第178話☆  hunter vs ハンター


「ネズミの次はなんだ、この臭いっ?! ハンターでもいるのか」

 ハスもどきの群れの先から、急に声が上がった。

 誰かがこのエリアに入ってきたようだ。


「うわっ、くっせえなあ。これじゃ下水溝と変わんねぇぜ」

「いや、さすがにそれとは違うだろ」

 2人いる?

 俺達にはもうわからないが、そんなに臭うのかな? 鼻が慣れてきて馬鹿になってるのだろうか。

 服に臭いがついてしまったらヤダなあ。


 緑の茎の間から、黒とグレーのツートンカラーに『†』の剣を示すシンボルマークが見えた。

 ヒュームと大きな獣人が2人、俺達の前に現れた。


「なんでこんなとこに警吏くんだりがいるんだ?」

 ヨエルが呟くように言った。

 俺の横でレッカも呆然としている。

 そうなのか? 警吏ってダンジョンには来ないのか。


「あっ やっぱり、嗅ぎ覚えのある匂いだと思ったら――」

 1人がこちらを見て言ってきた。

 俺もその男には見覚えがあった。


「犬のお巡りさんっ」

 1人はあの祭りの街で、ポーと出会った時にいたユエリア月の目人ンの警吏だった。

「――お巡りって何だよ?」

 金目のユエリアンがちょっと眉を寄せて近づいて来た。

 さすがに今日は犬のお面はしていないようだ。

「いや、その……ウチの地元の警吏さんを指す方言です……」

 みんな犬じゃないけど。


「知り合いか?」

 犬じゃなく、なんだか熊っぽい大きな獣人が相方に訊ねる。

「ああ、この間、街で会ったことがあるだけだが」

 そう言いながら、もう1人はどうした? と訊いてきた。

「あの時ユエリアンが一緒だったろ、銀目の」

 

 ユエリアンじゃないんだが、あの時ヴァリアスは口を隠していた。多重歯さえ見せなければ一般的にユエリアンだと思うんだろうなあ。それか魔人か。

 ヨエルもそこのところはスルーしてる。


「ん、今3人で、そのユエリアンがいないのか? さっきまではいたんだよな?」

 なんでさっきまでヴァリアスがいたのを知ってるんだろ? 

 あいつは匂わないはずだが。


「あの人は用があって、ちょっと別行動してる」

 ヨエルがすかさず返答した。

 さすがは師匠、あいつが呑みに行ってるとは表現しない。

「それにちょうど良かった。こいつを保護してやってくれ。遭難者だ」

 そう言ってレッカを前に引っ張り出した。

 レッカは助かるというのに、警察に突き出された万引き犯のように、何故かオドオドした顔をこちらに向けてくる。 


「そういや、はぐれた仲間というのは見つかったのか?」と獣人。

「えっ、なんでそれを知ってるんです? ええ見つかりました。彼ですけど」

 警吏って、人の行動記録みたいなのを読み取る能力でもあるのか? 

 まさか花粉採りから聞いていたとは、この時は思いつかなかった。

 ただ師匠は感づいていたようで、眉1つ変えなかった。

 そしてまたレッカはビクついている。


「お前、あの山猫の飼い主の――ああ、あの娘の言ってた兄って、そう言う事か……」

 ユエリアンがレッカにも気がついたようだ。


「旦那たち、その兄ちゃんはまだショックが抜けてないから、あんまり問い詰めないでやってくれよ。

 でないとモモンガみたいに死んじまいそうだから」

 ヨエルがすかさず警吏に告げる。

「うん、まあそうだな、なんだか色々あったようだな」

 と、獣人があらためてレッカの体を見回しながら頷いた。

「わかってるよ。おれ達も今、野暮な小者に付き合ってるほど暇じゃねぇから」

 金目の警吏が、ヨエルの意図を読み取ったようだ。


「歩けるか? とりあえずこれ飲んで。上でホールの治癒師に診てもらおう」

 大きな警吏が腰のポーチから、小瓶を取り出した。

「あ、ありがとうございます」

 レッカはそのヒールポーションを飲んで、だいぶ落ち着けたようだった。

 震えが収まった。

 熊さん、見かけの割に優しい。なんだか『森のクマさん』みたい。


「そうそう、その前にこいつら見なかったか?」

 勝手知ったるように、金目がクマさんの腰のポーチから丸めた紙を引っ張り出してきた。

 それは4枚の手配書だった。

 あれ、これ以前、あの情報屋のとこにあった手配書と同じだ。

 ヨエルがゆっくりめくるのを、横で見ながら思い出した。


「こいつは小柄なんだな?」

 うち1枚のを手にヨエルが警吏に訊き返す。

「そうだ、そこに書いてある情報通りなら、『ベーシスとリトルハンズのミックス』だ。心当たりあんのか?」

 それに答えず、また別の手配書にヨエルが見入る

「こっちは猪首の大柄な男……」

 俺もそう言われて思い出した。


 あの岩山の上で、ダンジョン浴をしていた謎の美女の近くにいた大男。

 顔は何故か良くわからなかったのだが、たしかにゴリラみたいな体格をしていた。

「あの時のゴリラ男と小さな影の――」

 1層でなんとか感じた小さな姿を、ヨエルは同じ輩だとか言ってなかったか?


「見たのか?」

 月の目が今度は俺の方に向いてきた。


「ええ、2層の岩山で似た感じの人を見ました。

 顔を半分マスクで隠した綺麗な女性と、そのお供みたいでしたけど」

 今までどこかのお忍びの貴族かなんかと考えてたが、指名手配犯と結びつくとは今まで考えもしなかった。

 あんまりに堂々とされていると、目くらましにあったように疑うことを忘れてしまう。

 とりあえず知っている事だけ話した。

 あくまで似ているという前提で。


 あれ、なんでいつの間に手を掴まれてるんだ? 俺はやましい事はないから逃げたりしないぞ。

 そして何故首を傾げてる? 嘘なんかついてないぞ。


「どうだ?」と、クマさんが金目に訊く。

「……あんたの護符、エラく強いなあ。何にもわからねぇ。ちょっとそれ外してくれねぇか」

「え……いや、これは……」

 何か探っていたのか。

 でもこれ外したら、あんな事やそんな事、余計なとこまで見透かされるんじゃないのか。

 俺は本当は異邦人どころか、異星人エイリアンなんだから。


「旦那、この兄ちゃんの事はおれが保証するよ。

 嘘はついてねぇし、依頼人のプライベートは守らなくちゃいけないんでね」

 ヨエルがそう言いながら、首から提げたプレートを見せた。

 本人を示すプレートを包む光が、ポウッと金色に輝いた。


 警吏の2人はちょっと顔を見合わせていたが

「まあ、いいか。確かに嘘じゃなさそうだし、じゃあとりあえず、あんたも身分証を――」

 そう言いかけてから、また俺のことを上から下まで見て

「そうだなあ、見えない事もないかもしれないが、女じゃないな。さすがに若い女と男の匂いくらい間違えねえし」

 隣のクマさんも頷いている。


 ナニ? 俺にどこか女疑惑でもあったのか?!

 あの変態野郎といい、何だってんだっ! このダンジョンはそんな幻でも見せる作用があるのか??

 それともそういう罠なのか??!

(作者注:もちろんダンジョンのせいじゃありません)

 なんか面白くないが怒っても仕方ないので、とりあえずハンタープレートを出そうとした。


「あっ いま何時だっ!?」

 ユエリアンが急に慌てた様子で、腰のポケットから懐中時計のようなモノを取り出した。


「ヤバいっ もうこんな時間かよっ! おいっ ギュンター、とっとと戻るぞっ」

「お、おう、じゃあ君、一緒に来て。地上まで連れてくから」

 クマさんがその大きな手で、レッカをヒョイと持ち上げた。そうして左腕だけで子供を抱くように持つ。

「あ、あの、有難うございましたっ」

 レッカも慌てて俺達にまた頭を下げた。


「あ、重要な情報アリガトな。早速署に連絡だっ」

 何故か急に焦りだした警吏2人は、俺のプレートも確認せずに壁の穴をそそくさと出ていった。


 ギュンターは隣の区画に出ると、元来た穴の方に向かおうとした。

「ギュンター、正攻法でいくと時間がかかり過ぎだ。ここはショートカットしようぜっ!」

「なに、そんな近道なんかあったか?」

「作ればいいだろ、いっちょやってくれよ」

「ナニっ! ここからかっ!?」

 ギュンターが暗緑色の目を大きくした。

 

「頼むよっ おれの家庭とおれの命のためだと思って」

 ユーリが頭を下げながら魔力ポーションを相方に差し出す。

「全部お前んとこの事情じゃねえかっ。……しょうがねぇなあ、今度肉奢れよ。

 あと、ここからだとちょっとキツいから、しっかり援護してくれよ」

 獣人は気乗りしなさそうだが、しっかり魔力は補給した。


「よし、じゃあここから行くぞ」

「おうっ 守備は任せろっ!」

 ボコッと足元に3m近くの穴が斜めに開いた。

 そのままユーリが先に中へ入っていく。続いてギュンターもレッカを抱えたまま飛び込んだ。



「大丈夫でしょうか。あの人たち、更に下に行っちゃったようですけど」

 俺達もまたあのネズミたちのエリアに戻ってきていた。

 そして目の前で、警吏たちが地面に穴を開けて入っていくのを見てしまったのである。

 一体何んなんだ。

 レッカを預けて大丈夫だったんだろうか。


「エラく強行突破だが、おそらく下じゃないよ。あいつら上にちゃんと向かって行ったと思う。

 思ったよりあの熊、強いな」

 ヨエルがスティックを軽く肩に当てながら言った。

「えっ? だって地面に穴開けて入って行きましたよ?」

「う~ん、そうなんだが、ここは外とは道理が違うから」

 何しろ捻じれてるからなと説明された。

 ナニそれ? ダンジョンって何でもアリなのか?


 それはこちらの人にとっては『朝になったら太陽が昇る』というのと同じくらい当たり前の感覚なのだ。

 おそらく試験にも出ないだろう。

 逆にこんな事にいちいち疑問を持っていたら、変わり者か、頭がイカれてるレッテルを貼られかねない。

 他所でそう言う事は言わない方がいいと注意された。


「それよりも、さっきよりネズ公の数が急激に減ったな。隣にでも移動したのか」

 師匠があたりを探りながら話題を変えてきた。

 そう言われれば、騒がしかったネズミランドも今や静かになって、ネズミの姿が見えなくなった。


「別のエリアにですか?」

 確かノズスは、エリアを移動することは滅多にないというハズだが。

「巣穴にもほとんどいないしなあ。さっきの蠕動ぜんどうにビビったか、それともハンターに殺られたのか……」

「え、さっきの土のモンスターがこっちにも?」


 しかし考えてみたら、あの下から移動してきた小部屋から3層こちらに出てきたのである。もうその時点で区画を跨いで、容易に移動してくることを思いつくべき事だった。


「ああ、その線が強いな。見ろよ、あれ」

 そうヨエルが指した方向には、さっき俺がつい葬ってしまったネズミの山があるはずだった。

 その証拠に、例のベストの残骸が土に半分埋もれた状態で落ちていた。

 だが、今やそこには草の上に散らばった赤茶と黒の毛と、僅かな血痕しか残っていない。


 いくら大勢でもこんなに早くは食べられないだろう。

 何か丸呑みにするようなヤツでもいない限り。


「やっぱり1体だけじゃなかったか」

 ヨエルが辺りにまた鋭く探知の触手を出し始めた。

 俺も探知では遠く及ばないので、耳をそばだてた。


 いきなり腕を掴まれて、前方に振り回された。

 同時にヨエルが背後に振り向きざま、ウォーハンドを突き出した。

 そのチューリップ状の切っ先が空中で止まる。


 唖然とする俺達の前に、灰色の霧が浮かび上がるように奴が姿を現した。

「オレに武器を向けるたあ、いい度胸してるじゃねぇか」

 そのピースのように立てた2本の指は、しっかりとウォーハンドの首を挟んでいた。


「え……あ……」

 師匠が固まってしまった。

「あんたっ、現れるなら堂々と前に出て来いよっ」

 俺はヨエルの前に出て、この無作法なサメに注意した。


「絶対ワザとだろっ?! 師匠は俺を守ろうとしてやったんじゃねぇかよ」

 このバカザメは今回、いつもの通りにいきなりではなく、徐々に隠蔽を解いて出現したのだ。

 いつもは気配も出さないのに、今はあるか無いかの僅かな空気の揺れを作って。

 

 だから俺より先に気配を感じ取ったヨエルが、反射的に反応してしまったのだ。

 しかもピリピリ緊張感の走ってるこの時に、わざわざ人の背後にフェードインしやがって。


「冗談だよ、冗談。ワルいな、お前がちゃんとコイツを守れるか試してみただけだ。

 いいぞ、及第点だ」

 サメが悪びれもせずにニヤリと牙を見せながら、ポンポンと彼の肩を叩いた。

「……はあ~、それはどうも……」

 ヨエルが力を抜いた。

「てんめぇっ、冗談じゃ済まされないことだってあるんだぞっ!」

 これがアメリカだったらまず撃たれているところだ。

 相変わらずこの野郎は~~~っ。


「まあまあ、……今はそんな事言ってる場合じゃない。

 旦那、さっきハンターが出現した。1体はヤったが、まだ他にいる可能性が高い」

 切り替えの早いヨエルが奴に説明する。


「ああ、知ってるぞ。さっき捕まえといた」

 そう言って横に手をかざすと、地面から黒い土がせり上がってきた。

 悪魔が使い魔を召喚した――――!


「お前にちゃんと見せようと思ってな。どうせ間近でよく見てないだろう?」

 生きた土塊はそのまま2m以上に伸びあがってきた。

「よっく視てみろ。エナジーが走ってるのがわかるだろ?」


 まるで黒板を指すように、白い爪が真っ黒な表面をなぞる。

 その爪の軌跡どおりに、赤や紫、時には白っぽく明滅する葉脈のようなモノがその中に走っていた。

 それは所々で交差し、太くなったり細くなったりして、まるで動物の血管を思わせた。


「蒼也、お前ちょっとコイツを押さえてみろ」

「え」

 俺の返事も待たずに、いきなり奴が土塊から力を離したのがわかった。目の前の黒い土砂が急にブルッと身動きしたからだ。

 慌ててヨエルが空気圧で動きを封じる。


「お前は手を出すなっ」

 奴がぴしゃりと言う。

「しかし……」

「コイツにやらせなくちゃ勉強になんねぇだろ。蒼也、やれっ」

 やれって言われても……。

 押さえるって、ここはやっぱり土には土か?

 俺は目の前の土塊を包み込む感じで圧力をかけた。


 代わりにヨエルの空気圧が抜けていく。どんどん土の抵抗が強くなってくるのがわかる。

 こなクソ、負けてたまるか。

 直に土魔法で掴んでいるせいか、視るよりもハッキリと土の下に蠢く脈動を感じる。

 まるで罠にかかった動物を、網の上から押さえ込んでる感じだ。

 

「よし、いいぞ。それでエナジーが動いているのはわかるな? その中で一番大きい塊りがあるだろ。

 それが『核』だ。疑似的な心臓ポンプでもある。

 コイツを倒すときはこの『核』を潰せばいい。そうすればアイツが持ってるみたいな小さなつぶてでも破壊できる」

 ヨエルが持っているスリングショットを指した。

「ただし、ちゃんと核に当てないと無駄だからな」

 その『核』は血管上を早くなったり遅くなったり、あたかもピンボールの玉のように縦横無尽に動いている。


「どうした、そらっ早く仕留めてみろよ。コイツは生き物じゃないから遠慮は要らないぞ」

 そんな事はわかってるよ。わかってるけど手がうまく動かせないんだよ!

 俺は声に出せずに頭の中で言い返すしかなかった。


 なんとかハンターを押さえ込む事は出来ているのだが、力がちょうど拮抗してしまって、他のアクションを起こすことが困難だった。

 今ちょっとでも体を動かしたら、たちまちこの均衡が崩れてしまい、包んだ網から獲物が逃げそうな危うさを感じていた。

 俺は目の前の黒い土砂を睨んだまま、立ち尽くす格好となっていた。


「だ、旦那、ヤバいぞっ。早くしないと、仲間を呼んじまうっ」

 横でヨエルが焦りだした。

 そうなのか?

 そういやさっきから跳ね飛ぶように動いていた『核』が、移動しながら小刻みに振動し始めていた。

 まるで重低音を出して震えるスピーカーのように。


「しょうがないな。コイツがなかなか倒さないから。

 まっ、呼んじまったら倒せばいいだけの話だ」

 空とぼけるように奴が肩をすくめた。


 足元に段々と地響きが上がって来るのがわかった。

 こんのぉ、バカヤロ~~~ッ!!



 **************

 


 レッカはすぐに違和感に気がついた。

 下に開いた穴なのに、体感は入った途端に上向きに変わったからだ。

 明らかに動きは上に向かっている。


 これもダンジョンという亜空間のせいなのだ。

 下りた坂が必ずしも下に向かっているとは限らない。逆もまたしかり。

 ただ入った途端に入り口が閉じて辺りは真の闇になり、光がまったく射さなくなった。

 だが、レッカはもともと闇の能力系。

 闇の中でもどのような空間か、あたりの様子を感じる事は出来た。

 

 また獣人の警吏から感じるエナジーで、彼がこの穴を操作しているのが、先程の会話を聞いていなくてもわかった。

 ダンジョンの中を、土を操作して穴を移動させているのだ。

 というよりも穴を作り続けていると言った方がいいだろう。


 ダンジョンの意図せずに開いた穴は、彼らが進む後ろで、どんどん傷が治るように塞がっていく。

 ここで穴を作り続けないと呑まれることは確実だ。

 そしてダンジョンに穴を開け続けるというのは、かなりの力を要する。

 この獣人は相当なパワーの持ち主だと、緊張しながらもレッカは感じた。


 そのパワフルな『土』使いが叫んだ。

「ユーリ、ハンターが来るぞっ!」

 ハンターと聞いて、レッカは更に体をこわばらせた。

「大丈夫だ。こいつが何とかする」

 ギュンターがレッカに落ち着くように囁いた。


「よっし、どっからでもかかって来やがれっ!」

 月の目を持ったユーリもさすがに、光が完全に遮断された場所では目でモノを見る事は出来ない。

 だが、彼もまたレッカと同じ『闇』の目で、この空間を視ていた。

 

 ドワーフが大地の力、『土』の能力を持つのと同じで、ユエリアンも『闇』の能力を有する者が多い。

 ユーリも雷ほどではないが、闇能力ダークスキルを持っていた。

 彼らの始祖となるアクール人が、ヴァリハリアスをモデルコピーしているせいだからだ。そのくせ何故か『創造』の能力はほとんど継承されなかったようではあるが。


 ドゴゴゴゴオォォォという地鳴りと共に、漆黒の天井から滴るように闇が漏れてきた。

 ヴァチンッ!! 

 まさしく墨一色の頭上に閃光が一瞬、辺り一面に走った。

 レッカが思わず目を瞑る前に、黒い大きな手が目の前を覆ってきた。


「目は閉じておいた方がいい。外に出た時にもやられるから」

 そう言うギュンターは、フードを目深に被り鼻上まで下ろしていた。

 彼も『土』で感知しているのだ。


 やられたハンターがドサドサと、土塊に戻って降って来る。それが頭に降りかかった。

 続いて右上から、黒い海坊主のように現れたハンターも、ユーリの雷撃受けて崩れ落ちる。


「ぺっ、ぺっ! ったく、臭えなあっ。これ、落ちて来るのも押さえられないか」

 ユーリが頭や肩にかかった泥を払いながら毒づいた。

「勘弁しろよ、これでも精一杯なんだぞぉ」

 ダンジョンという生きた大地を、なんとか押さえ込んでいるギュンターが文句を返す。

「くそ、さっきはどっからでもと言っちまったが、どうせ来るなら下から来いっ」

 

 するとリクエストに応じたように、今度は足元から柱のように突き上がってきた。

「よっしゃあっ! それでいいぞぉっ」

 バリバリッと雷撃の音、閉じた瞼越しにフラッシュが明滅すると同時に、焼け焦げた土の匂いがプンと鼻を掠める。


 こいつ、本当は暴れたいだけなんじゃないのか?

 嬉々としてハンターを返り討ちにしている相方に、ギュンターはふと思った。

 またユエリアンの血でも騒いでるのか。

 けれどこんな時に率先して切り込み隊長になってくれるのは頼もしいところでもある。

 ただ今回はこいつのせいなのだが。

 

「なあ、まだかぁ? 結構走ってると思うけど」

 ユーリが前を向きながら声をかけてくる。

「まだ2層と1層の途中だよ。ダンジョンの奴が邪魔して、上からドンドン圧をかけて来てるんだ。

 これでも上に進めるだけ大したもんなんだぞ!」

 

 そう、生半可に新しい穴など開けて進もうなんぞしたら、たちまち底の方に押し込められてしまう。

 上からの圧力以上の力で浮上するパワーは、並大抵ではなかった。


 しかもダンジョンという体内に無理やり穴を開けているのだから、防衛機能が働かないわけはない。

 おかげでハンターがあちこちから湧いてくる。


 ハンターは土の魔物とも言えるが、その魔法耐性は決して弱い部類ではない。

 だが、そんな抵抗力も気にもせず、ユーリは次から次へと現れる土の魔物たちを焼き切っていく。

 相手以上の力で、エナジーの巡りを断ち切っているのだ。

 

 この人も強い。レッカは前を走る姿を視て思った。

 確かに2人は警吏の中でも、能力だけなら上位の方だろう。

 だからこそ、この2人だけでダンジョン偵察を任命されたのだ。


 これなら無事に地上に出られそうだ。

 騒々しい物音の中、レッカは少し安堵した。

 

 この時、彼もまさか、パネラ達が自分を探しているなどとは思いもよらなかっただろう。

 それはパネラ達も同じこと。

 まだこの時は、砂丘で困り者の大猫ポーを追いかけたり、宥めたりしていたのだ。

 彼がこのとき土の中を移動しているなどとは、2人は夢にも思わなかっただろう。


 一瞬だけ彼らは、灰色の壁越しに最も接近し、そうして離れていってしまったのだ。




  ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 西洋人と東洋人の哀しき体格差。

 最近は頭が小さくて足の長い日本人も増えましたが、やはり筋肉の質とか、元のDNAが違うのか、そういう体格差が依然としてありますね。


 西洋系の方は腰の位置が高い他に肩幅が広く、鳩胸な筋肉の付き方が多いようです。

 これは狩猟民族だったから狩りをするのに適した筋肉になり、一方日本人は農耕民族だから、土地を耕すのに前屈みになるので、自然と内側に引っ張られる体型になるのだとか。


 大体、身長190cm以上・体重100Kg以上が珍しくない世界で、身長170.5cm体重61Kg――これでも筋肉が増えたので以前よりは体重増えました――で、肩幅狭いとかだと、申し訳ないけど少年体型に見えるのかも……(~_~;)


 更に西洋系の女性は結構ガッチリしているタイプも多いので、チュニック(ワンピース)みたいな服を着ていたら性別がどっちかわからない場合があるかもしれません。

 だから蒼也、ガッカリするな。

 君は日本人としては普通なのだから(^▽^;)

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