第208話☆ 逝く女 と 番人


 誰かが泣いている。

 誰かしら……。何がそんなに悲しいの?


 サーシャは朦朧とする頭で思った。

 全身がゆらゆらと揺らめく水面に浮かぶように、不安定に心許なく揺れている。

 うっかり力を入れたら沈んでしまいそうだ。

 けれど実際には漂っているだけで、落ちていくことはなかった。


 ゆっくりと声のする方に視線を向けると、床にしゃがみ込む2人の男の姿がスッと大きく映った。

 まるで鷹の目で見ているようだ。

 対象に集中するとそれが瞬時にクローズアップされるように。


 どうにも視覚が変化してしまったようだ。彼らの姿やまわりが透明ガラス瓶越しに見るにも似て、輪郭が湾曲して見えるのだ。


 こちらに背を向けて屈みこんでいるこの大きな背中、覚えがある。そうしてその向かいで嗚咽を漏らしている老人、彼も知っている。


 ロイエは何故泣いているの? もう涙を流すことは止めたんじゃなかったの。

 メラッドは……。

 そう思った途端、クルッと今度は2人の位置が入れ替わり、メラッドの正面をみる事が出来た。

 サーシャは一歩どころか、目さえ動かしていないのに。


 大男のメラッドのまわりから黒い闇が漏れ出していた。それは抑えきれぬ哀哭の代わりだ。彼は声を押し殺して泣いていた。

 サーシャはそんな2人の男の様子を、小首を傾げながら眺めていた。 


 意識は波間に辛うじて揺蕩たゆたう泡のようだ。浮かんではすぐに消え、また浮かぶ。後から後から。


 この感覚、以前にも何度かことがあった。

 ああ、そうね。こういう時は少し集中しないと、意識がこの状態に慣れるまで流されてしまうのよね。

 

 そうして2人の足元に目を向けた。

 そこにはサーシャ自身がいた。

 

 艶のある赤紫と銀色の流れる髪が、石畳の上に広がったスミレの華のようだった。

 顔は眠るように目を閉じている。

 だがその顎から首、胸にかけて赤い花びらが散っていた。


 そして傍に外して置いてあるボルドー色に染めた革の胸当てには、さらに真っ赤な大輪の華のごとき穴が開いいた。

 

 まあ、せっかくのお気に入りの胸当てが台無しだ。

 血糊で金糸銀糸の刺繍もすっかり汚れてしまっている。

 

 それは鎧と言ってもコルセット風で、胸も下部半分しか覆っていない。背中と前にも接続部分の隙間が開き過ぎていて、そのままでは防御としての効果は薄い物だった。

 元々パレードや社交場など、人に見せる為に使用する飾り鎧。

 実用度よりも自分の気に入った物を重視する、サーシャの我がままだった。


 ただその脆弱性を補うために、護符アミュレットにより守護されていた。

 それは魔力によって強化されていたはずなのだが。


 だから本来ならば、ヨエルの発したウォーハンドも弾かれるはずだった。

 ただヨエルはそういう護符による守りの破り方を知っていた。


 1つはそれ以上の魔力で流して、力で焼き切る方法。

 そうしてもう1つは一番波動の弱い時を狙うのである。


 魔力による守護は、万遍なく包み込む膜のように感じられて、実は細かく変化している。

 それはまるで、複雑なモールス信号のように繰り返されているのだ。

 永遠に続く海の波にも変化があるように、魔力の流れも高くなれば低くなる時もある。必ず薄く伸びるような、またはほんの束の間途切れるにも似た時が、波動にはある。

 そうして息を吐いた時に筋肉が弛緩するがごとく、その時が守りの力が弱まる瞬間なのだ。


 ヨエルはその瞬間を突いた。

 もちろんこれは見抜くための集中と流れを読む力、何よりも時間が必要だったが、あの時その時間を与えてしまっていた。

 彼を少し過小評価していたのが命取りとなってしまった。



『 アネサァンンンン……ドゥゥシテェェ…… 』

 大男がむせび泣く声が、妙にくぐもりながら反響して聞こえて来る。まるで耳が酷く詰まってしまったみたいだ。

 この感覚も知っていると、サーシャは思った。


 それは死者たちと会話する時、彼らの声、そしてなのだ。


 サーシャは今まで何百何千という、肉体から離れた者たちと接してきた。

 そうして死んで間もない者たちは、生前の感覚が抜けきれず、その新しい感覚への戸惑いが多い。

 だからこちらの呼びかけに対しても、明確な反応を表せない事が多い。

 いわゆる生きた人とは違うと思われる態度や話し方だ。

 かつてサーシャは、そうした者たちと生者の橋渡し役をしていた。


 とうとう私も、になってしまったようね。

 もう少し生きるつもりだったからちょっぴり残念だけど、それだけ。特に悔やみも哀しみもない。

 だけど2人の様子はどうだろう。


 なんでそんなに嘆くことがあるの。

 別れる時が必ず来るのはわかっていたはずなのに。

 別れはいつも突然なものよ。それは何度も話したはずじゃない。

 それにいつかはまた会えるわよ。


 そう思いながら彼女は2人に話しかけた。

 だが、一向に彼らは彼女に気がつかない。 


 無理もない。ロイエ達は精神波にも敏感な魔法使いタイプではないし、霊感も探知の能力もないのだ。


 いざ自分がこの立場になると上手くいかないものね。よく知っていたはずなのに、彼らに声を伝えるのがこんなに難しいなんて。


 さすがのサーシャも肉体を完全に無くした状態では勝手が違っていた。

 あの怨霊アーロンでさえも、その力を現実に及ぼすのに数日かかったのだ。

 やはり慣れる時間が必要だった。


「姐御……」

 その声に振り返ると、よく知った小男が傍に立っていた。

「ああ、フューリィ、いたのね」

 サーシャは両腕を前に広げた。

 しかしフューリィは一瞬嬉しそうな顔はしたが、すぐに下を向いた。


「すまねぇ、姐御……。

 ……おいらがヘマしたばっかりに……姐御まで……」

 深く頭を垂れた。


「もう、お前は死んでも馬鹿ねぇ」

 スッと柔らかい手がフューリィの顔に触れた。

「そんなこと気にしなくていいのよ。

 これは私の意思で動いた結果なんだから」

 声に咎める気は感じられない。彼女は確かに微笑んでいた。


「あ、姐御、おいら――」

 フューリィが顔を上げた。


【 お前は――どうする? 】


 いつの間にか横に修道僧のような姿をした人物が立っていた。

 焦げ茶色の長いローブを着て、深いフードの奥には黒い仮面をつけている。

 その漆黒の面には、赤々と燃える穴が2つ開いていた。


「誰? 人ではないようだけど」

 今まで精霊や人でない者たちと交流のあった彼女は、相手の正体が分からずとも物怖じせずに問うた。


【 我は ここの番人、管理人だ。

  このダンジョン内なら 我に権限がある 】

 若いのか年寄りなのか、判然としない声で番人は答えた。


【 この男はお前と一緒にいる事を望んだ。だから逝かせずに連れてきた。

  それでお前はどうしたい 】

 仮面の奥の炎が揺らいでサーシャをジッと見つめた。


「私は誰の指図も受けないわ。

 私は私、これからも自由にやっていくだけよ」

 番人はゆっくり頷いた。

【 わかった―― それなら力を貸してやろうか 】



   ******



 ロイエは泣きながら、サーシャの胸に両手を重ね、圧迫と解除を繰り返していた。いわゆる心臓マッサージだ。

「サーシャ、戻って来いっ! サーシャァ」 


 その傍でメラッドが、闇の膜でダンジョンに生気を吸収されないように彼女のまわりを保護していた。

「……おれが……うっ、後ろを注意してれば……」

 全ては『たら・れば』であるが、言わずにはいられない。


 彼らは即座にすべき事はしていた。

 彼女が床に崩れ落ちる前に、メラッドが受け止め、ロイエがキュアポーションをかけていた。

 床に横たえた後にも、続いて2本目を傷に降り注いだ。


 しかし破損した傷まわりが修復されていくのに、彼女の綺麗な胸の中央には歪な凹みが残った。

 そこにあるべき臓器がないからだ。

 

 ポーションはもちろん破損個所を修復していく。傷ついた細胞を高速で再生させ傷口を閉じていく。

 だが臓器がまったく損失された状態では、それを新たに作ることなど出来ないのだ。


 それはポーションがあくまで自己回復力を高めているからに過ぎない。

 人は失った手足をトカゲにように再生させる能力は持たない。

 もしも落した手足なりがあり、それを再びつけるとするならば、高度な能力を持つ治療師の人為的操作でなら可能だろう。

 または神の薬とも称される『エリクシル万能薬』なら、まさに一からの再生も可能だ。


 だがここにはそんな凄腕の治療師はいないし、『エリクシル』は王侯貴族たちがまさに国宝のごとく厳重に管理している。

 仮令たとえハイポーションより上のスプレマシーでも、臓器を一から作り出す事は出来ない。

 彼女の胸の中にはソレがあった部分に空洞が空き、行き場を失った太い血管はポンプ無しで繋がった、ただのパイプと化してしまった。

 むろんそのままでは血液が動くことはない。

 残念なことに2人とも『水』の能力者でもなかった。


 だからこそ応急処置として、胸骨圧迫マッサージにてポンプの代わりに血液を送り出すことにロイエはやっきになった。

 このまま血液を動かし、体を維持している間に、誰かを犠牲にして心臓を提供する気だった。

 もし獲物が見つからなくても、自分かメラッドのどちらかが自ら望んだ事だろう。

 

 だが、元々これは望み無き行為だった。

 まずハイポーション程度では移植は無理だったし、彼女が再び目を開ける事は無かったのだから。


 ロイエの手の下で、どんどんエナジーが引いていくのが感じられた。

 それはダンジョンに吸収されずとも、おのずと外部に漏れ出す生気だった。

 肉体という器に入っていた、エナジーの元が無くなったからである。

 やがてこれ以上、彼女の体を痛めるべきではないという思いに至り、そっと手を外した。


「…………サーシャがぁっ、わたしのサーシャがまた死んでしまったぁ!」

 ロイエが慟哭しながら天を仰いだ。

「また守ってやれなかったぁ……」


「クソッ くそぉっ…… 姐さん……どうしてだよぉ……。

 なんでこんな早くいっちまうんだよぉ……」

 メラッドは床を何度も叩いていた。

 敷石にヒビが入っていくが、彼の拳も割れて赤い血が辺りに飛び散る。

 それが彼から溢れ出した闇に散っていく花びらのようだった。


「メラッド……、そうやって自分を傷つけるのは止しなさいと言ったでしょう。

 その怒りはあなたの真敵に向けなさい」

 大男は思わず床を殴る手を止めると顔を声のした方に向けた。

「ロイエ、あなたもよ。泣いたってしょうがないわ。それで気が済むならいいけど、あなたの場合、余計悲しくなるだけでしょう?」


「おお、サーシャ……!」

 横たわった彼女の目が開いていた。口が確かに動いている。

 老人が震える手で、彼女の手を握った。

 だが手から生気は感じられなかった。


「残念だけど、あまり時間がないの。

 今はこうして話すことしか出来ないから、2人に最後のお願いがあるのよ」

「最後ぉ……?! 最後なんて言わないでくれ……」

 老人がまた震え出す。


「私をダンジョンの亀裂、『エナジースポット』に連れていって欲しいの」

 サーシャは2人の顔を交互に見た。

「あの煌めく光の中に私を入れて欲しいのよ」

 


   ******



 黒い波の塊りが壁を走り流れていく。

 それは中央が大きく盛り上がり、まるで海面に頭を出した黒い海坊主のようだ。

 俺はその後を追いかけながら、その泥塊を抑えようとしていた。

 

 ヨエルが中にいるのに、しかも素早く動くこんな不定形なヤツ相手には電撃は使えない。

 制御するとはいえ、もし彼に流れでもしたら、生命力の弱った体に止めを刺しかねないからだ。


 それにまずハンターが、床や壁の中に消え去るのを防ぐのに必死だった。

 今の俺に出来るのは、あの狂暴な土がヨエルを一気にミンチにしないように圧を抑える事で精一杯だ。

 ヤツの足止めもままならない。


 何しろ今走っているこの通路にも罠がある。俺まで罠に引っかかったら全て終わりだ。探知にも魔力と気を配らなくてはならないのだ。

 もっと強い力を持っていれば、逆に土を飛散させることも出来るのに――

 そんな思いが頭をかすめるが、後悔している暇ない。 


 ハンターは緩く曲がる壁を流れるように移動していたが、急に現れた横穴に入り込んだ。

 俺も急いで後を追う。


 幸いそこは、罠の多い明るい穴道ではなかった。

 しかし内部は上下左右にと曲がりくねり、急勾配が走りづらい。それに罠が絶対に無いとは言い切れない。

 

 泥球が筒状のスライダーを流れるマリのように縦横無尽に滑っていく。

 転移をしたくても『土』にかける力を一瞬でも緩められず、更に高速移動する対象に位置が定まらない。


 なんとか接触することが出来れば――

 歯がゆさについ気が散りそうになる。いかん、集中しないと。


 大きく左に折れると、その先に小さな明かりが見えた。通路だ。

 通路に出たら今度こそ一気に距離を詰めてやる。


 と、その手前のトンネルの中にボウッと灰色の影が現れた。

 緩いウェーブの黒髪を背中の半分まで垂らし、俯くように頭を下げてこちらに背を向けている。


 今は恐いどころか邪魔でしかない。とっとと退いてくれっ!


 その女の亡霊は迫りくる気配にこちらに振り向いた。

 白っぽい服の胸の真ん中には、黒い染みが大きく広がっている。

 そうして怯えるように目を見開いた。


 ―― 由利子 ?!――


 俺はほんの一瞬だが、女の顔に気を取られてしまった。

 だがすぐにあの黒い土球が女にぶつかると、亡霊は霧のように散っていった。


 ―― しかしあの顔 ―― 俺を恐がり、化け物を見る目に変化した、愛しい彼女の残酷な瞳にそっくりな ――


 胸が圧迫されて息がしづらくなる。

 もうあの失恋の痛手は癒えたと思っていたのに、なんでいきなりこんな事を思い出すんだ。

 

 たまたま似ていただけだ。第一彼女は日本人だ。ここにいる訳がない。

 もうどこでどうしているのか、彼女の生死さえも知らないのに。


 この生々しさはあのサーシャが仕掛けた闇の名残り、俺の心の闇を引きずり出そうとした残滓のせいだった。


 クソッ 今ので距離が開いてしまった。

 俺はすぐに現実に頭を切り替えた。

 今は自分のいじましい後悔に足をすくわれている場合じゃないんだ。


 だが本当の闇はもっと深く、罪深いものだった事を、俺はこの時すっかり忘れていた。

 それはもっと後になってから思い出すのだが。


 『土制御』の渾身の力を送ったと同時に、ヤツの姿がフッと見えなくなった。

 通路に出たのだ。

 俺もすぐに外に飛び出した。 


 いないっ!? 

 左右にはゆるりとした曲線を描く赤煉瓦の壁と石畳、薄明るい光りを投げかけるシャンデリアは微動だにしていない。

 左奥にまたポッカリあいた横穴が見える。

 だが、それ以外何も見えなかった。


 あの穴に入ったのか? 

 それか左右どちらかに行ったのか。

 もしくはとうとう吸い込まれてしまったのか……。

 俺は辺りを慌てて探知しようとした。


 その時、誰かが俺を呼ぶ声がした。

「ソーヤ……」

 振り返ると、奥の横穴から知っている顔が覗いていた。

「エッボ、パネラ!」

 エッボが辺りを警戒しながら、手招きした。


「みんなもこっちに来てたのか。じゃあハンターを見なかったか?」

 俺は再会の喜びもそこそこに訊ねた。


「ああ、おいら達、1層からここに飛ばされて―― 

 ハンターならさっき前を通って行ったよ。あっちに向かって行ったようだけど」

 エッボが右の方を指さした。

「凄い勢いでやって来たから、おいら達ここに隠れたんだ」


 俺は礼もそこそこにすぐに走りだした。

 もしかすると潜ってしまったかもしれない。

 だがそうせずにはいられない。

 そのまま移動したのか、潜った痕跡がないか、必死で触手アンテナを張った。


 だが離れすぎたのか、もう自分のかけた『土』の気も感じられない。

 厄介な事にハンター自身の残留オーラは、このダンジョンの一部でもあるので紛れてしまってよく分からないのだ。


 挫けそうになった時、エッボ達が走り寄って来た。

「ソーヤ、ハンターを追ってるのか?」

「……そうなんだ、ヨエルが、そのハンターに連れてかれて……」


 そう口にしたら、やはり絶望的な気持ちが込み上げてきた。 

 彼は最後まで俺をかばって身代わりになった。

 俺は究極死ぬことはないのに、酷い目に遭うのが怖くて彼に甘えていたせいだ。


「ああ、だからさっきのハンターの形は半球状だったのね」

 パネラが合点がいったという感じに太い眉を動かした。

「あの人がハンターにやられたなんて信じられないけど、とにかくまだ助かる見込みはあるよ」

 エッボが励ますように肩を叩いて来た。

「すぐに獲物を捕まえたら、すぐに土中に潜るのがあいつらの性質なんだ。

 それが出来ないのは、獲物が死にきらずに抵抗しているせいだよ」


 でもそれは俺が制御していたから……。

 だが、俺の手から離れた後も潜らなかったのは、ヨエルの抵抗があったから?

 


「でも、もう潜ったかも……」

「いや、潜ってなさそうだよ。匂いがずっと続いてる。多分地上に出たまま移動し続けてるんだ」

 そうエッボが通路の奥に鼻を動かした。


 それを聞いて俺は再び走りだしていた。

「エッボ、一緒に来てくれっ!」

「もちろんだっ!」

 2人は俺の左右に並んで走りだした。意外とパネラが俊足なのに驚いたが、今はナゼと考えないようにする。


 たまに出現する横道にも逸れず、ハンターはそのまま本通路上を移動しているらしい。潜ったのなら匂いもそこで消えるはずだと、エッボが言った。


「そういや兄さんは?」

 パネラがヴァリアスの事を指して訊いてきた。

 あんな奴、心配なんか要らないのに。

「知らんっ、勝手にはぐれた」

 つい突っけんどんに言ってしまった。それから俺も思い出した。

 

「あ、ポーなんだけど――」

 その名前を出した途端、パネラがふと暗い顔をした。

「……あの子には可哀想なことしたわ……。やっぱり連れて来なきゃ良かったかも」

「いや、ポーなら無事だよ。怪我は俺たちが治したから」


「「えぇっ! 会ったの!?」」

 2人が左右から同時に喋った。もうダブルスピーカーだな。

「うん、ただ、すぐにはぐれちゃったんだけど……」


「ソーヤ、あんた素敵よっ!」

 走りながらパネラが首に抱きつこうとして来た。

「待て待てっ、それは後にしてくれっ。今はヨエルを助けないと」


「きっと大丈夫よ。あの人かなり強いもの。そう簡単にやられはしないわよ」

 パネラが力強く言い、エッボが頷いた。 


 ああ、神様、その最後の希望にかけますよっ!


 だがそういう願いをかけた時に限って、運命は悪戯な笑みを見せるのものなのだ。


 更に加速しようとした次の瞬間、探知でも引っかからなかった罠が出現した。




  ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 相変わらず描いていくとドンドン長くなってしまいますね。

 なかなかエピソードが削れないです💧


 由利子は昔、蒼也を振った元カノの名前です。

 トラウマを引きずり出す罠は、別の目で見ると蒼也を鍛え直すためには欠かせない試練ですので、彼女のエピソードはあらためて第4章に出します。


 次回でやっと長い2日目が終わります。

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