第52話 酒宴の夜


 目が覚めたのは明け方だった。

 ポケットから腕時計を出すと5時23分を指していた。

 窓から白々とした空が見える。

 しばらくここが何処だか分らなかった。

 いつもの宿の2段ベッドではない、クイーンサイズくらいのベッドに1人寝ていた。

 見回すと壁際にソファとキャビネットがあって、手前にテーブルと椅子が4つ置いてある。

 ちょっと離れたとこに突っ立ているハンガーラックに、俺の上着とバッグがぶる下がっていた。

 誰もいない。

 ぼやーとしていたら急にトイレに行きたくなって、昨夜の事を思い出した。

 そうだった、昨夜は散々酒を飲まされたんだった。


 ************************


 あれから村に戻り報告もあるので、まずは役場に直行した。

 ターヴィにすれば即家に帰りたいだろうが、そこはちょっと我慢してもらう。

 中央広場に出たとき時計を見ると、6時17分。街の広場とは違ってこの時間で人っ子一人いない。

 役場の前にはもちろん老人達の姿はなかったが、半分開いた窓から明かりが漏れている。


 ドアを開けると、箒で床を掃いているポルクルが顔を上げた。

「ターヴィさん?! ご無事でっ」

 箒と塵取りを放り出しこっちに走り寄って来ようとして、手前で立ち止まると、今度は

「マスター、マスター」と高い声を上げて階段を小走りに上がっていった。

 すぐに村長がドタドタと降りてきた。


「本当だっ! エライ早かったなっ」

 村長はターヴィの前に来ると、彼を高い高いをするように抱え上げた。

「いやっ 良く生きて戻ったな、お前っ」

「村長 ご心配かけました」

 ポルクルはすぐに外に出ていった。恐らくシヴィを呼びに行っているのだろう。

「ここからあの森まで、どんなに急いでも半日はかかる。往復したら1日だ。

 それをどうやったんいだ?」

 ターヴィを床に降ろすと村長が俺達に訊いてきた。


「すいませんが、それは企業秘密で言えません」

「企業………?」

「おいらも良くわからないんで」

 村長に顔を向けられてターヴィも答える。

「ふーん……」

 村長は首を傾けて右肩をゴキゴキ回しながら、ふとヴァリアスのほうを見た。

 村長はヴァリアスと目が合っても引かない。

 少し間があってから「まっ いいか」と村長はあらためて俺に向き直ると

「じゃあ依頼完了の手続きするか」


 手続きをしていると、シヴィがポルクルと一緒に走りこんできて、ぶつかるようにターヴィに抱きついた。

 小さな子供同士が、抱き合って泣いているようにしか見えないのだが、その姿を見て本当に良かったと思った。

 凄い弾丸レスキューだったけど。


 報酬金も貰って帰ろうとすると、シヴィが俺の前に来て、ぐしょぐしょの顔で何度もお礼を言ってきた。

 俺がターヴィが頑張ってたからだと言っていると、村長がそばに来て

「もう遅いし、今日はこの村に泊まってくんだろ? 酒なら奢るぞ」

 と、ヴァリアスの肩を叩いた。

「あの、宿なら街に取ってますし、それに彼すごく飲みますよ」

「ああん? 街って何処まで帰る気なんだよ。それに奢るっつたって、この村にある分だけだぞ。

 それで十分だろ」と大きな声で笑った。


「ジジイ、オレがそこまでは飲めないとでも思ってるのかぁ」

「ちょっと待て、村長はそういう意味で言ってるんじゃないだろ」

「おお、じゃあ試してみようじゃないかっ。

 ポルクル、各ギルドにこの依頼が完了した旨連絡しといてくれ」

「かしこまりました」

 ポルクルがカウンターの中に入っていった。


「ターヴィお前はひとまず家に帰れ。

明日あらためて事情を聞くから、今日のとこはゆっくり休め」

 村長にそう言われてターヴィとシヴィは、俺達と村長にまた何度も頭を下げると出て行こうとした。

「リトゥ、お前さっき言った契約の件忘れるなよ。忘れやがったら思い出すまで、また森に戻すからな」

 悪魔が追い打ちをかける。

 ターヴィがまたビクンと体を震わせてから頭を大きく下げた。


「はいっ 大丈夫です……。絶対忘れませんので」

 せっかくの良いムードが~。

 もうやってる事が暴力団そのままなんだよ。

 神様の使徒というより堕天してないかコイツは。


「なんじゃ、契約って?」と村長。

 俺も内容は知らない。

「いや、まだちゃんと正式に決めてない事で……。ターヴィさん、とにかくゆっくり休んでください。

 コイツは酒飲ましておけば一応大人しくしてますから」

「なんだよ、オレはアル中じゃないぞ」

「まっ、よく分からんが、とりあえず行くか」


 なんか流れで外に出ると、広場を横切って向かいの居酒屋に入る。

 広場には猫一匹いなかったのに、中はかなりの賑わいだった。


「いらっしゃい村長、あらっ お連れさん? いつもの席でいいかしら」

 グレーと赤紫のメッシュな毛並みの獣人の、ちょっと仇っぽいお姉さんが入って来た俺達を見て声をかけた。

「ああ、空いてるならそこでいいよ」


 案内されたのはカウンター横の、奥まったとこに配置された四角い木のテーブルと長椅子。

 そこに座ると店の中や入口が良く見えた。

 座ると同時に、さっきのお姉さんがすぐにエールを3つ持ってきた。

 もう 『とりあえずナマ』 的なお約束なのだろうか。


「あらためてお疲れさんっ」

 村長はそう言って、ジョッキを俺達の杯に軽くぶつけるとエールをあおった。俺も飲んでみる。

 香りからするとエールのようだが、今まで飲んでいたのより豊かなフルーティというか、香りが強くてコクもある。あらためてエールって感じがする。

「旨いだろ? この村の地エールなんだよ。最近やたら冷やしたり、ラガービールとかが出回り始めてるようだが、やっぱビールはこうでなくっちゃな」

 と、村長が地元エール自慢を話している間にヴァリアスが飲みほした。


「おっと、始めから飛ばすなぁ。ダリアぁー、エール2つ追加だっ」

「あの私はあんまり酒強くないので………」

 そんなテンポで飲めないぞ。

「あー、なんとなくそうかなとは思ったよ。これはこっちのS……傭兵の旦那の分だよ」

「ジジイ、お前も飲むんだろうな」

「そりゃもちろん、儂だってこのラーケル村の男だからな」

 そういうと村長も自分の分の杯を一気に空けた。

 なんかこの2人のペースに巻き込まれないよう、俺は早々に果実水にしよう。


「あとなんか食べるだろ? どんどん頼むから食べてくれよな」

 なんだろ。この店にはこういうのしか無いのか、または頼まなかったのか分からないが、テーブルに並べられた料理はどれも肉三昧だった。

 確かに昼はオークソテー食べたけど、毎回はさすがに胃にもたれるぞ。

 俺はドードーの塩焼き串を食べながら別のテーブルを見回した。

 うーん、見える範囲ではなんかコッテリしたものばかりな気がする。

 

 それにしても亜人多いな。

 もちろんヒュームのほうが多いのだが、ドワーフや毛深い獣人、あっちの奥の席で体を小さく丸めるようにしてるが、どう見ても巨人族らしき大きすぎる人もいる。


「亜人多いだろ?」

 村長が俺の視線に気がついて言ってきた。

「ウチの村は亜人率3割強と多いんだ。

 ヒュームの若いのは田舎を嫌って、すぐ大きな町に行きたがる。亜人の奴らのほうがこうして田舎の良さを知ってるからな。

 今じゃ若いヒュームは2人しかいねぇ。そのうち亜人の村になっちまうかもしれないが、まぁそれならそれでいいんだがな」

 確かに俺や村長のようなヒューム族は皆、中年から老人といったとこか。

 若者が都会を好むって、どこの世界でもあるのかもしれないけど、逆に亜人はこうしたカントリー的なほうを好むのだろうか。


「亜人はな、元々山奥とか森に住んでたんだ」

 ヴァリアスが言った。

「自然と生きるのが信条という事もあるが、迫害されていた頃ヒュームと会わないようにな。だから都会よりこういう田舎のほうが馴染むんだよ」

 ああそうか、今は差別撤廃してるって事は、昔はあったって事だもんな。そういう名残りなのか。


「しかしあんた、見かけ通り獣人並みに歯が強いな。儂も昔は魚の骨くらいならイケたんだが、最近はめっきり弱っちまったからなぁ」

 そう言われたヴァリアスは、ドードーの足を揚げたものを骨ごとバリバリかみ砕いている。

「うるさいジジイ。これくらいベーシス系でも食べれるわ」

 いや、俺も食べれないけどな。


 その俺は串焼きを食べたあと、それぞれの肉料理に少しずつ添えられている、ポテトサラダとか葉っぱをつついていた。

 すると木製のジョッキを下げに来た、ダリアと呼ばれた獣人のお姉さんがそっと俺に囁いてきた。

「肉が苦手なら川魚の塩焼きとか、赤大豆と長瓜の芥子菜炒めとかあるわよ」

「じゃあ魚お願いします」

 俺はすかさずお願いした。


 ダリアがミニスカートの下から、赤紫色の尾を振りながら戻っていくのをつい目が追ってしまった。

 もう少し尻尾が上がったら、スカートがめくれてしまいそうなのが気になるのだが。

 スカートから出ている形の綺麗な足も、タイツをはいたような短毛に覆われている。

 見慣れてないから物珍しさでつい見てしまう。

 決していやらしい気持ではない。


 バタンと勢いよくドアが開いて1人のドワーフが飛び込んできた。そいつは俺達のテーブルにまっすぐやって来た。


「村長っ、ターヴィが、ターヴィの奴が戻って来てんぞっ! 今、橋んとこをシヴィと2人で歩いてったの見たぞぉ!」

「おうっ! そうさ。さっきな救助されたんだ。この人達にな」

 赤茶色の髭のドワーフはあらためて村長の前にいた俺達を見ると、被っていた縁無しのフエルト帽を取った。

「何っ、そうだったんかっ! いやぁ、そりゃ良かったぁ。もう駄目かと思っとったんにさ」

 そう言うとドワーフは村長の隣に座ってきた。

 村長はヴァリアスの前に座っているので、俺はドワーフと向かい合わせになった。


「いやホントに、アイツ助けてくれてアリガてぇや。俺に1杯づつ奢らせてくれよ。

 おーいっ ここにエール4杯くれーっ」

「おい、ビンデル、儂の分はいいぞ。それにこのテーブルの分は、今日は儂の奢りだ」

「良いじゃねぇか、俺っちだって礼くらいしてぇんだよ」

 あれっ、次はお茶か果実水にしようと思ってたのに。

 むー、まぁ1杯くらいなら良いか。


 ダリアが持ってきた焼き魚はアユに似た魚だった。付け合わせの甘辛煮の牛蒡に似た根菜が良く合っている。

 良かった、食べれるモノがあった。御飯があればもっと良かったのだけど。

 まさか店でオニギリ出すわけにいかないし。

 代わりに付いて来た黒パンと豆スープで食べる。


「でな、そん時振り返ったハーピーの顔が何とも言えない艶っぽい流し目をしててなぁ、ちとゾクッときて、つい止めをさす手が遅れちまった。おかげで逃げられちまったよ。

 ありゃあ 鳥にしとくには惜しい良い女だったなぁ」

 ビンデルがしみじみと話す。

「卵を産んだばかりとかで疲弊してたんだろ。アイツらそういう時にちょっと憂い顔になるからな」

 とヴァリアス。


「よっく知ってんなぁ。確かに巣に卵が3つ残ってたからよ。2つ貰ってきた。

 流し目に免じて1つは残してきたってわけよ」

 ドワーフがエールをあおった。

「あんたも何かそういう珍しいのを見た事あるかい?」

「そうだなぁ、昔やったのでリング百足の奴の輪の向きを逆にしてやると、暫く足を動かすのを意識して、足がバラバラに動くところなんかが面白かったかな」

「ワーハッハッ、あんたもつうだなぁ!

 だけどリング百足って成虫は輪の直径は2m越えるぞぉ。普通出来ねぇよなぁ」

 と村長。


 そういうもんなのか? 俺にはよくわからないんだけど。

 後で見せられたが、リング百足というのは太さが両手一抱ひとかかえくらいの巨大な百足で、いつも尻尾をくわえて輪っか状になって移動している節足動物だ。

 こいつは目が見えないので、そうやって自分の輪の内側に入ったモノを獲物と判断するらしい。

 しかし異世界の居酒屋談義って、こういうもんなのか?

 

 俺がぼんやりと3人のしている魔物話を聞いてると

「お隣よろしいでしょうか?」と声をかけられた。

 振り向くとドワーフと同じくらいの背丈の男が立っていた。


 少し白髪交じりの濃い青紫色の髪と、同じ色の髭をなみなみと伸ばしている感じと皺からしてオッサンだと思うのだが、色艶のいい顔は紺色の円らな瞳をしていた。

 耳がヒュームと違って目より高い位置にあって少し丸っこかった。

 確か耳が尖っていなくても、猫の髭のようなものが感覚アンテナになると、ナジャ様に博物館で聞いた事がある。

 確かに耳の後ろにそれらしい猫の髭のようなものが数本、髪に混じって立っている。体つきもドワーフのようにガッチリしているというより、やはり丸っこい。

 これはもしかしてノームか?


「ピジョンッ おまえも入れっ! この旦那達がターヴィを助けてくれたんだとさっ」

「聞こえたよビンさん。だからお礼が言いたくて来たんだよ」

 ピジョンと言われたノームは俺の右横に座った。

 ではお近づきのしるしにとまたエールを注文されてしまった。ヴァリアスを見ると「少しは慣れたほうがいい」と断ってくれなかった。

 こういう時つくづくNOと言えない日本人を自覚する。


「失礼ですが、どちらの国の方ですか?」

 俺は簡単に今はない東方の島国だと答えた。

「そちらのお国には珍しい魔物はいますか?」

 魔物はいないけど妖怪ならいるか。

 いい加減酔い始めてきた俺は、昔ゲゲゲの鬼太郎で見た中で怖かった妖怪のことを話した。

 ノームは目を輝かせて凄く興味を持って聞いていた。

 そこへ事務処理を終えたポルクルがやって来た。


「おうっ、ご苦労さん。お前も飲め」

 アイザック村長がジョッキを掲げた。

「いえ、僕はマスターも知ってる通りビールは余りやらない口なので……」

「ああ そうだったな、お前は」

 おおっ やっと同士がきたか。


「ブランデーをボトルキープしてありますので、皆さんでどうぞ」

 あんたもかーっ! ここの住人はこぞってよそ者に酒を奢る風習でもあるのか。

 いい加減ヤバくなってきたこともあって、店の奥のトイレに立つ。

 ここでこっそり水飲もう。


 トイレから出てくると、ダリアがショットグラスのような小さな木製コップを持って立っていた。

「お兄さん良かったらこれサービスするから飲んでみて」

 まさか酒じゃないよな。

 匂いを嗅ぐと微かにミントっぽい匂いがした。

 量も少ないしその場の勢いで飲むと、体中から白いアルコール臭のモヤが立ち昇って消えた。

 あれ、これって。


「効いたかしら。酔い覚まし――軽い毒消しよ。ウチはちゃんと薬事免許取ってるから、これならウチでも出せるのよ。

 気持良いくらいのほろ酔い加減は残せるように調節してあるわ。

 ターヴィを助けてくれたお礼よ」

 そう言ってまたカウンターのほうに料理を取りに行った。

 なんにせよだいぶアルコールが抜けたのは有難い。


 テーブルに戻るといつの間にかヴァリアスとドワーフのビンデルが、火酒と呼ばれるアルコール度数のめちゃ高い酒の飲み勝負になっていた。

 何この状態? 村長はちょっと休憩とか言いながらエールを飲んでいる。

 皆どういう肝臓してんだ?

「ああソーヤさん、スッキリしましたか?ではあらためて飲みなおしましょう」

 ポルクルとピジョンが揃って勧めてきた。あんたらな―――。

 

 たぶんそんな事を2巡したのは確かだ。いや3巡だったかな?

 とにかく最後に潰れた時に、またピジョンに軽い毒消しを勧められた。

 ピジョンは隣の薬屋の薬師だった。

 もう頭がフワフワしてて言われるままに、カップの液体を飲もうとしたらヴァリアスに止められた。


「さすがに薬も飲み過ぎだ。今日はここまでにしとけ」

 ヴァリアスが立ち上がる。

「もうお開きだ。宿に帰る」

 それを聞いて、椅子にだらんと寄りかかっていた村長が慌てて体を起こす。

「お、オイオイ、帰るって今からどうすんだよ? 泊ってけよ。

 役場の3階に客室があるからよぉ。

 ウィッキーんとこの小汚ねぇ宿よりゃマシだぞ」

「小汚なくて悪かったなぁーっ アッハッハッハ!」

 別のテーブルから声が上がる。

「蒼也、行くぞ」


 俺はテーブルに突っ伏して、凄い数の空のショットコップを、ポルクルとピジョンが数えているのを朦朧と見ていた。

 ビンデルは片手に小さなコップを持ったまま、頭をゆっくり旋回させている。

 気持ち悪くはならなかったが、俺の頭の中もグルグル回っている。

 もちろん立ち上がることなんか出来ない。


「ムリでーすぅ」

 なんだか軽くハイになって俺は言った。

 もう1ミリもここから動きたくない、というか動けない。と思っていたら軽々と抱え上げられた。

「3階でいいんだな、ジジイ」

「待て待て、鍵開けんと」

 村長が少しよろけながら先に出て行った。


 夜風が頬にあたって気持ちよかったのを覚えてる。

 それが何故か可笑しくてケラケラ笑った。

 たぶんまだ、ナジャ様のチャーム祝福の気が微かに残っていたようだ。

 鍵をガチャつかせたり、階段のきしる音がした後、やや硬めのマットの上に降ろされた。転がりながら反射的に自分で靴を脱いだのだけはなんとなく覚えがある。

 そこまでだ。


 ************************

 

 そして今、目が覚めた。あらためて見回してヴァリアスはいない。

 頭の芯に少し重いものが残っているが、頭痛がするほどじゃない。

 手足を見るとアームガードとレッグアーマーは外してあった。上着も脱いでいたが、そのままジーンズで寝ていたようだ。

 もちろん右手に護符は付いている。


 とにかく今はトイレだ。

 部屋の中にはなさそうなので、廊下に出る。

 廊下は逆T字型になっていてこちら側にドアが2つ、向かいの廊下を挟んで左右にそれぞれ1つづつ、突き当りにもう1つ。

 左手側に階段があった。この感じからするとトイレは突き当りっぽいが、もし違って寝室とかだったらマズいな。

 とりあえずノックすりゃいいか。


 向かいの廊下に行こうとしたら、階段とは反対の突き当りにある、開いた窓の前に人が立っていた。

 逆光で良く見えないが若い男のようだ。

 鮮やかな金髪に一房、ライトグリーンのメッシュが前髪に入っていて、カーキ色と茶色の服を着ていた。

 俺は寝ぼけまなこで「トイレってこっちでいいですか?」と訊いてみた。

 男は少しビックリしたようだったが、突き当りの奥を指した。

 俺は礼を言ってトイレに向かった。


 寝ぼけながら用を足している時、変な違和感を感じていた。

 何か腑に落ちない。

 トイレから出て廊下に出た途端、目が覚めた。

 

 あの男、体が透けてた。

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