第219話☆ 復活への長き道


 ちょっと今回説明が多いです(~_~;)

 一話の入りきらず、2話に分割しました。



   ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




「はあぁぁっ!?  何言ってんだ、お前!」

 一瞬間抜けヅラになるかと思いきや、奴はみるみる青筋を立てた鬼の形相となった。

 凄まじい睨みと裂けた口でのジョーズのメンチ。

 喰い殺されちゃうんじゃないのか、俺。


「大体どうやってやる気だっ!?

 そんな高度な技をすぐに出来るとでも思ってるのか。 

 第一そんなふざけたマネ、オレがさせるわけねえだろがっ!」


 最後のにアタマ来た。

 こっちも負けてらんねえ。

「なんだとっ、そっちこそふざけんなよっ! 

 なんでもやってみろって言っておいて、いざとなったら邪魔する気かよっ!」

 するとヴァリアスの奴は一気にまくし立てて来た。


「言っとくが、寿命を分けようとか考えてるなら大間違いだぞ。

 お前は残り900余りのうち、例えば50年をアイツにやってもまだ850はあるとか思ってるかも知れないが、そんな事にはならねえ。

 寿命を分けるってのは相対だからな。

 アイツはベーシス系だから、生物的肉体寿命は100年前後。

 その半分近くを分け与えるという事はだ、お前のオール寿命の半分、500年は削れるってことだ」


「え……そうなのか? でもそれでも400年近くあるんだろ。まだ有り過ぎるじゃないかよ」

 その法則は意外だった。


「バカ野郎っ! あと900年でもお前の教育に足りるかどうか分からないのに、更に半分にしてどうするっ?!

 しかも半分も削ったら、お前一気に年取るぞ。いきなり50代になっちまうだろがっ」

「それこそ実年齢に合ってるじゃないかよ。そうすれば生年月日で不審がられない。

 やっとマイナンバーカードの写真が撮れる」


 すると更にサメが吠えた。

「そんなちっぽけな問題じゃねえっ!

 今のうちに基礎体力を上げておかなくちゃいけねえんだ。それに若い時にしか芽生えない感覚ってモノのもあるし、第一お前には――」


「あーもう、ガチガチうるさい」

 本当にそういう金属音をさせてくる。奴の顔の前に手を振った。

 また奴が凄く不服そうに歯ぎしりをする。


「聞けよ。確かに俺の言い方が悪かった。

 それに命とは言ったが、正確に言えばちょっと違うのかもしれない。

 大体寿命なんて言ってないぞ」

「じゃあ何をする気だ?」


「命の力、生命エナジーをあげるんだよ」


『生命エナジー』それは命を保つための力であり、生物自身が放つエネルギーだ。

 だから命そのものと混同されがちだし、よく命とも言い換えられている。

 まさに生命力。生気である。


 だから『蘇生』にはこのエナジーが必須となってくる。

 やり方としては治療と魂の呼び戻し、先に体の破損個所ダメージを治してから魂を戻し入れるのである。

 これがとても生半可な作業ではない。


 まず治療するにも、弱っているどころか死んだ体。生命エナジーを注いでやりながら一時的に細胞を活性化して修復させる。

 そうして死にたてほやほやの肉体にまで戻してからが本番だ。


 ここであらためてエナジーを注入するのだが、相手は今まで死んでいた体である。

 しかも生きていないので、エナジーを自ら温存することが出来ない。

 それこそ穴の開いたバケツ、目の粗いスポンジのようにボタボタと洩れ出ていってしまう。 


 そこで無くなるより早く、器(体)にエネルギーを満たしてやり、同時に魂を呼び戻すのだ。

 これは神子の領域でもある。


 このプロセスを聞いただけでも、相当難儀なのがわかるが、尋常でないのはその流すエネルギー量だ。

 

 何しろ人一人分のエネルギーが空っぽなのだ。

 全快にまで持っていかなくても、半分近くを満たさなくてはまず魂と体は繋がらない。

 それは術者側も死人しびとぎりぎりになるという事。

 そこまでエナジーを吐き出す行為は、実際に寿命を縮めるとさえ言われている。まさしく命を削る行為なのだ。

 

 だから通常は一体につき、最低2人以上でかかるのが常識だ。出来れば最高級のヒール心療系ポーションやスタミナポーションも用意したい。

 これは術者以外に、半死半生で生き返った患者自身にも使うためだ。


 また実際やればわかるが、半死半生にもなると力が急激に出せなくなるものだ。

 映画などで、急所をやられても最後の力を振り絞って立ち回るなどのシーンがあるが、本当にそうなったら大概はその瞬間に力が入らなくなる。

 体が否応なくそう反応してしまうからだ。 


 だがそこを気力でリミッターを外し、他人のために最後まで力を振り絞れる行為こそが、まさしく真の聖者たる者のゆえんなのだ。


 そうしてこれ程ではないにしろ『再生』や『回復』でも細胞を治すために、そして『ヒーリング』にも使われるものだった。


『ヒーリング』は簡単に言うと、疲れや弱った体に体力・気力を流してやることだが、それは生気の一部なのだ。

 回復力活性化の後押しとして流すのではなく、やんわりと触れるように流してやる。

 冷えた手足を温める際は擦ったりするが、癒すなら優しく撫でるという感じだ。

 場合にもよるが、治療とは違って薄く軽くがコツである。


 俺は以前、診療で疲れたハルベリー先生相手に何度か練習したことがある。

 始めのうちはギクシャクして、間違って魔力を流したりしていたが、そのうちコツを掴んでなんとか生命エナジーだけを出せるようになってきた。


 すると先生から、俺のエナジーは『100年モノのワインのようだ』というお褒めの言葉を頂いた。もしくは『ドラゴンの血にも似ている』と。

 何というか、余り味わった事のない芳醇なエネルギーを感じるのだそうだ。

 自分では分からないが、やはり普通とは違ってかなり濃いようだ。


 だからヒーリングのようなヤワな仕様に使うよりも、回復や再生の治療向きらしい。

 何しろまだまだ未発達とはいえ、俺は魔族どころか半神なのだ。

 エナジーだけは人の聖者より強いはずだ。


 しかもヨエルの魂はまだ体に残っている。

 蘇生どころか回復も技量的にはまだまだ実習生だが、ここはビギナーズラックに賭けたい。


「う~ん、まあ全く可能性ゼロじゃないが、今のお前じゃ失敗する確率の方が遥かに高いからなあ」

 ヴァリアスが顎をポリポリと掻きながら、眉をしかめた。

「なんだよ、その言い方。普通こういう時は、やってみろとかげきを飛ばすもんじゃないのか?

 そんなこと言われたら気が萎えるじゃねえか。それでも守護者かよ!」

 自信があるとないとじゃ成功に響くんだぞ。


 すると奴は顔を引くと、上から見下ろしながら言ってきた。

「じゃあもし上手くいかなかった時はどうする気だ? 

 お前1人が玉砕する分には、まあメンタルの心配はあるがそれだけで済む。

 だが、アイツは?

 望みを持たせておいて落とすのか?」


 ぐっ、それは……!


 確かに初めての挑戦なのでどこまで出来るか自信はない。

 せめてヨエルを仮死状態までに持っていく事が出来れば、地上に連れて行けるのじゃないか。そうすればギルドの手を借りて治療を、と考えたりしていた。


 だが、その仮死までに本当に出来るのか。

 期待させておいてやはり失敗したら――


 また俺の頭に最悪の結果がムクムクと浮かび上がってきた。

 これ以上、彼を失望させたくない……。


 しかしそうなると俺に今できる最善の方法は、彼に祝福を与えて天に送ることになってしまう。

 彼から未来を奪い、エイダから恋人を奪う。

 最善で最悪のシナリオだ。

 蘇生が……、蘇生術さえ使えたら…………!


 俺は顔を上げた。

「じゃあもしも駄目だったら、その時は、俺は蘇生術をマスターするっ!

 俺にはその素質があるんだろ?」

 奴が片眉を上げる。

「まあな。時間はかかりそうだが」


「じゃあ昼も夜もずっと寝ないでやってやるさっ。

 何年かかっても、絶対にヨエルを生き返らせるんだ。

 いや、一日でも早く戻すために、こっちでずーっと修行してやるよっ!」


 この時の俺は、まるで不治の病にかかった親を治すために医者を目指す子供のような心境だった。やれば出来るの一念だった。


 幸い俺の収納に入れた物は時間が止まったままで保てる。

 生き物は入れられないが、死体なら永久保存が出来る。

 ただし、その時は魂が剥がれてしまうから、ヨエル自身にはこの世のどこかで待っててもらうしかない。

 そんな先の見えない希望を、彼が信じてくれればの話だが。  


「ほぉ~、つまり地球に戻らず、こっちでずっと修行するつもりって事だな」

 サメがニーっと口を三日月型にした。

「あ、くそっ、まさか妙な気を起こしたりはしないだろうな?!」

 こいつは俺がこちらアドアステラの籍になることを願ってるのだ。

 なら俺が失敗して、まんまとこちらで修行する羽目になるよう仕向けるのでは。


「そんな真似するわけないだろ」

 そう言うが、そのにやけた顔がとても信用ならない。

「それならどっちに転んでも、お前の修練になるからな。

 もちろんお前の行動を尊重する。邪魔なんかしねえよ」

「本当だな。……まあ、邪魔も手助けもしてくれないんだろうが」


「蘇生の練習ならいくらでも手助けしてやるぞ。まず教材が必要だろ。

 だったらオークかゴブリン辺りがいいな。アレなら人に近いからやり易いぞ」

「なんで失敗前提なんだよっ! しかもまたオークって……」


 でも蘇生の練習って、そう言う事になるのか。

 見方を変えれば命を実験台に弄ぶ事になる。いくら罪人とはいえモルモットにするのか。

 今更ながらに現実の重さを感じた。本当にやれるのか俺……。


 いいやっ、今はとにかく決めた事をやるしかねえっ! 余計な事を考えるな!

 俺は頬を両手で張った。


 と、勢い込んでみたものの、まずその前に解決しなければならない問題が残っていた。

 この広い迷宮の中で、彼を見つけなければならないのだ。

 

 シャンデリアの揺れは、やっと子供が漕ぐブランコ並みになってきた。

 下から湧き出していたあの白い霧も段々と薄くなってきている。

 そうしてあらためて辺りを見て愕然とした。

 風景が変わっていたのだ。


 先程まで4車線道路ほどあった石畳の通路は、緩いカーブを描いた一本道だった。

 その両側を赤茶色の煉瓦壁が高く挟むように奥に続き、まるで古城の廊下を思わせる情景だった。


 だが霧が晴れてきた眼下に現れてきたのは、あちこちに石畳の割れ目からはみ出すように伸びてきた草や蔓の植物群だった。平らだった敷石のブロックは押し上げられ隆起している。

 壁にも繁殖力の強そうな蔓が伸びている。

 まるで何十年も放置された屋敷の庭のようだ。


 さらに壁も変形していた。

 たまにしか出現しなかった通路の穴が、今や被弾の痕のようにボコボコと現れていた。

 

 もちろん整った丸状ではなく、歪んだ楕円や菱形など、地面に接しているどころか壁の真ん中や天井にまで口を開けている。

 まるでとろけた穴あきチーズみたいだ。

 

 しかも山間トンネルほどに奥行があった壁が今やずい分と薄くなり、向こう側がすぐ見えるほどになっていた。もはやただの分厚い壁である。

 おかげで内部に隠れていたトラップがあちこちからはみ出して、発掘された遺跡のごとく姿を現わにしていた。


 おかげで探知しなくても罠を目視出来るようになったが、逆に通れる場所が増えてしまった。

 大きな一本道が千の分かれ道となってしまったのだ。


改変リフォームはまだ終わってないぞ。これからまだまだ変動する」

 それはつまり入る度に新しくなる『不思議ダンジョン』どころか、居る最中に変化するってことか。

 じゃあ一度通った場所がまるっきり変わる場合もあるのか。

 なんてこった! 後から後から妨害ばっかり起こりやがる。


 最大限に探知を広げて彼の痕跡を探したが、先程のシャッ揺れフルでオーラまで霧散してしまったらしく微かに気配は感じるのだが、それがどこに続いているのかが分からなくなってしまった。

 すでに俺の探知範囲にもいないのだ。


 くう……、これはもう当てずっぽうに、この迷宮内を探さなくてはいけないのか。

 ヨエルが3層以上には行けないらしいのがある意味救いだが、彼の方が探知能力は格段に上だ。

 もし俺が近寄るのを避けられたら、もう見つける事さえできない、永遠に終わらない鬼ごっこになってしまう。


「いや、向こうもお前と会う気ではいるようだぞ」

 チラッと斜め下に視線を向けながら奴が言った。

「ひと暴れし終わってから送って欲しいみたいだ」

 管理人からのヨエルの伝言だった。


「ひと暴れって……、それが済んだら戻って来てくれるのか?」

 せめてまた会う気でいてくれるなら希望が持てる。

「ああ、ただどんな状態になるかは保証は出来ないけどな」

 奴が軽く肩を上げる。

「今のアイツは壊れても動ける生きた死リビングデッド人だ。ムチャし放題だからな」

「それじゃ元も子もねえじゃねえかよぉ」

 破損が酷くなればなるほど、当然蘇生は困難になる。

 やはり待ってるだけじゃ駄目だ。少しでも早く見つけ出さないと。


 もう闇雲でもいいからとにかく捜索だ。

 俺は勘を頼りに行動するべく、下に降りようとした。


 ふいに奴が俺の肩越しを睨んだ。


「大変そうだね。手伝おうか?」

 その声に振り向くと、シャンデリアの支柱の反対側に黒い姿をした男が立っていた。


 黒いサーコートに黒いシャツ、黒髪にグレーのメッシュ、場違いな笑みを見せるその顔、リブリース様だ。

「やあ、頑張ってるね、ソーヤ君」

 いつも通りニコニコしながら、まだシーソーのように揺れるシャンデリアの腕の上をスタスタと歩いてきた。

「なんだお前、何しに来やがった?!」

 サメがまた不機嫌な顔をした。


「なにって陣中見舞いだよ。あっちアジーレはもう済んだけど、ここはまだこれからでしょ? なんか苦労してるみたいだしさ」

「終わったんならサッサと帰れよ。ヒマこいて邪魔しに来るんじゃねえよ」

 それからヴァリアスが、左上にも視線を動かした。


 同じ方向に目を向けると、空中に黒い惑星が浮いていた。その球体のまわりに10個近くの銀色の月がバラバラな軌道で廻っている。

 ああ、リブリース様直属の天使様か。


「なんだ、無事に終わったんじゃねえのか? グレゴールの奴、毒でもかっ喰らったみたいな顔してるぞ」

 ヴァリアスはそう言うが、昨日と違って今の闇の天使長グレゴールは全面黒一色である。

 目だとか口とかあの捻じれた牙とか、全く何も見えない。強いて言えば表面の漆黒が微かに脈動しているくらいか。

 どういう表情なんだ。


「気にするなよ。こいつはただの心配性なんだ」

 その言葉に黒い惑星の表面に、ブルッとさざ波が立った。

「それよりもヴァリー、ちょっとソーヤ君に厳しすぎるんじゃないの?」

「ア”?」


「だからさあ、難解な問題を出しておいてなんのヒントも無しじゃあ、やる気どころか自信も無くしちゃうよ。ちょっとはサポートして上げないとさ。

 そうだよねぇ、ソーヤ君」

 俺の方に同意を求めるように小首を傾げる。


 俺が激しく同意しようと口を動かす前に、奴が激しく反論怒鳴ったした。

「なんだとっ! てめえ、オレがなんにもしてねえとでも思ってるのかっ!! お前に言われなくてもちゃんとサポートしてるわっ」

 サメが牙を打ち鳴らす。


「そんなことは全然思ってないよ。

 たださあ、おれ達が(主達に)されたみたいなやり方は、人間には酷なんだよ。

 人は脆い生き物だろう。

 だからもう少し相手に寄り添ったやり方にしてあげないと」

「お前が寄り添ってるのは女だけじゃねえかよ」

「ヤダなあ、これでも野郎だって助けてるんだよ。まあ数えられるぐらいだけどね」

 そう黒いナンパ男はヘラヘラと笑った。


「リブリース様、お話中にすいませんが、ちょっと私、急ぎたいので」

 今は使徒の口喧嘩に付き合ってる暇はない。

 すると黒い使徒は俺の方に、すっと右手を伸ばしてきた。


「ああ、勿体付けててゴメンね。

 なんだか見てたらじれったくなってさ。だからちょこっとだけ『眼』を貸してあげようと思ってね」

 そう言って俺の額に触れた。

 

 突然額から何かが広がった感覚が起こった。




   ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 次回は、ただのナンパ師じゃなかったリブリースの一面と、

 闇を制する者は世界を制する『イッツ・ア・スモールワールド』が発動。

 某夢の国とはなんの関係もないですけど(^_^;)


 

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