第95話 新しい恋の予感 と 死の気配 その2(ストーカー)


 ハッとして目が覚めた。

 俺は炬燵で横になりながら、文庫本に指を挟んだまま寝ていたようだ。

 殺人事件の話を読んでいたせいなのか、変な夢を見たものだ。


 時計を見ると4時13分だった。

 窓の外では買い物帰りらしい親子が、レジ袋を下げながら歩いていく。

 特にこれと言って欲しいものもないが、買い物にでもいくかな。

 だが、まだ頭の奥に、今の夢の生々しさがこびり付いていた。


 泣き女バンシーってアレか。

 あの、人が死ぬ前に泣いて知らせる妖精とかいうヤツ。

 なんでよりによって、田上さんの顔なんだよ。縁起でもない。


 Dバッグにエコバッグを入れて――スーパーのカウンターでは、人目もあって収納出来ないので――財布の中身を確認すると、ハンガーラックに引っかけてあるダウンコートを手に取った。

 そのまま片腕をコートに入れたまま動きを止めた。


 なんだか、不安がぬぐい切れない。

 俺は昔から不安神経症のところがある。それでリアルな夢を見てしまって変な考えが取れないんだ。

 それはわかってる。


 だけど、なにかが引っかかる気がした。

 なんであの泣き女の服は、わざわざあんな赤斑あかまだらだったんだろう。

 別に無地や、ボロボロな恰好とか、そういう定番でいいじゃないか。

 殺人ミステリーのせいか? 

 夢は今まで見てきた記憶の集大成のようなモノだから、そういったモノの情報が混ざったのだろうか。


 もう一度時計を見る。

 どうせ独り暮らしだし、別に予定もない。

 馬鹿馬鹿しいかもしれないけど、不安を打ち消すために、俺は会社に行ってみることにした。


 会社に着いたのは5時前だった。まだ田上さんは帰ってはいないだろう。

「あれ、東野さん、どうしたの?」

 4階の事務所に行くには食堂を通る。

 給油室でマイカップにお茶を入れていた、この間キリコの事を訊いてきたひとが顔を出した。


「えと、忘れ物取りに……」

 そういえばこのひとも事務員だった。

「あの田上さん、まだいます? ついでにトレーナー(制服の)もう1枚頼んでおこうかと思って」

「田上さんは今日お休みよ。あの人、平日のみだから。

 トレーナーの追加ならわたしがやっとこうか?」

「いや、急がないので大丈夫です」

 俺はそそくさとその場を離れて、更衣室に行った。


 そうか、今日はいないのか。会社まで来ちゃったけど、やっぱり考えすぎだよな、俺。

 そう一息ついたが、やはり胸の騒めきは収まらない。

 逆に彼女を確認していないせいで、さらに不安が増したようだ。

 どうしよう、落ち着かない。


 探知してみると、さっきのひとは、事務所に戻ったようだ。

 俺は深呼吸すると、出来る限り気配を消して、そっと食堂にまた入った。


 事務所の前には、タイムレコーダーとタイムカードラックが置いてある。

 音を立てないようにその前にいった。

 気配を消すのが上手くいってるのか、扉の開いた事務所から、誰もこちらに顔を向ける者はいない。


 退社側のカードの中から、田上さんのを探す。

 まるでストーカーだな。

 我ながらちょっと引くが、今は勘弁してもらおう。


 あった、田上さんのカード。

 まわりをうかがいながら、そーっと抜いて手に取ってみる。


 彼女のらしいオレンジとピンクと緑色のオーラが、ポワポワと胞子のようにカードについている。

 良かった。

 カードのオーラを見る限りでは、何か深刻な疾患があるとかはないようだ。

 やっぱり俺の取り越し苦労のようだった。我ながら神経症だな。

 いや、勝手に見てごめんなさい。

 俺はカードの両面を軽くひっくり返してみてから、ラックに戻そうとした。


 ほんの束の間だったが、ハッキリと、カードが炭化したかのように真っ黒になった。

 そしてその黒いモノは、風にすすが飛ばされるように、空中に流れて消えていった。

 手にしたカードは、先程変わらぬ白地にオレンジラインの紙に戻っていた。

 だが俺は動揺して、気配を消すのを忘れそうだった。


 今のはきっと、あのハンターの登録書と同じなんだ。

 死亡すると同時に、登録書が黒く変色するというあの変化に。

 これは予知だ。俺の直感が告げている。

 

 今夜、彼女は死ぬ !


 俺は居ても立っても居られなくなった。

 なんだっ? 何が起こるんだ。 

 あのバンシーの服の感じからして事故か??

 いやっ、その前に俺はどうすればいい ?! 何をすれば止められるんだっ。

 俺はその場でオロオロしそうになった。


 いや、落ち着け俺っ。

 そのまま気配を消したまま引き返すと、自販機で缶コーヒーを買った。

 ポルクルが良く言っていた、『お茶でも飲んで落ち着きましょう』という言葉を思い出したからだ。


 プルタブを起こして口をつけると、コーヒーの香りがスーッと広がって、足が地に着いたように感じた。

 なんとか落ち着いて考えられるようになってきた。


 とにかくは、彼女が今どうしているか、確認しないと。

 確か、家はここから一駅だとか、話していたと思う。どこだかは聞いてないが。

 住所を調べないと。社員名簿は事務所だな。

 だけど事務所には監視カメラがある。いくら人に認識されなくても、さすがに俺の能力じゃバッチリ撮られてしまう。


 とりあえず探知してみた。

 スチールキャビネットの書庫には、それらしいファイルが無さそうだ。

 となると、本社の総務か。やっかいだな。ダメ元でなんとか、誰かに聞くか。

 でもなんて聞く?

 命が危ないからなんて言えるわけがないし、それこそストーカーみたいだ。

 俺はコーヒーを一気に飲んだ。


 待てよ。今は紙ファイルじゃなくて、電子情報化してないか? 

 だったらPCを操作すればわかる。

 

 ただ、どうやってPCの中身を見るかだ。

 それぞれのPCは、操作する時にもちろん、パスワードを入れないと操作できないし、何より個人情報は更にロックがかかっている。

 これだけは魔法とかじゃ無理だ。


 俺は事務所の様子を探知しながら考えた。


 10人ほどいる事務員も、そろそろ終業時間が迫ってきているせいか、そわそわしたり、ラストスパートをかけたり、落ち着かない人も出てきている。

 その中に疲れてきたのか、軽く欠伸をした男がいた。

 PCの画面と手元の書類を見ながら、しきりにチェックしているが、時々肩を上下させたり、村長のように首をゴキゴキ動かしている。


 ――― 人間か。出来るだろうか。

 疲れで集中力が薄れているところに、そっと忍び込むように、思念の触手を伸ばした。


≪≪≪――この支店の社員の住所を調べなければならない。この店の社員の住所だ。急ぎで調べなければいけない――≫≫≫

『田上さん』と個人名にしなかったのは、もしが記憶に残った時に、怪しまれないようにだ。


 テイムの催眠のような命令は、複雑でなくシンプルにしたほうがいい。

 何々に必要だからとか、余計な理由はいらないし、思考に混乱を与えるだけだから。

 その方が夢を見ている時のように、トンデモナイ事でも自然と受け入れてしまうのだ。


 男は少し頭を前後に揺らしたが、おもむろにマウスを動かすと、表示されていた表計算ソフトを最小化した。

 そしてデスクトップのアイコンの中から、総務フォルダをクリックすると、その中の人事フォルダを開いた。


 よし、そのまま頼むよ。俺は男の目を通して画面に見入る。

 パスワードを入力して、社員名簿を開く。

 頭から順々にスクロールしていく。

 焦るな、もう少しゆっくりと……。


 あった ! 『田上絵里子 (たがみえりこ) 〒120-00** 東京都足立区元綾瀬 ……』


 よし、覚えた。もう閉じていいよ、ありがとうっ。

 俺は触手を引っ込めた。


 男はビクンと頭を動かした後、『ん?』とPC画面を不思議そうに見て、軽く自分の頬をパチパチ叩くとファイルを閉じた。

 申し訳ない。今度このお礼はします。


 俺はスマホに住所を打つと、その場を後にした。


 

 駅からグーグルマップを見ながら、15分くらい歩いたところに、5階建ての団地が並んでいた。その1つの4階が田上さんの住まいだ。

 敷地内の花壇のある道を、夕飯の買い物を終えたらしい親子連れの姿が、チラホラ歩いている。

 だが、その中に彼女の姿はない。


 念のため建物の中を探知したが、やはり彼女はいない。買い物にでも出かけているのだろうか。

 戻って来るのを待とうかと考えたが、ここら辺の者でもない男が、ウロウロしていたら不審者に思われる。

 どこか自然に見張っていられるような、場所は―――。


 団地の入口のあたりに色が付いていた。

 それはポワンと発光しているモノや、べったりついているモノ、掠れたモノや極彩色なモノなどと、様々な色と特徴があった。


 残留オーラだ。

 たくさんのオーラが、子供がデタラメに絵具で汚した手で、ベタベタ触ったようにあちこちに残っていた。

 似ている色もたくさんある中から彼女のオーラを探す。


 あった、あった。

 色だけでなく、彼女の感じが伝わって来るオーラが。

 その中で一番ハッキリと新しいモノが、入口から花壇の前を通って道を横切っている。

 俺は犬のようにオーラの跡を追った。


 今やあのターヴィを探した時よりも、集中して出来ていると思う。

 あの黒い森のように荒れた魔素の中ではないし、俺自身の感度も上がっているせいだろう。

 いったんその1つのオーラに集中すると、他のオーラは色を無くしたかのように、気にならなくなった。

 そのオーラだけが、灰色のアスファルトの上に、ポツポツと道標みちしるべのようにくっきりと見えるのだ。


 横断歩道を渡り、商店街に入る。

 八百屋の店先で8の字の動きを見せ、スーパーの入口に出入りした跡があり、洋服屋の前でウロウロしたらしい。

 その後、商店街を抜けて、ややUターン気味にカーブしていくと、通りの先の公園に続いていた。


 冬の日暮れ時の公園には、もう子供はいなかった。

 軽くジョギングをしている男が1人、走り抜けていった。

 あとはベンチに座って、ぼんやり煙草を吸っているサラリーマン風の男……。


 いたっ! 

 滑り台の後ろに、ブランコが3つ並んでいる。その真ん中に幼稚園児くらいの男の子が1人、ブランコを漕いでいる。

 その隣にブラウン系のコートを着た彼女が、エコバッグを持って子供を見守っていた。


 ああ、良かった。まだ無事だった。

 俺は公園の入り口で、ホッと力を抜いた。

 さて彼女の無事を確認したが、この後どうしよう。

 そう思った瞬間、ぞわっと首筋を撫でられたような気がした。

 

 殺気だ。


 すぐに索敵した。

 すると、俺から対角線上に離れた、斜め左前の柵の所に、黒の革ジャンパーを着た40ぐらいの男が、彼女の後ろ姿をジッと見ていた。

 殺気はその男から発せられている。


 すかさず男を探知すると、ジャンパーのポケットに突っ込んだ右手には、ジャックナイフ飛び出しナイフが握られていた。

 もちろん彼女はまったく気がついていない。


 男が動いた。

 そのまま公園に入り、ズンズン彼女に近づいていく。

 彼女は子供を見て微笑んでいて、斜め後ろから来る男に気がつかない。

 男の手がポケットから抜かれた。

 俺は飛び出しながら、その男の手をめがけて土魔法を放った。

 男の右手の甲に小石がヒットする。


「田上さんっ、逃げてっ!」

 ビックリしてこちらを見た彼女は、俺の指さす方向へ振り返って、小さな悲鳴を上げた。


「絵里子ぉっ! てめえぇ、こんなとこに隠れやてがってぇっ !!」

 男は一度落としたナイフを拾いなおすと、走り出した。

 また悲鳴を上げた彼女は荷物を放り出すと、子供をブランコからさらうように抱きかかえて駆け出した。

 

 不味いっ! 

 俺との距離より、男の方が断然近い。

 だけど魔法を連発したらバレるかも。

 いやっ、そんなこと言ってる場合じゃないっ !!


 彼女との距離があと2mくらいと近づいた時、男が蹴躓けつまずいて転んだ。

 男の足元に小さな隆起を作ったのだ。

 そのおかげで、彼女がなんとか俺のそばまで走って来れた。


「てっめぇっ! 絵里子の男かあっ、やっぱり男作ってやがったのかぁ!」

 男の手からナイフの刃が飛び出した。

 それを見た彼女が、俺の背後でまたひきつった声を上げる。


 もう、俺の感覚がマヒしてしまったらしい。男の手にした刃物を見て、つい小さいと思ってしまったのだ。

 あの盗賊が向けてきた半月刀に比べたら、コンビニで貰うプラスチックフォークのようだ。


「くそっ、何がおかしいんだっ」

 あれっ 俺いま笑っちゃったのか? 

 ヤバい、変なギャップについ口元が緩んだらしい。

 もうおかしくなってるな、俺。


 ナイフが俺の左腹に向かって突っ込まれてきた。

 遅い。

 あの大カマキリやハイオークの突きに比べたら、子供のチャンバラのようだ。

 

 俺は半身左に逸れながら、右手で男のナイフを持つ手の甲を強く打った。

 と同時に、男の踵の後ろに右足を踏み込んで足をロック。

 右腕を掴みながら、左手で男の胸を思い切り押した。

 男が後ろにひっくり返る。


「警察、警察に電話してっ!」

 俺は男の右腕を掴みながら、田上さんに叫んだ。

 男は俺に背中を膝で押さえられながらもがいているが、右腕を固められて起き上がる事は出来ない。


 だが、田上さんはショックのせいか、子供を抱えて俺の方を見るだけで、しゃがみこんでいた。

 駄目か。どうしよう。

 俺のスマホは右手にあるから、収納に入れて左手で取り出すか?

 そういや、他に人がいなかったか? 

 誰もこの事態に気がつかないのか?


 まわりを見渡すと、やや離れたところに、さっきのベンチに座った男が相変わらず煙草を吸っていた。

 視線は漠然とこちらの方に目をやっているようなのに、俺達のことが目に入っていないようだった。

 その時、彼女の視線が、俺の上の方に注がれているのに気がついた。

 嫌な予感。


「よくやった、蒼也」

「まったく、か弱いご婦人に、刃物を向けようとは感心できませんね」

 俺の後ろには黒い最恐コンビが立っていた。

 若頭も黒いロングコートを羽織っている。

 マフィアとヤクザの揃い踏みである。


「いつからいたんだっ?」

「さあ、いつからかな? まあ後はオレ達に任せろ」

 てめえー、始めから見てやがったなぁ。

 ん、もしかして、あの夢やタイムカードも、もしかしてこいつらの仕業じゃないのか ?!

 ヴァリアスが男の首根っこを掴むと、ヒョイと立ち上がらせた。


「てっ、てめえら、なんだっ、何しやがるんだよっ」

 両手が自由になった男は、掴まれた後ろに手をまわそうとバタつきながら喚いた。


「お前、よくもウチのファミリーに手ぇ出してくれたな」

 ヴァリアスが顔を近づけて、低音で言うと男は体を震わせた。

「これは少しお仕置きが必要ですね」

 眼鏡の真ん中を右手で押さえたインテリヤクザも賛同する。

「ちょっとつら貸せ」

 俺と彼女はそのまま、3人が端っこにある公衆トイレに消えるのを、顔ごと動かして見ていた。


『ケケケ、上手くいったようだねー』

 後ろで大陸語が聞こえた。

『ご無事で何よりです』

 振り返ると金髪2人組が立っていた。


『えっ ナジャ様、キリコも?』

『隠蔽の結界を張ってあるから、騒ぎは外に漏れてないから大丈夫だよー』

 そう言って彼女の側に行くと、男の子の頭を撫でた。

 この騒動に泣きじゃくっていた子供は、少女の顔を見て泣き止んだ。

 このチャイルドキラーめ。


『こちらの女性もお怪我ありませんか?』

 キリコが彼女のほうを覗き込む。

 ちょっと当惑気味にしていた彼女が、キリコに見つめられて少しはにかむように下を向いた。

 こらぁっ、キリコ! このマダムキラーがっ 

 なに、さり気なくジャマしに来てくれちゃってんだよ !


「よおっ こっちも終わったぞ」

 いつの間にか黒いコンビも戻ってきていた。

「アイツはもうこっちに来ないぞ。じっくり言って聞かせたからな」

「そうです。どうかご安心ください」

「えっえっ……?!」

 俺以上に動揺する彼女。

 後から知ったが、あの男は彼女の内縁の夫だったそうだ。

 DVのせいで子供を連れて逃げた彼女を、探して追いかけて来たらしい。


「本当に大丈夫なのか? あの男をそのまま帰したのか?」

 ほっといたら、また彼女に危害を加えにくるんじゃないのか。


『とりあえず遠くに置いてきた』

 聞かれて拙いことらしく、急にヴァリアスも大陸語になった。

『カラフトという名の場所です』と若頭。

『樺太っ ?! 日本じゃなっ……いや、日本だけど、そんな遠くに置いてきて大丈夫なのか?』

『ぎりぎり日本語が通じるから大丈夫だろ。本当は地球の反対側に落として来ようと思ったんだが、そこまでやると、こっち地球の運命に過剰関与になるからな。

 ギリ許容範囲だ』

 すでに過剰になってないのか。国内と認められればいいのか?


『それにあの男はさ、戻ってきても彼女のこと、分からないから大丈夫だよー。

 彼女に関する記憶を別人にすり替えたからね。

 今後あいつは存在しないを追い続ける羽目になるよ。ケケケー』

『そんな事して良いんですか? なんかこっちの規則とかに引っかからないんですか?』


『ちゃんと許可はもらってるぞ、なあ』

 マフィアにヤクザが相槌を打つ。

『ええ、事情を話したら、意外なほどあっさりと許可が下りました』

『ヴァリーの脅しも効いたからねー、ケケケー』


『蒼也の嫁候補で、ウチのファミリーになるかも知れない女なんだから、何とかしろって言っただけだ。

 そしたら運命を少し変える操作の許可が取れたんだ。

 脅しじゃねぇだろ。ちゃんとした申請だ。』


『なんだよっ、嫁候補って !?』

 俺は思わず声が上ずってしまった。

『ほんのちょっとだけ、運命の選択糸せんたくしの一部を太くしたり、横糸を紡がせて頂きました。

 良き流れになって頂ければ幸いです』

 若頭が右手を胸に当てて軽く会釈する。 

『もちろん、オレ達はあくまでサポートしただけだ。実際に行動して回避したのは、人間のお前だからな』

 悪魔がニヤリと笑う。


「あ、あの、東野さん、この方達は……? それにどうして、東野さんここに……??」

 やっと状況を把握し始めた彼女が、皆を見回しながら訊いてきた。

「あ、あの、それはですね……」

 あ~、言い訳考えてなかったよぉ。


 が、彼女の眉が微かにぴくんと動いたかと思うと

「あ、あらヤダ、わたしったら自分で頼んでおいてぇ。何忘れてるのかしらぁ……」

 今度は彼女が恥ずかしそうに言ってきた。

 えっ どうした?


『こっちも記憶変えといたよ、そのほうが面倒くさくないだろー』

 彼女の後ろで、ナジャ様がウインクする。

「ご免なさいね。わたしが彼の事で相談してもらってたのよねぇ。東野さんがその手のプロの人を知ってるって、言ってくれてたから」

 なに、そんな筋書きにしたのかよ。どんな仕事人ストーリーだよ。


「でも、東野さん、さっきはカッコ良かったぁ。凄く強いのね」

 彼女はあらためて、俺に感謝の眼差しを向けてくれた。

「いや、昔少しだけ合気道やってて、役に立って良かったです」

 これは少し期待してもいいのか。


「そうですよ。ソーヤは結構強いんです。だから私はしっかりと健康管理の為に、また料理作りに来ましたよ。もちろん朝から夜まで(三食)しっかりお世話しますよ」

 と、美青年は料理が作れる事が嬉しいのか、少しウキウキ気味に言った。

「え……、料理…………?」

 彼女がキリコを怪訝そうにまじまじ見た。


 キリコーッ! 誤解生むような言い方するんじゃねぇーっ!! 

 よりによって日本語で言うなっ!

 こいつもどこか抜けてると思っていたが、天然野郎かあ。

 使徒にはヤバい奴しかいないのか!?


 不思議そうな顔をしている彼女と、頭を抱えた俺を、4体の地球外人外ちきゅうがいじんがいどもがニヤニヤしながら、取り囲んでいた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


次回は『ドラゴン』から見た閑話となります。

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