第161話☆ 命と操

「ナメやがってっ!」

 ヨエルがビュッと棒をひと振りした。

「今度ツラ見せたら、あのハゲ頭の皮引き裂いて、ロン毛にしてやるっ」

「そ、それはやり過ぎですよっ! まだ実害はないし……」

 師匠、理性は無くさないようにお願いします。


「やっぱり、私が弱そうに見えるからですよね、すいません……。

 でもそんな高い物、持ってるように見えるのかなあ……」

 ヨエルの装備は高そうだけど、彼から簡単に奪えるとは思わないだろうし。


「いや、それは多分っ、ん~……、まあいいや……」

 ちょっと怒っていたようだが、理性を取り戻してくれたようだ。

 それから俺の肩をポンと叩くと

「おれは依頼者の身は守る。だからあんたに指一本触れさせねぇよ」

「それは有難うございます」

 やっぱり俺が目ぇ付けられてるのか……。

 祭りの時もそうだったが、そんなに俺、鴨ネギに見えるのか。


「誰が触れさせないって?」

「うおっ!!」

 奴がいつも通り、突然にヨエルの後ろに現われた。

「出たな、この『ロード・カオスダンジョンマスターのラスボス』めっ」

「なんだよ、それ?」

 しかもボリボリなんか食ってるし。

 スルメじゃなさそうだが、なんだその黒い足は。


「……はぁ~っ 旦那だけはどうしても感知出来ねぇ……」

 ヨエルが頭に手をやって脱力した。

「あんた、なにのんびりしてやがるんだよっ。こっちはもう、色々問題勃発だぞっ」

「なんだ、オレがいなくて淋しかったのか?」

 ニヤニヤしながら俺の頬を摘まんできた。


「子供扱いするなよっ 大体それ、なに食ってるんだっ」

「食うか? ウォッカに漬けた蜂だよ。ちゃんと針と毒袋は抜いてあるぞ」

 そう言って横から布袋を見せた。中には酒臭いブルーホーネットが入っている。


「いらねぇよっ 俺が虫嫌いなの知ってるだろっ」

 こいつのは完全に嫌がらせだ。

「おれも今は遠慮しておく」

 ヨエルも断った。

「まっ いいか。ここのダンジョン酒は、このホーネット酒だ。オレが一樽空けちまったんで、中の蜂を貰ってきたんだ」

 それはハブ酒みたいなものなのか。いや、今そんなことはどうでもいい。


「ヴァリ――」

「旦那、上で獣人とベーシスの4人組を見なかったか?」

 ヨエルが先に訊いた。

「ああ、いたな。犬男とハゲとデブとノッポだろ」

 簡単にまとめたな。というか、こいつ、やっぱり俺達のこと見てたな。


「そいつら盗賊だ。ふざけた事におれ達に目をつけやがった。もちろん反撃しても良いんだよな?」

「当たり前だ。売られた喧嘩を買わなきゃ男じゃねぇだろ」

 魔王様の方がまだ品があると思える、この物言い。


「良かった。

 前に坊さんを警護した時に、賊にまで暴力を振るうなって言われて、苦労した事があったんだ。

 旦那は違うとは思ったが、念のため依頼主の要望は聞いとかないとな」

 ヨエルがニヤッと黒い笑いを浮かべた。


「あの、なるべく死なない程度にお願いしますね……」

「「あ゛っ!?」」

 あれ、なんだか奴が2人になったような……。 


「兄ちゃん、中途半端っていうのは一番難しいんだぞ」

「そうだぞ、蒼也。大体 殺そうとしてくる奴相手に遠慮なんかしなくていい。

 オレが許すっ!」

「夢見が悪くなるからだよ。なんだよ、あんたが許したって相手が承知しないだろ」


 そう、俺は意気地なしで、卑怯者だ。

 優しいわけでも善人でもなく、そういう後ろめさストレスを溜め込みたくないだけなんだ。


 何故そこまで恐れるのか――俺は自分が弱い人間だからだと、ただ思っていた。

 だがそれは、俺自身が忘れ去り、奥底に深く沈めていた闇のせいだった。

 それを後に無理やり思い出すハメになるのだが……。


「言っとくが、お前、オークみたいな奴相手にもそう言えるのか?」

 ヴァリアスが足元に落ちている、コルドーンの死骸を見て言ってきた。

 こっちを見る月の目が、鋭い銀色の光を刺してくる。

「視ろ、このオーラを。オークと同じ、色情の色が混じってるじゃないか。

 あのハゲ野郎はお前が狙いなんだよっ!」


 変な声が聞こえたと思ったら、自分の喉から漏れている声だった。

 気がつけば俺は、その場に体を抱えてしゃがみ込んでいた。

 全身の毛が逆立つような悪寒が走る。

「あぁ……言っちまった……」

 上でヨエルのため息交じりの声がする。 


 俺だって薄々気がついてたんだよ。

 あの視線を感じた時に。

 だけどそんなの考えたくないし、勘違いだと思いたいじゃないか。

 だから敢えて意識しないようにしてたんだ。

 ヨエルも気がついてたようだけど、気を使って言わなかったのに、それをこのバカ野郎が……。


「安心しろ、オレがそんな真似はさせん」

「嘘つけっ! いつもギリギリまで助けないじゃないかよっ。……俺はもうあの視線思念を感じたくないよ」

 魔法使いは人の念とかに敏感で、こういう厭な念まで感じ取ってしまう。

 なんで俺、魔法使いになっちゃたんだろ……。


 実際、魔法使いたちは、これが日常の悩みだそうだ。

 だから彼ら(彼女ら)は悪念除けに帽子を被ったり、頭に護符を付ける。

 ただこれはもちろん、まわりの危険を察知するのに弊害が出てくる。

 メンタルの強い者はハナから気にしないか、強い者は弾き返したり、うまく遮断する。

 俺はどれでもなく、半端者なのだ。


「もう日本に帰りたい……」

 マジで家に帰りたい……。

「なにぃっ?!」

 バカザメが焦る。

「とりあえずこれを飲んで落ち着けっ」

 癒しの水を渡してきながら、奴がテレパシーで話しかけてきた。


『(心配するなっ、そんな目には遭わせんから)』

『(……どうせギリギリまで助けてくれないくせに……前もってなんとか出来ないのかよ……)』

 そうしておいてくれれば、こんな気色悪い思いをしないですんだのに。

『(まだ何もされないうちは、運命を変えるほど手出し出来ねぇんだよ。最近、運命の奴らが特に煩くてなぁ……。

 申請に時間かかるし、ビトゥは肝心な時に捕まらねぇし)』

『(何だよそれ、もうどこかの警察と一緒じゃん)』

 被害が出ないと動けないのかよ。もうこれが女か子供なら事案モノなのに。


「……だけど俺なんか女にそんなモテないのに、よりによって……」

 水を飲んで少し落ち着いたが、まだ気持ち悪い。

「こんなこと別に珍しいことじゃないだろ。

 珍しいのは異邦人のお前のほうだ。アイツにはエキゾチックに見えるんだろう。

 おまけに童顔だし、背も高くな――」


「旦那っ、もう追い打ちになってるからっ」

 ヨエルが慌てて止めに入ってきた。

 くそぅっ、西洋系の奴ら、無駄に立っ端たっぱばかりデカくなりやがって。

 もうペットボトルラッパ飲みだ。


「どうする旦那? 日を改めるかい?」

「いや、もう試験まであまり時間がねぇ――」

 それを聞いてヨエルもちょっと考えるように腕を組んでいたが、

「――わかった」

 おもむろに俺の前にしゃがんで、覗き込むように言ってきた。


「おれがこれから、あのハゲを去勢してくる。それでいいだろ?」

 ヨエルが目に殺気の色を浮かべながら、カスタムスティック特殊警棒のトリガーを握った。チューリップが、その鋭い花びらを開閉させるたびに鈍い光が走る。


「なんなら手足も去勢してやっていいぞ。後始末なら任せろ。オレが警吏とギルドに筋を通してやる」

 魔王が呼応する。

「有難てぇや。じゃあ思いっきりやっていいんだな」

 チラチラと見えるヨエルのオーラに、クリムゾンレッドのフレアが現われ始めた。


「――わかったっ、わかりました。2人が守ってくれるなら、なんとか頑張ります……」

 師匠、その武器をパクパクさせるの止めてくれます? 

 なんだかスゴク怖いんですけど……。

 

「よし、じゃあ2層に行くぞ」

 奴に引き上げられて、なかば連行されるように◆の亀裂をくぐった。


 今更だとは思ったが、念のためにあの狐面をつけた。

 ただ、このお面も試しに買ったぐらいなので、ハッキリ言って安物である。

 常時付けていると顔に違和感があって、探知など繊細な作業にちょっと支障をきたすのだ。

 やはりネットではなく、お店で直接見て買った方が良かったかもしれないと後悔した。


「お前、今更そんなの付けてもしょうがないぞ」

 デリカシーの微塵もない奴がほざく。

「うるせぇっ。あんな奴にせめて顔だけでも見られたくないからだ。それぐらい分かれよっ

 って、その顔はよく分かってないだろっ?!」

 このぉ~~~~~~っ!

 隣でヨエルが軽く肩をすくめた。


 亀裂の奥のスロープは、緩く左にカーブした螺旋状になっていた。

 それをしばらく降りていくと、また同じような亀裂が途中の壁に現われた。

 だがスロープはまだまだ下に続いている。

「この下は3層だ。一気にそこまで行ってみるか?」

 奴が当たり前な事を言うように訊いてきた。

「行かねぇよっ! 途中を飛ばして一気に下まで行く馬鹿がいるかっ」

 と、ちょっとイラつきながら言い返したら、後ろから別のパーティがやってきた。


「おうっす、ちょっと通してくんろ」

 背は高くないが、やたらと横幅のあるドワーフの男を先頭に、やはりそれぞれレスラーのようなガタイのドワーフ達が、そのまま俺達の前を通り過ぎて、下方に降りていった。


「ドワーフには土使いの奴が多いからな」

 湾曲する壁に、彼らの影が見えなくなるまで見ていた俺にヨエルが言った。

「ダンジョンでは土魔法が重要になるんだ。ダンジョンのエナジーを、いかに抑えるかが攻略の鍵になるから」


「そういえば、始めにあったパーティも、ドワーフがいましたね……」

 あの男が弟と言っていたから、彼もドワーフの可能性が高い。

 土使いが2人はいたのかもしれないのに……。

「レベルにもよるしな。それに5層はそんなに甘くねぇ。あそこは飛べないと攻略が難しいんだ」

「ヨエルさんも5層、行ったことがあるんですか?」

「以前1度だけな。貴族の次男坊が遭難しちまって、その時は救助で行った」

 そうして額の辺りを軽く触った。ヘルメットの下にバンダナの端が見える。


「同行した土使いにAランクが3人いたが、そいつらは奥まで入ってこなかった」

「それ……成功したんですか?」


 すると二ッとヨエルが笑った。

「もちろん! 戻ってバカ親から、たっぷり危険手当取ってやったよ」

 良かった。救助成功したんだ。

「ただ、そのバカ息子のお供をしてた家来たちは、可哀そうな事になってたけどな」

 ……最後のは、聞きたくなかったな。


「おい、入るのか、それともこのまま下に行くのか、どうするんだぁ?」

 亀裂の前でウチのバカザメが焦れ始めた。

 そんなにダンジョンが好きなら、本当にラスボスにでもなってしまえ。


「ああ、悪い。つい話しこんじまったな」

 ヨエルが先に歩き出す。それから俺の方を振り返って

「何でも一から順当に進めるのは、悪い事じゃないぞ。

 そいつみたいに、イキがって一気に最下層に向かうような真似は、馬鹿のする事だからな」


 しかし2層に続くその亀裂の前で、俺は入っていいものか、つい戸惑ってしまった。

 その亀裂は高さ3mくらい、幅2mくらいの変形ひょうたん型をしていたが、その奥は真っ暗な闇に閉ざされて全く見えなかった。

 耳を済ましても物音1つ聞こえない。


 探知してみようとすると、その闇に触手が急に吸い込まれるような感触があり、慌てて引っ込めた。

「ちょっとヒヤッとするだろ? 初めてだと驚くよな。

 ここは空間が内側に湾曲してるせいで、まさしく内側に引っ張られちまうんだよ。だから光も出て来ないから、こちらからだと何も見えないんだ。

 無理やり探知してもいいが、パワーを使うしな」

 ヨエルが棒を、その闇の中にそっと差し入れた。

「うん、近くにヤバいのはいないな。いま入って大丈夫そうだ」

「それでわかるんですか?」

 そのカスタム棒はそんな事にも使えるのか?


「接触探知だ」

 奴が代わりに答えた。

「接触テレパスっていうのを聞いたことがあるだろ? 物質を伝って触手を通すんだ。

 原始的なやり方だが、何もない空間を飛ばすより、強力に出来るぞ」

「じゃあ物を使えばいいのか」

「いや、正確に言うとちょっと違うよ」

 ヨエルが棒を引っ込めて振り向いた。


「これはほんの僅かだが、中が空洞になってるんだ。その中だけが別空間になるから、そこを通してるんだ」

「ん? どういう意味??」

「ええと、そうだな。探知出来なくても、中を見る方法がある」

 そう言ってリュックから紙を1枚取り出した。

 あれ、それって……。

 ヨエルは何故か焦げ穴ができたその紙を、クルクルと巻いて筒状にした。


「ほら、こうして差し込むと空間が切れて、向こうが見えるだろ?」

 確かに、その黒い帳に差し込まれた筒の向こう側には、灰白色の砂地と薄青い空が丸く切り抜かれて見えていた。

「ここは歪みは強いけど圧力が弱いから、こうして簡単に切り開く事が出来るんだ」

「へぇ~」

 俺は紙筒を借りて、望遠鏡のように中を覗いてみた。


 紙筒は確かに中に引っ張られるが、物理的には一般的な掃除機ぐらいの感じで、それほど吸引力は強くない。

 しかしこれって、『売買契約書』ですよね?

 こんな雑に扱っていいのか。


「左右に動かすとまわりが見えるだろ」

 言われた通りに上下左右に動かすと、もちろん視界も移動する。とりあえずまわりが、淡い灰色の砂丘というがわかった。

 それよりも気になったのは、丸めた紙の内側に見えた名前らしき文字だ。

 焦げ穴の隣に書いてあった名前、これが彼の本当の名前なのか。

 これって――。


「よし、もういいだろ。入るぞ」

 言うなり奴がさっさと中に入ってしまった。

 ヨエルの方を見ると、お先にどうぞと手で示された。

 仕方ないのでその手に紙を返して、中に思い切って踏み出した。

 グンッと、全身を軽く吸い込まれる感覚がしたと思ったら、もう中に入っていた。


    ******


「……ほんとうにゴメンね、お兄ちゃん……」

 アメリがまた涙ぐみだした。

「そんな事ないって、自分を責めるなよ」

 レッカが妹の肩を抱いた。

「悪いのは全部あいつじゃないか。リィアメリは巻き込まれただけだよ」


「巻き込んでるじゃん……お兄ちゃんも、パネラ達も……」

 ちょっと垂れ目気味の大きな瞳がまた潤みだす。

「パネラ達だって、前からあいつに不満を持ってたんだ。だからいずれこうなるはずだったんだよ。

 ちょっと計画より早くなっただけだ」

 しかしその頼みの綱のパネラ達仲間はまだ来ない。


 連絡がちゃんと伝わってないのか? それともまだ気がついてないだけなのかもしれない。

 2人はここに飛び込んでから、すでに3時間が経っていた。

 

 ここまで逃げて来た時に、を見かけて咄嗟にこのダンジョンに入ってしまった。

 アメリ達を近くでないと気付かれないように、隠蔽で気配を消して、兄のレッカが急ぎ受付を済まして中に入った。

 その際に人数を4人分で登録をした。

 勿体ないが、もし後で追手が調べに来た時に、誤魔化すためだ。


 そうして管理室のファクシミリーを借りて、すぐにパネラ達の職場に手紙を送った。

 内容は万一見られてもいいように、まったく違う場所で待つと書いた。パネラ達ならこの暗号をわかってくれるハズ……。

 まさか気付かなくて、本当にそっちに行ってたら……。

 そんな不安がよぎるのを無理に抑え込む。


 送信代は思ったより高くて、現金を使い切ってしまったし、ここではハンターと、魔導士ギルド以外のプレートバンクキャッシュカードが使えない。

 おかげで武器になるような物も買えなかった。

 でも山猫のポーもいるし、なんとか彼女たちが来てくれるまで待つしかない。

 何より自分が妹を守らなくては。

 

 13年前の流行り病で両親と姉と弟がいなくなり、今や家族はこの妹とポーだけだ。もう家族を失いたくない。

 自分がなんとかしなくては――。


 その時、またあの裂け目の方から、人がやって来る足音がした。

(どう? ポー)

 レッカはポーの触手の1本を触って、頭の中で問いかけた。

 蔓山猫は接触テレパスという精神感応と、それ以外にも近距離なら気を読むことが出来る。

 いわゆる探知に似た事が出来るのだ。


「違うみたいね……」

 残念そうに、同じくポーの触手に手をやっていたアメリが呟いた。

 ポーの思念から、どうやらパネラ達ではないというのが伝わってきた。

 しかもなんだか剣呑な雰囲気を探知している。


「ちょっと見てくる。2人はここにいて。ポー、もしもの時はお前がリィを守ってくれよな」

 レッカがそう山猫の大きな頭を撫でた。

(だから、万一何かあっても声を出さないでくれよ。リィと一緒にいてくれ)


 ポーは従魔だが、テイムしたわけではない。

 小さい頃、まだ両親や兄たちが元気だった頃、森のはずれで迷子になっていた子猫を拾った。

 それが蔓山猫のポーだった。


 賢いこの魔物は主人の意図を理解した。

 この家族の中ではアメリが一番弱い。それは逆に守るべき対象でもあるのだ。


 レッカは自分に隠蔽をかけた。

 彼の能力では一度に3人までが限度だ。しかも単体にかけるより、効果が薄くなる。そして離れ過ぎると更に薄れてしまう。

 あまり持続出来ないからだ。

 なのでまず偵察する自分が見つからないように、強く自分の気配を消した。


 音までは消せないのでそっと、枝や枯れ葉を踏まないように気を付けながら、樹々の途切れる辺りまで移動した。


「やっぱり、まだ近くにいるな、こりゃあ」

 黒焦げ茶の毛並みをした獣人が、鼻をクンクン鳴らした。

「さっきは薄くて残り香だと思ってたけど、なんだかおかしいなと思ってたんだ」

「本当に若い女なんだろうなぁ、その匂いは?」

 ひょろっと背の高い男が、手に持った短剣をクルクル手首で回しながら訊いた。

「ああ、間違いない。ケガはしてないと思うが、なんだか怯えてる匂いだった。狩り初心者なのかもしれない。

 しかも……」


 獣人の男がニヤリと口を横に歪めて

処女バージンだな、こりゃあ」


「いいねぇ、怯えてる生娘ってのは」 

 太った男がグフグフと下衆げすの笑いを浮かべた。

「だけど、どんなご面相だかまではわかんねぇんだろ? 超絶ブスだったらどうする」

 ノッポの男が短剣を、ヒラヒラさせながら言う。

「んなもん、顔を覆っちまえば一緒だろ」

 太った男が出っ腹をパンと叩いた。


「違げえねぇ。それにもう1人、若い男もいる。こいつも弱虫だな。ビクついた汗の匂いがする」

 と、獣人が隣の大男の方に視線をまわした。

「おりゃあ、可愛いければどっちでもいいぞ。ただ、ブサイクなのは嫌だなあ」

 そう言って大男は、スキンヘッドの頭を撫でた。


「あと気になるのは、猫の匂いもするんだが、こりゃ従魔かもしれねぇ。女のすぐ近くにいるようだ。

 だけど猫の1匹や2匹、おいら達ならなんともねぇがな」


 アサシン系は獣人程ではないが、総じて聴力も良い。

 そいつらの話し声が聞こえて、レッカは首筋を冷たい手で撫でられる思いだった。

 とんでもない奴らが戻ってきた。


 今、2人は気配を消してない。そしてこっちは風上だ。


(ポー! リィを連れて遠くへ行けっ)

 強く心の中で声を上げると、レッカは自分の隠蔽を解いた。

 同時に少し離れたアメリとポーに出来る限り隠蔽の気を送った。


 「ん! そこだっ」

 獣人がこちらの方に顔を向けた。


「リィッ、ポーと逃げろっ 早くっ!」

 小さくアメリリィの短い悲鳴が聞こえた。




  ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 すいません、また2層に着いただけで終わってしまいました。

 次回こそ2層の様子を展開できるのだろうか……(·_·;)

 進むにつれてエピソードが増えてきて、なかなか先に進めない。

 だけど、簡単に端折りたくないし……難しいところです。


 蒼也の見かけは、実年齢と肉体年齢が違う事と、東洋系と西洋系の違いによる事が大きいです。

 そして蒼也は母親似。息子は母親に似る事が多いと聞きますしね。


 西洋人から見ると東洋人は幼く見えるという、外国あるあるですね。

 またその逆もありますけど。

 

 ただこれは若く見られると喜んでばかりいられない。

 実際、旅行先で面倒いことが度々。

 アラサーでも、店で酒を飲んだり買えないという弊害が……(OдO;)

 酒を持ってレジに並んでるだけで、知らないオヤジに怒鳴られたり……どんだけ子供に見てんだよってな感じです。チビだけどさ(-_-;)

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