閑話 朔と水売りとドラゴンと その2
わかったのは、この人間はレーヴェ大陸のエフティシアという国で、水を売る商人だったという事。
あの恐ろしい奴の連れの男が、こいつからその水をよく買っていたという事だ。
つまりあいつらにとって、馴染みの商人、親しいってことだよなあ?
そんな奴を無下に扱ったと知られたら――――
「……あの時もいつも通り、水を汲みに森に行ったんです。嫁いでいった娘が、孫を連れて遊びに来る予定だったから、美味しい水を飲ませてやりたくて。
昼の鐘までには戻る予定でした」
トッドと名乗った水売りは話を続けた。
「泉の近くまで行った時、軽く足元が揺れたんです。あ、これは地震かなと思って、身をかがめたんですけど、不思議なことに、さっきまでしていたまわりの鳥達の声や、樹々のざわめきがピタリと無くなって……。
すぐに揺れが収まったんで、歩き出したら急に目の前が真っ暗になって……。
で、気がついたらここの、あの木の枝に引っかかっていたんです」
と、トッドは目の前に立つ、根を枝のように広げた大木を指さした。
「あー、おそらく、そりゃ
少しだけ緊張が解けてきたジェンマは、またいつもの口調に戻っていた。
朔は生物だけじゃなく、空間や地殻にまで影響をしばしば与える事がある。そういう自然の転移スポットみたいな現象を以前にも見た事がある。
繋がる場所はランダムで、何処に現れるかの規則性も無い。
しかも一方通行だから、突然跳ばされた者は、運よく生きていられる場所に出られても、帰って来れるかわからない。
まさしく神隠し、天のイタズラである。
「そんな……あっしはこれから、どうしたらいいんでしょう……」
トッドは薄くなった茶色の頭をまた抱えた。
「う~ん、そうだなぁ……」
どうする?
ここまで関わっちまったら、言い訳きかないぞ。それこそ後でバレて、体中の鱗1枚残さず毟られるかもしれない。
そう考えると、喉の下の逆燐が立ち上がるような感じがして、またぞわっと嫌な悪寒が走った。
「あの、トッド……、もし俺があんたを地元に無事帰したら、その……例のお得意さん達に、俺の悪口を言わないでくれるかい?」
「え……家に帰して頂けるんで ?! それになんで、あなたさんの悪口を??」
「いや、はじめ、あんたのこと見過ごそうかと……いや、いい。今のは忘れてくれ」
ジェンマは慌てて顔の前で手を振った。
「本当にあっしは帰れるんで ??!」
トッドはジェンマに
「あ、ああ。それは俺なら出来ると思う。ただ、すぐにという訳にはいかないんだが……。
ちょっと俺にも用があるし、少し時間をくれ」
そう、この姿でいられるのは時間に限りがあるのだ。今、酒を飲まなかったら、次いつ飲めるかわからない。
「もちろんです、待ちます。帰していただけるなら」
トッドは拝むように手を合わせた。
「よし、じゃあ決まりだな。ところであんた、酒は飲むかい?」
*****************
『こりゃあ、立派な魔石ですねぇ。だけどこれじゃ残念ですが、ウチではお酒を出す事は出来ないですよ』
赤い喉袋を垂らした鳥人間の酒場のマスターが、青緑色の頭を前後に揺らしながら言った。
『え? だけど以前はこれで飲めたんだぞ。別の村だったけど……。
これじゃあ まだ小さかったか』
ジェンマは胸に手をやりながら、まだ出せそうな魔石が喉の下にあるか探ってみた。
『いや、十分過ぎますよ、これで。
ただウチじゃ適正な価値がわからないので、どれくらいお出ししていいのかわからないのです。
ご面倒ですが、どこかでそいつを、通貨に換金してきて頂けませんかね?』
通貨? あれか、人間どもがよく物々交換する時に、物の代用に使う金属か。
そういや魔族の間でもそういうやり方だったけ。小さい集落だったら、まだまだ直接交換できるんだったけどなあ。
『わかった。じゃあ換金とやらをしてくるよ。それってどこですればいい?』
『そうですねぇ、ここら辺でそういうのを買い取ってくれそうな所というと』
マスターは左に小首を2,3度傾げると
『ここを門とは反対の方に行くと、川に突き当ります。その川を右に曲がると道具屋があるんです。そこなら買い取ってくれるかもしれません』
目をつぶりながら、ジェンマの服を掴んでついてくる水売りを連れて、また通りに出る。
「お前さあ、目くらい開けたらどうだい? いつまでも俺の服掴んで歩いてても、変じゃないか」
「へ、へぇっ、だ、だけど、おっかなくて……」
「別にいきなり取って喰いやしないよ。
お前ら人間からすると、魔人も魔物も一緒かもしれないけど、そこら辺の魔物よりずっとに理性的だぞ。この大陸の人間と交易してる奴もいるしな」
と、言ってもこの大陸の人間は、元々この暗黒大陸に住んでいるから、肌の色も赤銅色や緑色をした魔人寄りなんだが、まあそこは言わなくてもいいか。
「へぇ……そうなんで」
まだジェンマの服から手を離さないが、少しトッドは顔を上げて、ジェンマの肩越しに辺りをうかがった。
向こうのほうから狼のような頭をしたコボルトと、上半身はヒュームそっくりだが、腰から下が太くてデカい1本足のモノコリ(1本足人)が談笑しながら歩いてくる。
右手の服屋らしい店先で、鮮やかな赤い腰布を巻いたアケパロイ(無頭人――頭首が無く、胴体に顔がある人型)が、前開きの上着を真剣に選んでいる。
左側にはリザードマン、一つ目のドワーフと、耳たぶが大きく長く足元まで垂れたパノティイ人の男の3人が、店先に置いた樽の上で三角形のボードゲームに興じていた。
誰もジェンマ達を振り返ったり、好奇の目を向けようとはしてこなかった。
「こんなに一度に色々な魔物を見るのは、昔ダンジョンに潜った時以来ですよ」
ビクつきながらも、少しだけ辺りを見る事が出来るようになったトッドが言った。
「魔物じゃないぞ。魔族、魔人だよ。お前、ダンジョンに行った事あるのかい?」
「ええ、今はこんなですが、若い頃は荷物持ちで、色んなハンターさん達とあちこち行きました。膝を傷めちまって、辞めちまいましたけどね」
それからまた、まわりを見まわして
「話に聞いた事はありますが、本物の魔人さん達をこの目で見る時が来るとは……」
と、しみじみ感じ入ったようだ。
「ただ、こちらのお金なら何度か見た事ありますよ。こっちのお金は、金の純度が高くて良いらしいですね」
ふーん、そうなのか。
金を生む魔獣もいるくらいだから、価値が人間共のとこほどじゃないんだろうな。
少し行くと、言われた通り2,30mほどの幅の川が見えてきた。
町中にあるのに柵はなく、すぐに川面がよく見えた。
家々の明りや松明が揺らめいて、暗い川面にぼんやりとした灯りを映している。その水面下ぎりぎりに、頭の尖ったシービショップ(魚人の一種)が漂いながら横笛を吹いていた。
その奇妙な音色を聞きながら右を向くと、軒先に大きな正円の銅鏡や、持ち手が3本あるスコップなどが置いてある道具屋があった。
『いらっしぇい』
楕円上の切り株をそのまま使ったカウンターで、水煙草をくわえていた黒茶髪の中年男が顔を上げた。
カウンターに隠れてこちらからは見えないが、膝の関節が反対に曲がっているアンティポデス人だった。
台の上には様々な珍妙な形で、どのように使うかわからない道具が並んでいる。
その中に1種類、人間のトッドでもわかるモノが置いてあった。
魔石である。赤や黒、緑や白、青、紫……など多種多様な魔石が置いてあった。
うん、確かに扱っているようだな。
ジェンマは上着のポケットから魔石を取り出した。
『そうさねぇ、これなら金貨7枚ってとこかな』
足を見なければ人間にしか見えない店主は、魔石とジェンマの顔を交互に見ながら言った。
『うーん、それで酒はたらふく飲めるのかなぁ?』
『ヘッヘッ、そりゃあ金貨7枚もありゃ、とんでもなく高い酒じゃなければ、たんまりと飲む事ができるぜぇ』
『そうか、じゃあ換金してくれよ』
店主はニンマリすると、カウンターに金貨7枚を出した。
「あ、あの……」
ジェンマの袖をトッドが後ろから引っ張った。
「なんだ?」
「ちょっといいですか?」
トッドがカウンターの金貨を見ながら小声で言ってきた。
「念のため、他の店にも見せたほうが良いかもしれませんよ」
「なんでだよ?」
「あっしはこちらの言葉とかはさっぱりですが、値段の数字ぐらいなら読めます。ここで売っている魔石は、あなたさんが出した魔石よりずい分小さいのに、金貨12枚と表示されてます。種類が違うのかもしれませんが、1軒だけだと相場がわかりませんし……」
確かに俺は、金とかで交換する価値はわからないとジェンマは思った。
もしかすると、そういう事で騙されてる可能性もあるかも知れない。
安く買い叩かれるのは別に構わないが、騙されるのは癪に障る。
言葉がわからず怪訝そうな顔を向けていた店主に
「おいっ、やっぱり換金はやめとく。違う店に見せてくる」
サッと店主の手から魔石を奪うと、そのまま店を出ようとした。
『ちょ、ちょ、ちょっとぉ!』
店主が慌ててカウンターから出てきた。
その逆足を見てトッドがビクンと肩を動かす。
『待ってくれよっ、なんだ、これじゃ少ないっていうのか? じゃあ15枚でどうだ? いや20枚なら?』
『やっぱり騙してやがったのかっ』
ジェンマは振り返りざま店主の首を引っ掴んだ。
『ヒェッ、いや、ちょっと、初めての顔だからよぉっ、値踏みが渋くなるのは当たり前だろー』
おれっちだって商売なんだからと、解放されて喉をさすりながら、店主が呻いた。
フン、と鼻を鳴らすとジェンマはトッドを連れて店を出た。
まだ川の中で笛を吹いているシービショップに、ここ以外に魔石を買い取るような店がないか声をかける。
『トゥルトゥル ルルーピピイィィ 右ィィ ピュルルルララー このままもっと右ィィ ルルラー』
言われた通りに川沿いに歩いていくと、川中に半分水没している店があった。
そこの店主はマンボウのような顔をした魚人だった。
『金貨ぁ22枚ではぁ、いかがんでしょかぁ?』
前ビレから少し突き出た短い鍵爪を、揉み合わせるようにしながら店主がジェンマの顔色をうかがった。
さっきの3倍近い。
あのヤロウッ、燃やしてやるっ。
『ああ、それで換金してくれ』
また来た道を戻る。さっきのぼったくり道具屋の前に戻ってきた。
ちょっと一吹きしていってやろうかと、店のほうに顔向けて、その屋根の上に青白い光があるのに気がついた。
『
それは確かに婆さまだった。道具屋の屋根の横に斜めに伸びた枝の上に、青白い光に包まれた魔女の婆さまが座ってこちらを見ていた。
魔女はジェンマと目が合うと、ニッコリ笑って、そのまま闇に溶けていった。
『婆さま…………もしかして……』
トッドには見えなかったらしく、ジェンマが見ている方向と、彼を交互に見ながら不思議そうな顔をした。
「あ、あのどうかしたんで……?」
「…………ん、ああ、大丈夫だ、行こうか」
店を燃やす気も無くなって、ジェンマ達はその場を離れた。
歩きながら、薄々感じていた婆さまのオーラの変化を思い出していた。
婆さま、とうとう逝っちまったか……。
形あるモノ、または生物なら当たり前の終末だ。だから人のように個人にこだわるような悲しみはない。
日々、生死を身近に感じて生きている者達にとって、いちいち感じ入っていては身が持たないからだ。
それはドラゴンも同じこと。
だが、親しい者がいなくなる寂しさだけは、ほのかに感じた。
婆さま、今度地上に来るときには、あまり小さい姿でいないでくれよ。でないと俺、わからずに踏みつぶしちまうかもしれないからな。
生物ならば終末は必ずある。だが、輪廻の輪の上に乗っているから、いつかは戻って来るだろう。
その時までしばし、さようならだ。
ジェンマは尾を半分上げて後ろで軽く振った。
『これで飲めるだけ酒をくれ』
テーブルではなくカウンターに座ったジェンマは、先程の金貨を全部、酒場のマスターに渡して言った。
『これはまた……。これではウチの店中の酒を全部出しても間に合いませんね』
マスターは少し興奮気味に、赤い喉袋を膨らませた。
『あの
斜め後ろのテーブルで飲んでいる、大きな顎を持ったハンミョウ似の昆虫人を指して言った。
『‟バッカスの吐息”ですね。なかなか
『あと何か食べる物も』
トッドは目の前に出された、酒と料理に戸惑った。
酒は濃い青紫色をしていて、アルコール臭以上に強い薬品臭さがした。
おまけに出された大皿には、何かの目玉と、黒いイガイガが生えた爬虫類の足のようなモノが、酸っぱい匂いのするドレッシングをかけて、たっぷり盛られていた。
しかもそれはまだ生きて蠢いていた。
「どうした? 遠慮しなくていいぞ。さっき騙されるとこだったのを教えてくれたお礼だ」
「あ、いえ、その……」
『失礼ながら、そちらの人間の方にはもしかすると、この酒と料理は合わないかもしれませんね。宜しければこちらで見繕いますが』
解析眼のある丸い黒色の眼をしたマスターが、頭をクックッと傾げながら、ジェンマに聞いてきた。
『あー、じゃあそれで頼む』
確かに人間の酒とはちょっと違うかな。
この妙な薬草臭さがクセになる旨さなのだが、これがわからないとは可哀想な人種だ。
でもこればかりは好みと体質の違いがあるから仕方ないのか。
あらためて出された酒は、明るい赤紫色でほんのり甘いかおりがした。
この匂いは……。
「ああ、これなら飲めます。美味しいです」
水売りが少しホッとした様子で言った。
『店主、俺にもこれと同じモノをくれ』
『宜しいのですか? これはご婦人向けの甘めの果実酒ですが』
『ああ、いいんだ。1杯だけでいい』
赤紫の液体の入ったグラスをもう1つ受け取ると
‟
最後に飲んでってくれよ”
何も見えない空中に向かって軽くかかげた。
「おいっ 俺は『イージス谷の黒のオッドアイ』って言うんだ。『イージス』だからな、ちゃんと覚えておいてくれよ。
あの恐ろしい男に会ったら、あんたの事ちゃんと保護したって言っておいてくれ」
ジェンマはカウンターに突っ伏している水売りを、揺すりながら言った。
水売りのトッドはすっかり酔いつぶれている。
こちらに来てからの緊張が、ジェンマのおかげでほぐれたところに酒が入ったせいである。
どのくらい飲んでいただろうか。外では
暗い灰色の空にも少しづつ、厚い雲の壁を抜けて太陽の光が微かに差し始めている。
松明もいつの間に消えていた。
外を行く魔人達の数もだいぶ減ってきている。みんな寝床に戻り始めているのだ。
ジェンマは体の奥底にぶよぶよ蠢く感覚に気がついた。
マズい、魔法が解けかかっている。
「よし、じゃあ帰ろう。送っててやるよ」
返事がない。完全に泥酔状態だ。
立ち上がってトッドを軽く肩に抱えようとすると、眠そうに目をしばつかせていたマスターが言ってきた。
『お客さん、これお釣りです』
金貨を十数枚を返してきた。
『え……要らないよ。また魔石なら調達出来るし、俺がいま持ってても必要ないし』
それに次はいつ来れるか、もうわからないのだ。
『ええ ?! …… 本当にお珍しいお客さんだ。お金が要らないとは驚きです。
――わかりました。ウチは正直なとこが取り柄の酒場です。ではチップとしてこれから1割頂きます。
残りでぜひまた飲みに来てください』
そう言って小袋に入れた残りの金貨をジェンマに渡した。
そう言われても本当に要らないんだけど……。まあいいか。
渡された袋をトッドのズボンのポケットに突っ込んだ。
そのまま通りを門の方にトッドを抱えながら急ぎ足でいく。
門では立ったまま、キュクロープス(単眼の巨人)が居眠りをしていた。
こいつ、やっぱり寝てやがるのか。
巨人の脚の横を通り抜けざま、ぴしゃりと尾で
『あっ痛゛っ!! あ゛ーっ!!』
巨人がドドンと地響きを立てて
素早くジェンマは樹々の中へ駆け込んだ。笑い声を立てそうになってしまったからだ。
あいつ面白いな。今度いつもの姿のままで来てやろうか。
体のムズムズ感は増々強くなってきた。もう少しこの場を離れたほうが良さそうだ。
着ていた長衣は脱ぎ捨てた。
そのまま翼を広げて空中に飛び上がる。四肢が太く長くなっていくのを感じる。
背骨が尾が首が伸びていく。
トッドを掴んでいる手を片手に持ち替えた。両手で掴んでいると、うっかり引きちぎってしまいそうだったからだ。
山を越えた頃にはすっかり元の大きさに戻っていた。
水売りが落ちないように軽く握りながら、空中でうんと伸びをする。
やっぱりこのサイズが一番落ち着く。なんとか変身しなくても飲めないものかなあ。
眠りこけている人間が風圧で窒息しないように、口の中で唾と粘膜を混ぜたモノを膨らませて、自分の手ごと包み込んだ。
シャボン玉のような膜が張り付く。
手についている間は自分の魔力でまず破れることはない。ドームのように結界が張られるのだ。
これで速度をもっと上げても大丈夫だろう。
ドラゴンは翼に更に力を入れた。
そのままどんどん速度を上げていく。
また谷を過ぎ、幾つかの山を飛び越え、とうとう海に出る頃には、水平線に赤々と海面を照らす太陽が頭を出し始めた。
太陽を嫌うレイス(幽霊)どもが慌てて岩場に開いた洞窟の中へ消えていく。
ジェンマの姿が太陽に照らされて、波立つ海面に影を落としていくと、その影に驚いて水面の魚影がパッと散っていった。
横に首をまわすと、島のように巨大な姿を浮上させるファスティトカロン(巨大な魚)の背びれが、上る太陽に向かっていくのが見える。
水平線に、大陸を渡っていく
海面をのんびり漂っていたリヴァイアサン(海竜)が、こちらに気がつき、海面から尻尾を上げて振ってきた。ジェンマも尾っぽを振り返す。
通り過ぎた半島の岩場の近くでカリュブディスが、朝起き掛けの欠伸をして大きく海水を吸い込み、一段と大きな渦を作っていた。
そこへわざと岩場から大岩をもぎ取って放り込むと、岩はグルグル回転して渦の真ん中に消えていった。
まだまだこの世界は面白い。
俺はまだ遊び足りないよ、婆さま。
そのままドラゴンは北の空を目指して飛んでいった。
トッドが気がついた時、良く見知った大岩のそばに寄りかかっていた。
頭や腕、体中に何かの粘膜のようなモノがついていて、すわっ スライムかと驚いたが、よく見るとそれは半透明な膜のようなものだった。
手で引っ張ると簡単に裂くことが出来たそれのおかげで、周りのスライムがくっ付いてこなかったらしい。
空を仰ぐと、太陽はちょうど真上あたりで、明るい穏やかな光をそそいでいた。
ここは確かにギーレン東の森、セラピア近くの草原のようだ。
こんなとこで何をしていたんだろう。あっしは夢でも見ていたのだろうか。
確かに一連のあの出来事を思い出すと、とても出来過ぎていて、とうに現実とは思えない。きっとイタズラ好きの妖精に騙されたのかもしれない。そんな事は少なからずある事だ。そのほうが説明がつく。
とにもかくにも本当に魔人の町なんぞに行かなくて良かったと、トッドは立ち上がった。
だが腰に当たるものが、説明出来ないモノである事に気がついた。
それは袋に入った、魔族の金貨だった。
*****************
軽く運動したおかげで、また眠たくなってしまった。
カッサンドラ大陸の洞窟に戻ってきたドラゴンは、大きな欠伸をした。
あの人間もこれだけ世話してやれば、さすがに俺の事を悪くは言わないだろう。そうすればあのおっかない奴も、さすがにちょっかいなんぞ出しては来ないだろう。これで安心して寝られるというものだ。
ドラゴンはまた欠伸をした。
実はこの事がきっかけで、余計な縁を作ってしまったという事を、この時のドラゴンは知る由もなかった。
彼はそのまま、酒の味を思い出しながら夢の中へとんでいってしまった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
海のシービショップがなんで川にいるんねんっ?! というツッコミがありそうですが、イルカも川に上がって来ることもありますので、多分淡水でもOKなんだと思ってやってください。町があるから時々登ってくるのではと。
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