まだあっちもゴタついているようで……」


「そうか、なんだかあいつにも世話になったようだが、……まあ無事ならいい」

「俺もとっても会いたいんですけど……」


「縁があればまたいつか会うこともあるだろ」

 と、師匠もパネラと同じような事を言った。

 それはハンター稼業に身を置く者の、共通な悟りなのだろうか。

 そうしてもう一つ、『期待を持ち過ぎない』という事も。


「おれのコレだって、時間が経てばまた出てくるかもしれないんだしな。記憶が戻るみたいに……」

 ヨエルがそう言って額に手をやった。


「それはねえだろ」

 奴が足を組み替えながら、キッパリ言った。

「ダンジョンも今回のことで根本から大改変を始めた。言い換えれば本来あるべき姿に戻り始めたと言ってもいい。

 そんなダンジョンの氣にお前は当てられたんだよ。

 大体1度死んで甦ったんだから、もう面倒くせえ過去なんざ捨てちまえ」


 するとヨエルもフッと笑った。

「本当に旦那たちに会えて良かったと思うよ」

 そうして2人で再び頭を下げた。


「もう、師匠、頭を上げて下さいよ。そういうのは――」

「お前はまだ完全に落ち着いてないんだから、あんまり頭を振るな。

 また具合が悪くなったらコイツまで落ち着かなくなる」

 ヴァリアスの奴がそう言いながら、俺の方に浮いた足先で指した。

 ったく、この足癖っ! 俺は思い切り払ってやった。


「まあそれにしても旦那って本当に不思議な人だな」

 ヨエルが笑みを浮かべながら言った。

「酒しか飲まないのかと思ったら、そんなみたいなのも飲むなんて」

 奴の前には苦香ばしい香りを放つブラックコーヒーが置かれていた。(ヨエルはコーヒーなんて知らないから)


「あ”……」

「え」

 部屋の温度が一気に10度ほど下がった。


「すいません、師匠。そろそろ体に障るので ―― 帰ってください!」

 慌ててお引き取り願った。


 もう俺も日本に帰りたい……。


 しかし次の日、もう一つのダンジョン、アジーレの新しい情報を聞くことになったのだ。



    ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 またダラダラと長くなってしまいました(;´Д`)

 次回でこのダンジョン編も終わりにしたいです。

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