第40話 悪友と門番いじめ


「うわっ、何?」

 いつもの宿の食堂で朝飯を食べていた俺の足に何かが擦りついた。

 テーブルの下を見ると、短毛の赤毛の大きな猫がこちらを見上げていた。

「猫……? デカいなぁ」

 大きさはかなり大きくて大型犬くらいある。

 顔は真ん中から裾広がりに白い、いわゆるハチワレ模様で、手先が丸く白い以外見事な赤毛だった。真ん丸とした目もルビーのように赤い。

「ここの猫は元々山猫を鼠や虫、小さな蛇避けに人間が家畜化したんだ」

 朝からハンバーグステーキを食べているヴァリアスが言った。鼠や虫はわかるとして蛇も獲るのか。


「この猫どこから入って来たんだ? 入口からは入って来なかったぞ」

 俺は入口に向かって座っていたので、さすがにこんな大きいのが入ってきたらわかるはずだ。

「この宿の飼い猫だよ。ここに来た時からあちこちにコイツの匂いがしてたからな」

 さも普通に言ってるが、相変わらず凄い嗅覚だな。絶対血の匂いにも敏感なんだろう。

 俺はデカいが丸い猫の頭を撫でた。

 猫はテーブルの下で “アゴー” と鳴いた。

 ちょっと何かあげたい。


「ここの猫って何食べるんだ? やっぱり魚とか?」

「何でも食べるぞ。まぁ元が肉食だからメインは肉だが、野菜だって食べないことはない。大抵の家では残飯を食わしてるしな」

「残飯って塩分とか大丈夫なのか? 人間と同じもの与えて病気になったりしないか?」

「そんなヤワじゃないぞ。毒性の低い蛇だったらそのまま食べても平気だしな」

 それ人間より強いんじゃないのか。じゃあこれ食べるかな。


 俺はモーニングプレートに乗っていたソーセージを一本、猫の鼻先にちらつかせた。

 猫は少しクンクン匂いを嗅ぐと、ガブッと食いついて2口で食べてしまった。

 気に入ってくれたらしく、猫はまた鳴きながら俺の足に大きな頭をこすりつけてきた。


「よしよし、美味かったか? 体が大きいからこれじゃ足りないよな」

 もう一本あげようとしたら

「ジョシー、駄目だよ! お客さんの邪魔しちゃっ」

 と給仕の少年がやって来て、猫の後ろ足を引きずりながら抱えていってしまった。

 もうちょっと触りたかったな。


 連れてかれた猫からテーブルに目を戻すと、俺のプレートの上にハンバーグが1切れ大きめなのが載っていた。

「お前はあんまり肉喰わないんだから、ちゃんと食べろ」

 朝はあんまり食欲わかないんだけど………。だけど小学校の給食みたいに、俺が全部食べるまで見張ってるから食べない訳にいかない。

「大体お前は栄養不足で発育不良なんだよ」

「そんなものかなぁ……」


 俺は食堂の中を忙しく給仕をしている少年を見た。

 昨日の王都の船上で聞いた話だと、見た目はあの少年と同じくらいに見られてるって事だよな。

 リリエラはギルドでの登録書類を見てるから俺の年齢知ってるだろうけど、長命種とか思ってるのかな。

 こっちなら何でもありって感じだから、俺みたいな異常回復体質も受け入れてくれそうだけど、そんな見た目じゃ妙齢の女は始めから相手してくれないかもしれないなぁ……。


「早めに老けることって出来ないのかなぁ……」

 俺はつい呟いた。

「なんでだ? そんなの勿体ないだろ。細胞はゆっくり成熟した方が良いのに―――ああ、昨日の件を気にしてるのか」

「だってあんまり子供に見られるんじゃ、何かとナメられそうだろ? それに……」

「だったら体を鍛えろ。骨格的なものはオレなら変化させられるが、人種が変わってしまうからやらないぞ。

 お前はひょろ細くてなで肩だから、余計子供に見えちまうんだ。メンタルも強くなれば顔つきも変わってくる。

 胸張って堂々としてみろ」


 そういえば西洋人って、男は細くてもあんまりなで肩っていない感じがする。

 俺はどうも前かがみになっちゃうから、どちらかというとなで肩よりだしな。

 メンタルを強く出来るかは分からないが、体なら鍛えればなんとかなるかな。

 そういう訳で今日も訓練メインにする事にした。

 また東門より森に行く。

 もちろん森の中を全力走だ。今日は森のさらに奥に行く事にした。


 小川を渡った辺りでふと左手の方角に、3人の人間を感じてつい立ち止まった。

「おいっ止まるな」

 ヴァリアスが振り返る。

「だけど誰かいたから」

「走りながら注意して索敵してみろ。集中すれば様子がわかるだろ」


 簡単に言ってくれるな。

 自分を中心にして、円を描くように全体を意識しようとすると範囲が狭まる。だが一方方向にだけに集中すると少しだが精度も距離も伸びる。


「何か探してるのかな……子供……? とっ危なっ!」

 索敵に意識がいって、目の前の枝に当たりそうになった。

 索敵に集中しすぎると、目で見ているのに見えてない状態になってしまう。

「ヒューム(ベーシスなどの基本系人種の総称)の子供が、山菜や薬草を採りに来てるんだ。もう少し奥に行くぞ」

 そのまましばらく行くとさっきより傾斜が出てきた。

 気が付くと大岩の辺りより随分高度も上がっている。


「ちょっと、少し休ませてくれよ」

 俺は息が切れてきて、段々全力で走れなくなってきた。

「まぁ結構出来た方かな」

 先に行ったヴァリアスが戻ってきた。

 石の上に座って、今朝ギルド前のいつもの広場で買ってきた水を飲む。

「ここってもう山に入ってないか?」

「そうだ。あの小川を抜けた辺りから山に入ったんだ」

「昨日はまるまる訓練してないから、その分も取り返したいし、ちょっと回復してやるか」

 そう言って俺の頭に手を当てた。

 フワフワした感触のモノが頭から全身に滑るように包み込んできて、体中から何かが出て行く感じがして体が軽くなった。


「疲労物質を取って筋肉を修復した。これでまた走れるだろ」

 あー、ヴァリー隊長のブートキャンプ始まっちゃったよ。

「今度は後ろ向きに走ってみろ」

「えっ? 危ないじゃん」

「後方を探知しながら走ればいいんだ。敵からの攻撃に対しながら退く訓練だ」

「こんなとこでかよ。斜面でただでさえ走りづらいのに、後ろ向きって無理ゲ―じゃないか?」

「始めは歩いてもいいからやってみろ」


 探知というのは俺の場合、映像が頭に浮かぶというのではなく、まさしく感じとるという感覚だ。

 夜中、ふと起きてトイレに行くとき、慣れた自分の部屋だと電気を点けなくても、家具がどこにあるか感覚的にわかるあの感じに似ている。

 ヴァリアスに言わせると、力がついてくればもっと鮮明にわかるようになるという。

 後ろ向きに右側に枝が出っ張っているのを避け、足元に岩があるのを踏み、歩きから徐々に小走りになる。


「身体強化を外すなよ。あと出来れば索敵もしろよ」

 同じく後ろ向きになりながら、ヴァリアスは俺の横を速度を合わせて、ヒョイヒョイ軽く跳ねるように走っている。

 なんか腹立つな。

「索敵まで無理だよ。探知が引っ込んじゃう」

 探知と索敵は違う。

 探知は周りの物の形や位置が、目で眺めるように意識を向けた方に広がっていくのだが、索敵は急に対象にピントが合ったように、途中経路を飛び越えて感じとるのだ。


 一瞬だが近くのネズミに似た小動物を索敵で感じとれたのだが、そのシックスセンスと目で直に見ている情景を同時に感じたせいで、眩暈がおきて思わず立ち止まってしまった。

「まだ慣れないから無理ないな。本当ならそのまま攻撃魔法も使えないとならないんだが、まぁ少しづつ慣らしていくか」

 おいおい、ドラクエの勇者もそんなに同時にやってないぞ。


 結局、疲れたら回復してもらって、昼近くまで走りこんでいた。

 だが、体力と魔力を回復してもらっても、張りつめた神経まで回復はしない。

 というか俺の魂の傷を自力で治す為に、神経を治す事には制約がかかっている。

 自力以外は、使徒などの守護の力では治せないようになっているのだそうだ。

 そこ、一番助けて欲しいところなのだが……。

 それで探知に疲れたら後ろ向きを止めて、索敵の感度と範囲を広げる練習をした。

 もちろんブートキャンプなので全力疾走しながらだ。

 もう高校時代より運動してるつーの。


 昼は日本橋のデパ地下で買っといた鰻重を、川辺の岩の上に座って食べた。

 川のサラサラ流れる水音を聞きながら食べる老舗の鰻重は美味かった。

 鰻なんてスーパーで悩んでも、結局買うのは中国産だったしな。

 ただヴァリアスはどちらかと言うと魚より肉派なので、鰻重は1つだけにして残りのカツサンドを全部食べていた。

 明日以降のランチはどうしよう。

 

 午後は新しい魔法の練習になった。

 樹々の開けた、空が見える山の頂でやる。


「昨日チラッと言ってた雷魔法をやろう」

「電気って事かい? 確かにそれ出来るようになったら電気代が浮くかな?」

 灯りや水なんかは魔法で代用出来るようになったが、電子レンジやエアコン――――風魔法がまだ長時間持続できないので、やはり電気代はそれなりにかかっている。

 それにバッテリーを持ってきたとはいえ、スマホの充電も必要だし。


「ちなみにお前のそのスマホって言ったものな、自動的に魔素を変換して電気に変えてるから、わざわざ充電しなくても大丈夫だぞ」

 何、そんなハイブリット仕様なのか、これ? スゲーな、もう機種変出来ないな。

「それに原理を理解していた方がやりやすいからな」

「原理って昨日聞いた通り、雷ってこちらも静電気なんだっけ」

「そうだ、遠く離れていても同じ次元の宇宙内だからな。仕組みが似ているものが多いんだ」

 ということは違う次元の宇宙もあるって事か。もう一般人には手に負えないな。

「大まかにやる事は3つ。発電、蓄電、放電だ。この中で比較的難しいのは蓄電だな」

 それが一番必要なんだけど。まあやるしかないのか。


 

 閉門前1の鐘(5時半頃)と共に東門に帰ってきた。

 今日はみっちりやったせいもあって腹が減ったからだ。

 門には例の若い門番がいたので傭兵のは見せず、SSのプレートを出した。

 若い門番はすでにヴァリアスを覚えてるらしく、目を合わせようとはしない。

 だが、サメ男はわざと覗き込むように顔を近づけて、彼だけに聞こえるように小声で言った。


「お前、わざわざ報告しなくていいって言っといたのに、上にチクったろう?

 ……お前の顔と匂いは良ーく覚えたからなぁ」

「……ひっ……」

 若者は泣きそうな顔をして手で口を覆った。

「やめろよ、何言ってんだよ! 報告は義務だって言ったろっ、逆恨みはやめとけよ」

「カッカッカッ! 冗談だよ。オレ達以外の事なら何でも報告していいぞ」

 ヴァリアスが大口を開けて牙丸出しで笑ったので、門番どころか他の通行人まで後ずさりしていた。

 奴がこんな事したのは、たぶん昨日の王都で会ったあのイタリア男のせいだ。


 ******************

 

 昨夜、俺が寝ようとして窓を半分閉めようとした瞬間、突然上から黒い男が逆さまに顔を出してきた。

 俺は全く気を抜いていたので、一瞬声も出ずにエンストした車のように体ごと心臓まで固まった。


「リース、お前コイツに悪さするなら、手加減せずにぶっ飛ばすぞ」

 ヴァリアスが俺の背中に軽く触れながら、3階の窓に逆さ吊りになっている黒い男に向かって顔を突き出した。

 不整脈を打ち始めた俺の心臓の鼓動が元に戻った。

「ヤダッ、顔だけはやめてっ」

「……なんかイラっときたから、本当に2,3発入れてやろうか」

「もうー、ほんのちょっとからかっただけじゃん。それより入って良い?」


 そう言うと黒い男の姿がグニャと歪んで小さくなったと思ったら、今度は後ろのベッドの下の影が伸びてきた。それは伸びるとともに厚みをつけ、立ち上がってきた。

 みるみるうちに、さっきまで窓の外にいた黒い男になった。

 そのさまを見て俺はベッドの下の影男の話を思い出した。


「これから来れるかい? なんか予定が早まっちゃってさ、これから例のご一行さん達の地獄巡りが始まっちゃうんだよね」

 そういう男は昼間会った時のようにフードや目隠しはしていなかった。

 夜で光量が少ないせいだろうか。

「いいぞ、どうせコイツも後は寝るだけだからな。結界を張っとけば大丈夫だろう」

「俺はいいけど……その、ヴァリアス達は大丈夫なのかい? 

 なんかナジャ様が不穏な事言ってたじゃないか」

「お前は気にしなくていい。アイツはちょっと慎重なとこがあるんだよ」

「そうそう、少しくらいの冒険なんておれ達へっちゃらだし」

 黒い男も顔の横に右手でOKサインをした。

 なんかナジャ様が悪ガキって言った意味が良く分かる。


「でもいろいろ作戦練りたかったな」

 男が軽く首の後ろをさすった。

「構わん。どうせ行き当たりばったりなのはいつもの事だろう」

 ヴァリアスが凶悪な笑みを浮かべ、それに呼応して男もニヤリと笑った。

「確かにおれ達、創世の時代から臨機応変にやってきたもんな。じゃあいっちょ、かましに行くか」

 そう言って男は、ベッドの向かいの壁に右手で丸く円を描いた。


 フッとそこに高さ1mくらいの、外の闇より暗い穴が口を開けたように出現した。

 中は風が強いのか、樹々が擦れ合うようなギィーギィーという音が遠く聞こえて、微かだが髪の毛を燃やしたような嫌な臭いがした。

「ホントはもっと大きく出来るけど、変なものがこっちに気づいて寄って来ちゃうと面倒だからね」

 どこに繋がってるんだ、これ……。


「じゃあちょっと行ってくる。お前は今夜は宿から出歩かずに大人しくしてろよ」

 ヴァリアスが屈んで穴に入りながら言った。

「言われなくても大人しく寝るよ」

 腕時計を何気なく見ると10時10分だった。

「じゃあまたね~、いい夢でも見てね~」

 黒い爪の手がひらひらしながら闇に吸い込まれると、穴が萎むように消えた。

 

 あれってたぶん、地球の税関の天使に何か悪さしに行くんだよな。

 バレて大変なことになったらどうなるんだろう? 

 俺の担当とか交代させられたりしないのだろうか。

 やっと慣れてきたのに今更別の使徒になるのも、面倒くさくてなんか嫌だなぁ。

 自分でも不思議だがそんな事を思った。


 その後、持ってきていた推理小説を少し読んでから俺は眠りについた。

 だからいつ、奴が帰って来たのか分からなかった。

 朝、開門の鐘の音に起こされると、ヴァリアスがいつも通り椅子に座って、組んだ上の足をぶらぶらさせていた。


「お早う、蒼也。今日もいい天気だな」

「おお、おはよう。ちゃんと帰ってきたんだな」

「そりゃ当たり前だろ、オレはお前の守護霊の代わりなんだから」

 守護霊様は保護してる者をほったらかして、夜中に悪さしに行ったりしないと思うがな。

「で、大丈夫だったのか?」

「何が?」

「昨夜の事だよ。ほらっ闇の使徒様とどっかに出かけて行ったろ?」

「何のことだ? 蒼也、お前夢でも見たんじゃないのか?」

「ええっ?! だって確かに昨日寝る前に……」

 

 言いかけてニヤニヤしている奴の顔を見て俺は察した。

「わかった。確かになんか色々夢見てたわ、昨日いっぱい新しいモノ見たから」

「そうだろう、昨日はいろいろあったからなぁ」

 と思わず漏れてしまうニヤニヤ笑いを、隠すように手で口元をさすっていた。

 うん、触らぬ神に祟りなし。昔の賢人は良く言ったもんだ。


 ******************

 

「なんかすいません、悪気はあっても実際に手は出しませんからっ、気を悪くしないでください」

 俺は門番に謝ってヴァリアスを促そうとした。

 若者は後退りして門の内側に入ろうとしたのだが、奴がすかさず右手で制するように壁に手をついて遮った。

 門番に壁ドンするなっ。

 不審な動きに門の内側の戸から兵士が4人、慌てて飛び出してきた。

 マズいっ、ホントにヤバい!


 だがサメ男はそんな事全然気にせず、牙を見せながら顔を背けている門番に囁いた。

「お前、最近父親になったんだろ?」

「え……なんでそれを……」

 若い門番が驚いて、ヴァリアスを正面から初めて見た。

「以前からお前から妊婦の匂いがしてた。それが今日は産まれたばかりの赤子の匂いになってる。

 血の半分はお前と同じのな。男の子だろ?」

「そんな事までわかるのか?」

 というか二十歳はたちそこそこにしか見えないが、既婚者か、こいつ。羨ましい!


「おいっ、コイツに子供が産まれたんだとさ、男の子だ! 

 コイツも一人前に父親になったぞっ、祝ってやれ!」

 ヴァリアスが急に大きく周囲に声を上げた。

 まわりでやや固まって遠巻きに見ていた人々は、一瞬キョトンとした顔をしたが、1人がおおっと思わず声を漏らすと1人2人と拍手が起き始めた。


「からかって悪かったな。ちょっとお前が知ってる奴に似てたんでな。これは少ないが出産祝いに取っとけ。

 女房と息子の為にも門は守れよ」

 そう言って門番の手に小さな巾着袋を掴ませた。

 若者は手に残された袋とヴァリアスの後ろ姿を交互に見ながら、今一つ状況が把握できないようだった。

 他の門番達も同じ顔をしている。

 俺も展開について行けず、慌てて奴の後を追った。


「なんだよ、驚いたよ。あんまり騒がれるの好きじゃない、みたいな事言ってたのに」

「そうだな、昨日の余韻が残ってるのかもしれん。まぁたまにはいいだろう。

 大体アイツが例の税関の奴に似てたんだよな。頭が固くて融通の利かないとことか……。

 オレがあの時の渡航者だってわかった時のヤツの顔、お前にも見せてやりたかったぞ」

 そう言いながら、凄く極悪な笑みを浮かべた。


「おいっ、それ夢のことだったんだろ?」

 自分で暴露しちゃってるよ。

「あーっ、ん~まぁ……その夢の続きだな。とにかくサプライズは成功したんだよ。

 他の観光客のヤツらにもとっても受けたしな。

 ヤツはオレをディアボリカと疑った事を潔く認めたから、今度地球に行く時は能力規制が通常になるはずだし」


 ヴァリアスは少し嬉しそうだ。

 なんか地球にプレデターを野放しにするみたいで、それはそれでどうなんだろう?

 我が守護神ガーディアンながら少し不安になる。


「でも本当に大丈夫なのか? そのサプライズ受けちゃったヒト、気を悪くしたりしてないか?」

 いや、きっと気を悪くするどころじゃないだろうが。

「大丈夫だよ。ちゃんとアフターフォローしてあるぞ。リースのヤツがソイツに特別オプション付けるって誘ったんだ。

 『妖魅の水晶宮』に招待するってな。まぁ神界の花街みたいなとこだな。

 あそこは紹介がないと入れないから、あの地球のヤツ凄く喜んでたぞ。

 ああいう普段真面目腐ってるヤツは、旅先で羽目を外しやすいんだよな」

 それで風俗にハマっちゃったら怖い気がする。

 大体、地球ウチの天使に何してくれちゃってるんだ。


 振り返るとさっきの門番が通行人達に口々に「おめでとう」と祝福の言葉を受けながら、通行税を受け取っていた。

 後から出てきた4人の兵士も苦笑いしながら、また門の中に戻って行った。


 いつもなら『リア充消えろっ』とさえ思ってしまうとこなのだが、その時はすんなりと彼を祝う気持ちが自然と出てきた。

 こちらでの人々の生活を見ているからかも知れない。こうやって人の幸せを素直に見れるのは久しぶりだ。

 だが、この穏やかな気分もそう長くは続かなかった。

 

 命は生まれることもあれば、消えることもある。


 幸せのそばにはいつも不安がつきまとっているように、このあと空気を暗澹あんたんとさせる事が起こるのだ。

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