第90話 オーク・リベンジ
ぞわっと体中の毛が総毛立つのを感じた。すぐに森の奥に向かって猛ダッシュする。
もう気分は、山菜取りにうっかり山奥まで入ったら、そこでヒグマに遭遇してしまった時のような怖さだ。
本来なら以前のように、後ろ向きに探知しながら、後退した方がいいのだろうけど、そんな考えは吹っ飛んでいた。
もうパニック状態である。
「クソ、くそっ どうしろってんだよっ!」
ここで俺が遠くまで転移を繰り返せば、逃げ切るのは可能だと思う。
だけどそれをしたら、きっとオークの奴は、すぐ村に行く行動に切り替えるはず。
自分の命ももちろん惜しいが、自分のせいで村に被害が出るのも嫌だ。
「簡単な事だ。あの豚を
全力で走ってる俺に、ピッタリくっ付いて来ているように、声がぶれもせず話してくる。
「ふざけんなっ! 毎回毎回、よくやってくれるなっ あんた! 俺に本当は恨みでもあるんじゃないのかっ」
「もちろん全然ないぞ。むしろ大事にしてやってるじゃないか。お前のとこの言葉にもあるだろ、
『可愛い子には旅をさせろ』って」
「あんたの場合は『(
もうなんだか、こいつと話してると調子が狂う。
でもこんなバカ話したおかげで、すこし恐怖心が和らいだようだ。
探知せずとも後ろから、凄い勢いで追っかけて来ているのはわかる。
地面を叩き続けるような激しい音と、荒い鼻息が迫っている。
とにかく体勢を立て直すのに、ちょっと時間稼ぎしたい。
俺はあたりにもっと高い樹がないか、走りながら目を動かした。
転移で――いや、それを見せてしまったら、もしかすると奴が追っかけっこを諦めてしまうかもしれない。
あくまでギリギリ引っ張りながら逃げないと。
目についた一番高そうな樹の幹に飛びついた。
泥熊との追いかけっこの時より、ずっと上手く早く、登る事が出来る。スピードクライミングのように、反射的に手足をかける位置や場所がわかるようになった。
【このサル野郎がっ】
幹を強い力で蹴り飛ばして、オークが舌打ちした。
お前に言われたくないよ。
おもむろにオークは、持っていたメイスを口に挟んだ。そのまま両手を幹にかける。
と、まるでイモリが壁を走るような勢いで、ガガガッと登り上がってきた。
なんだこいつっ! 猪豚じゃなくてゴリラだったのかっ!!
やべぇっ、飛び降りるか、転移しないと。
いや、転移はギリギリまで見せちゃダメだ。
目に入った隣の樹の枝に飛び移る。そのままの勢いで、3つ先の樹まで飛び移った。
枝に立って振り返ると、少し離れた樹の幹に掴まった、ゴリラ猪がこっちを忌々しそうに睨んでいた。
『ブォオオオォォーッ!!』
オークは咆哮した。
ドラゴンの洗礼を浴びていた俺は、以前ならビビらなかった。なのに今は、自分でも抑えられないくらい身震いがした。
本当にどうしちまったんだ、俺。
前回、ハイオークに殺されそうになったのが、そんなに
―――この時の俺は、あのオーク戦の際に、ヴァリアスが記憶の一部を抜いたことを知らない。
だから神経にダメージを残すほど、喰らったオーラの毒や深層意識に植え込まれた恐怖のことなど、全く思いつかなかった―――
この高さから落とせば、少しはダメージあるか?
オークの乗っている幹を破壊しようとした次の瞬間、3mのオークが吹っ飛ぶように樹からジャンプしてきた。
エッ !? ちょっと落ちそうになったが、オークは手前の樹の枝を掴むと、すぐに枝上に体勢を整えた。
俺はまた急いで別の樹に跳ぶ。
樹上の追いかけっこになってしまった。
とんだジャングルブックだ。
俺はワザと、枝の隙間の細いところを選んで通り抜けた。
だがオークのパワーの前には、障害の助けにもならない。バキバキ枝を折りながら追いかけてくる。今度はなるべく細めの枝を選ぼうとした。
オークの体重なら、枝が耐えきれないかもしれないからだ。
なのにオークの奴は足場を落とすどころか、大猿のように枝をしならせて跳んできた。
「なんであいつの体重で落ちねぇんだっ ?!」
「ありゃあ、アイツの前世の
すぐ横で視えないヴァリアスの声が返答してきた。
「オークやゴブリンに生まれ変わっても、前世の能力を引き継ぐことがあるんだ。完全じゃないけどな。
ゴブリンやオークが厄介なのは、その性格だけじゃないんだよ」
「ふざけんなっ ! 馬鹿じゃないのか。なんだよ、その法則 ?! どんだけ人間イジメたいんだっ」
「イジメじゃない。なんたって人間どもの天敵だからな。ヤツらも魔法が使えなくちゃ不公平だろ?」
「そんなもんクソくらえっ!」
「アイツの元の通り名は『捻じれのハンス』、そのほかに『空気のハンス』って言われてたらしい。空間系の引力能力だな。自分の体しか操れないようだが」
「十分強力じゃねぇかっ」
ざわっと嫌な予感がした。
段々奴の枝を踏む音が小さくなってきている。
この時やっと俺は索敵を再開した。
オークの軌道が少しづつ、綺麗な曲線を描くようになっていた。始めの時のようにやや固く、重そうだった体の動きが段々と
蹴って足場にした枝は、ほとんどしならなくなった。
「慣れてきたな」
ヴァリアスが恐ろしい事をさらっと言ってきた。
「逃げてばかりじゃマズいぞ、そろそろ反撃しないと。アイツ、昔の感を取り戻し始めてる」
振り返った。
本当は凄い速さで動いているはずなのに、何故かスローモーションになったように、その動きはゆっくりと感じられた。
ピーターパンがウェンディ達と月夜の空を飛んだ時のように、綺麗に空中を舞っている。
それがみるみる大きくなってきて―――。
「気を付けろっ 蒼也!」
ハッとした時には焦げ茶色の3本の指が目の前にあった。掌の毛が無い部分は黒い皮膚だ。
いやっ、これはオーラだ! 手の先から全身を黒いドロドロしたものが、べっとりついてまわりに飛散していた。
「ひっ!」
思わず転移してしまった。
ドサッと地面にしたたか尻もちをついた。
どこに跳んだ ?! 咄嗟にやったために自分でもわからなくなっていた。
慌てて索敵すると、オークは左後方20mくらいの樹上にいた。枝葉の間から動く茶色の影が見える。
近すぎる。
とにかく一旦ここを離れよう。離れて体勢を整えよう。
そうだ、村にはさっきのカカみたいな巨人だっているんだ。
俺がやらなくても、きっとなんとかしてくれるはずだ。
俺はできる限り遠くへ跳ぼうした。
が、何か不穏な膜のようなモノを感じて、転移できなかった。
「?!!」
何回やっても同じことだった。
どうしたっ ?! なんでいきなり出来なくなった?
「無駄に魔力と体力を使うな」
動揺する俺の横で、変わらない声がする。
『(どういう事だ。まさかあんたが逃げられないように邪魔してるのかっ)』
俺はオークに聞こえないように、
『(そんな事するか。よく目を凝らして、まわりを視てみろ)』
言われて身をかがめながら、辺りを探知した。
オークはまだ樹上で鼻をクンクンさせている。こっちは風下だったかな。
そのオークの乗っている枝に、ベットリ黒いモノが
『(あちこちにアイツの残留オーラがついているのがわかるだろ? そしてお前はそのオーラを怖がっている。魔物が嫌うあの魔除けの杭のように。
さっき逃げ回ったせいで、お前は意図せずに、自分を追い詰める結界を作っちまったんだよ)』
『(それって――出られないって事なのか――)』
体の芯から震えがくる。
『(何度も言うが恐怖に打ち勝てばいいんだ。お前のとこの、リトルマウスだって、追い詰められれば天敵に噛みつくんだろ?)』
……………………こいつは、こんな時でもこの調子かよ…………。
『(……それを言うなら【
クソヴァリー、これが終わったら……………)』
『(なんだ?)』
『(一発殴らせろっ)』
『(おお、いいぞ。一発と言わず、百発でもいいぞ)』
なんで嬉しそうなんだよ、こいつは。
鼻を動かしていたオークが、ピタッとこっちのほうを向いた。
気がつきやがった。
俺は反射的に体中を強化した。
まるで弾丸が発射されたかのように、焦げ茶色の塊が吹っ飛んできた。右側から思い切りメイスが振られる。
ビッ! と避けた上着の裾がスパイクに擦れる。
ギリかわして地面に手をつくと、その低い体勢のまま追い風を使ってダッシュした。
怖いっ。
走りながら自分の心臓の鼓動が、筋肉が体中を震わしている。
落ち着けっ 俺の心臓、静まれ俺の手足、もう四の五の言ってる場合じゃないんだっ!
俺の脳みそっ、怯えてないで、なんとか考えろっ。
『ブシャシャシャシャーッ!』
オークの
走りながら探知すると、どうも半径40m前後の範囲で、結界が出来てしまってるようだ。
狭いっ、これじゃ転移もあまり意味がない。
いや、上は?
空高くに移動して、高い位置から転移すれば結界を抜けられるんじゃないのか?
俺は上を見上げると、思い切り高く転移しようとした。
『 ――― 大丈夫だ。落ち着いてやれば、お前ならやれるよ。
お前は我の子なんだから ――― 』
―――――― お父さん?! ―――――――
辺りを見回すが、もちろんオークの気配しかない。
ヴァリアスの奴のじゃなかった。
確かに今のは
はあぁー 、息を吐いて力が抜けた。
……まったく、使徒といい、神様といい、やっぱり似たモノ同士だな。
結局助けてくれないのは一緒かよ。
――― でも ――― 見ててはくれてるんだ。
神様の子が逃げ回ってばっかじゃ、父さんに恥かかせちゃうな。
今度はさっきとは違う、武者震いのような震えがやって来た。
パシッと軽く顔をはたく。
気合いれろっ、俺。
焦げ茶色の巨大な姿が、枝を押し破って飛び出してきた。
俺はグッと奥歯を噛むと転移した。
【 !? 】
オークの背中の上にとび出す。
上をとった。
すかさず収納からファルシオンを取り出し、振り返ろうとしたオークの首筋に刃を思い切り打ち立てた。
が、足場にしたオークの体が消えた。
違うっ 素早く横に移動したんだ。
オークが振り向きざま、メイスを振ろうとした。
転移。3mくらい後ろに跳んだ。
以前より感覚的に出来るようになったとはいえ、むやみにやって、樹の中に出現する可能性がゼロになった訳じゃない。
俺の心配症がこんな時でも頭をもたげる。
心臓がドクドク激しく鼓動する。
【転移か……。ちょこまかと 【ブシュッ】 小賢しいマネするサルだな】
オークは鼻を手の甲でこすりながら言ってきた。
「お前に言われたくないよ」
俺も身構えながら答えた。
こうやってあらためて対峙すると、また奥底から恐怖がにじみ出て来て、腰が引けそうになるが、なんとか踏ん張った。
【だが、その調子だと 【ブフ】 もうあんまり転移出来ないんじゃねぇのか 【ボフフ】 魔力だってそんなに残ってねぇだろ】
お生憎様。俺は護符から魔力が供給されてるから、そんなに切れる事は無さそうなんだよ。心配なのは体力・気力のほうだが。
「人の事言ってる場合か。お前だってこんだけ飛んで、カツカツじゃねえのか!」
俺も怖がっていると思われないように、精一杯強がって声を出す。
【【ブワッフフ】 おれは昔っから 【ボヒィ】 魔力だきゃあ多いんだよ】
くそっ 魔力自慢かよ。
『(アイツ、このまま生かしておいたら、ハイオークどころかロードオークになりそうだな)』
バカヴァリ―が、いま聞きたくもない情報を、頭の中に囁いてくる。
『(なんだよそれっ、ハイより上位ランクがあったのかよ! 厄介じゃねぇかっ)』
それだけの実力って事かよ。
オークの体から黒いヘドロのようなものが、立ち昇るのが見えた。
殺気が上がったんだ。
焦げ茶の体がダッシュしてきたと同時に、背中側に転移。
が、今度はオークがグルンとこっちを振り返りざま、メイスを振ってきた。
俺は剣で咄嗟にまともに受けてしまい、その勢いで地面に吹っ飛ばされた。
したたかに背中を打つ。すぐに転移。
俺がいた地面にメイスが撃ち込まれる。
高めの樹の枝に掴まりながら、俺は少し息を整えた。
さすがに短いとはいえ、転移を連発したのは疲れる。さっき失敗に終わったが、何回も試みたせいもあるようだ。
それに空中だと踏ん張りが利かないから、とっさに避けづらい。風魔法で動くより、つい怖くて反射的に転移してしまう。
だけどそれじゃいつまでたっても終わらない。なんとか叩き込めれば……。
武器をあまり見せたくないので、アサシンのように腰のダガーを空間収納する。
俺は剣を握り直した。
またオークの後ろに転移。
気配を悟ってすぐさま左腕を横に振って来る。
俺は剣で押し上げるようにその腕を逸らした。
これくらいじゃこの剛毛に覆われた、硬い肉は切れそうにない。
だが逸らした反動を利用して、俺は下に素早く滑り込み、足元を狙った。
ガツンっと垂直に、蹄と指の間に突き刺す。
『ボギャアァッ!!』
よしっいける! なんとか剣が突き刺さるとこがあるなら、弱いところを狙えば刺せるぞ。
続いて頭の上に転移。耳の中に剣を―――
≪≪≪ ガンッ!! ≫≫≫
頭に衝撃が走った。目の前に本当に火花が散った。
何が起こったのかわからなかった。
実はこのとき、オークの奴が頭を思い切り上げてきたのだ。俺はその頭突きを喰らったのである。
襟を掴まれて思い切り、地面に叩きつけられた。
背中を強く打ち付けて、一瞬息が止まる。
オークは俺の服を掴んだまま、覆いかぶさってきた。
あの時と同じだっ!
すぐに膝を胸に引き付けて、足の裏を上に向けた。
ドズンッ 重っ !!
咄嗟に下の地面を粘土のように柔らかくしたおかげで、ずい分衝撃を吸収できたが、それでも凄い衝撃だった。
今度こそ折れてないと思うが、挟まれて足が全く動かない。
襟を掴まれているので、くっ付いてくるから転移はできない。
剣は…………少し離れた茂みに落っこちていた。
『ブシュ― フー フー』
オークの荒い息をした、大きな顔が目の前にある。
その目には、思わず咳き込む俺が映っている。
【……ふざけやがって 【フー】 でも、もう 【ボフゥー】 逃がしゃしねぇ 【フゥー】】
俺は襟を掴んでいる腕を、両手で掴んだ。
【 へっ、へへへ……。 まずは両目を潰してやる。そして右手、左手の順で指を一本ずつ折っていってやるよ】
ドロリと悪意のこもったコールタールのようなオーラが、俺の顔に垂れてきた。
反射的にぞくりとして、背中に悪寒が走る。
だが、そのオーラが俺に触れる瞬間、その黒い淀んだものが四方にはじけ飛び、霧散した。
父さんの護符が守ってくれてる。
意を決して、その捻じれた唇を引っ掴むと、勝ち誇ったように開けた口の中に、俺は右手にダガーを出しながら突っ込んだ。
そのまま力任せに喉奥に刺した瞬間、渾身の電気をダガーに流し込む。
脳まで貫けっ!
『ヴァッギャアァァァッ!! 』
オークの口から汚い飛沫が飛び散って、俺の顔や服を汚した。
だが、俺はそのまま電撃を止めなかった。
最高の圧力と電流を脳めがけて、流し込んだ。
ボタボタとどす黒赤の液体が、滴り落ちて来ても、俺は息を止めて流し続けた。
やがてオークは動きを止めた。
襟を掴む力がすっと緩んだ。
俺は
ドタンッ! と音を立てて、オークの体が横に転がった。
そのまま横に俺も転がって離れる。
「イテェ……」
手をついて膝立ちしようとすると、やはり足が痺れている。でも折れちゃいないようだ。
振り返るとオークは、仰向けになりながら口から泡を吹き、手足を痙攣させていた。
俺は這いつくばりながら、おそるおそるオークに近づくと、カマキリの時と同様に、頭に空間収納の空間の歪みを押し付けた。
「ん、まだ駄目なのか……」
オークのデカい頭が半分くらい入ったとこで、うんともすんとも動かなくなった。
魂が剥がれない。
両手でその歪み自身に手を添えて、押してみたが1㎝も動かない。押し過ぎて自分の手が入ってしまった。
気分は良くないが、もう一度トドメを刺さないと……。
「良くやった、蒼也」
ヴァリアスの奴が横に姿を現した。
「お前はここまででいい。後はこっちに任せろ」
そう言ってオークを見下ろすと
「おい、ハンス、往生際が悪いぞ。お前の魂はとっくに体から剥れてるんだ。いつまでもしがみついてないで、さっさと地獄に戻りやがれ」
そうして辺りを見回す。
「天使ども、こいつ
奴が俺の頭に手を置いた。そのせいで俺にも見えた。
オークの焦げ茶色の大熊のような巨体に、もう一つの黒い塊が鼓動するように揺れながら重なっていた。
それは少し顔を上げると、ポッカリ開いた深淵より暗い穴のような目で、俺達を見た。
あらためてブルっと震えがきた。
その時、俺の這いつくばった両手の手前に、いきなり暗い歪みが生じてきたので、慌てて手を引っ込めた。
波打つような鋭い刺がついた、触手としか言いようのない、何百本もの不定形な蔓のようなものが、シュルシュルと伸びて来る。
それは黒、紫、赤などの色が混ざり合い、うねりながら、黒い塊に巻き付いた。
【 オオオオオォォーッ!! 】
黒い塊が抵抗したが、触手が情け容赦なく、顔と言わず、胴体や手足をどんどん縛り上げ、最終的に
そして触手は万力の力をこめて、それをミシミシと絞る様に締め上げていき、最終的にバットのように細くなると、ずるずると歪みの中に引きずり込んでいった。
それがすっかり見えなくなると、後には大きなオークの死体だけが残った。
俺がまだ呆けたように、座り込んでその姿を見ていると、奴がまた高い音を出して、体中にキラキラしたものが降り注いできた。
体力が戻ってきた。
「よし、これで今の因縁は無くなったし、体力も戻したぞ。もうアイツとは多分会わないはずだから、安心しろ」
そう言って手を離した。
俺はゆっくりと首をまわして奴を見た。
「……そういうあんたは、しがらみ落としたのか? もうあんたのツケまで払わされるの御免だぞ」
「オレはいつだってクリーンだぞ。今回たまたま例外だっただけだ」
「怪しいもんだ……」
「じゃあ約束だから、一発入れていいぞ」
奴が屈んで俺の手首を掴むと、頬に当てた。
初めて触れた奴の肌は、鉄のように硬かった。
「……借りにしとくよ。今殴っても、俺の手が壊れちまう」
「そうか、じゃあ強くなるまで、楽しみに待ってるぜ」
そう嬉しそうに言うと、立ち上がりながら森の奥を見た。
「では、行くか。まだ探索範囲が少し残ってるだろ。
2匹、地豚がこっちに逃げて来てるしな。
さっさと済まして村に帰るぞ」
頭の中身はもう火酒にいっているようだ。
「……………もう日本に帰りたい……」
俺は祈るのも忘れて、息を吐いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます