第23話 ホームセンターで初仕事


 面接は簡単に終わった。人手が不足しているので、明日から来れるかと言われてもちろん快諾した。


 勤務先は駅3つ先の某ホームセンターで、主な仕事は1日1回閉店近くに搬入されてくる、商品の荷下ろしと棚入れだ。

 午後3時から10時まで。休憩を抜くと実働6時間だが、無職より全然いい。

 初出勤するとエプロンとシャツを渡された。

 下は派手でなければいいとのことで、自前のジーンズのまま。


「初めまして、東野さん。中田と言います。今日は一緒にまわりますから、ヨロシクね」

 中田さんは50代ぐらいの髪の薄い、ちょっと小柄な人だった。普段は2階の文具売り場担当らしい。

 ひと通り売り場を案内してもらってから、搬入までの時間、売り場の棚出しの仕事になった。

「こんな風にね、棚が空いていたら品物を手前に出したり、棚上にある商品を補充します」

 教えてもらいながらしばらくやっていると、中田さんがB5くらいの紙を数枚とカゴを持ってきた。


「これね、お客さんの注文書です。棚を覚えながらピッキングしましょう」

 ここでのピッキング作業とは、注文の品を棚から抜き集めていく事らしい。

「間違えないように、ゆっくりでいいですからね。商品名とJANコードを確認しながらやってください」


 JANコードとは、商品についているバーコードの下に書いてある13桁の数字で、商品のシリアル№になるらしい。

 確かに文具は細かい物が多くて、ボールペンなんか商品名以外に

 ≪MSCX0.5B≫ やら ≪SR-5600-ER≫ やら無駄にややこしい気がする。

 ≪MSCX0.5B≫ と ≪MSEX0.5B≫ は似てるが、違うものなので気を付けなくてはいけない。


 と、商品を探していると前方右3段目の棚の一部分がぽうっと色が変わって見えた。

 見ると探している商品だ。JANコードも間違いない。

 どうやら探知が発動したらしい。以前あちらで意識的にやった時は目に見えない所だったせいか、感覚的にわかるという感じだったが、視覚化もするんだとあらためて思った。

 それとも個人差があるのだろうか。


 後でこれは探知というより索敵の能力だったとわかった。索敵と一般的に言うが、本来は検索能力なので、危険以外にも使えるらしい。

 ただ索敵は、防衛本能から発生した原始的探知能力なので、危険要素以外を探知出来ない人もいるそうだ。

 そういう意味では、命の危険と隣り合わせの環境の者より、仕事を失う方が怖い現代人の方が、検索能力の幅が広がるのかもしれない。


 とりあえず有難い。俺はサクサクと商品を見つけてピッキングしていった。

 最後に注文品と数が合っているか解析して確認してみた。

 うん、うん、間違いないようだ。あまりスキルに頼り過ぎてしまうのも何だが、今は助けてもらおう。

「終わりました」

 俺は隣の棚でピッキングしていた中田さんに声をかける。

「えっ、もう?」

 俺からカゴを受け取って注文書と確かめると

「確かに合ってますね。じゃあこれも」と別の注文書をくれた。

 これも検索でサクッと終わらす。


「東野さん早いね。今のところ全部合ってるし、何かコツでも知ってるの?」

「いや、たまたまですよ。ちょっと視力が良い方なので」

 俺は変な誤魔化しかたをした。

「羨ましいねぇ。俺なんか最近老眼で見づらくなちゃったから、老眼鏡買ったばかりだよ」

 そう言って中田さんはメガネをハンカチで拭いた。


 俺はこっそり中田さんを解析してみた。

≪地球人:日本種  中田敏行 54歳 157㎝ 72㎏ ……≫

 中田さん、俺と同い年か。

「東野さん、俺 幾つに見えます?」

 いきなり振ってきた。

「えと、47……くらいですか?」

 こういう時は少なく言うのが鉄則だ。

「いやぁ、54ですよ、東野さんと同じ。それにしても東野さん若いねぇ。とても同い年とは見えないよ。何か秘訣でもあんの? 髪もふさふさだしさ」

「いえ、特には」

 俺だってやっと最近原因を知ったくらいだから。

 ふーん、羨ましいねぇと繰り返しながら、中田さんは残りの注文書を渡してくれた。

 

 ピッキングが全部終わったので、今度は注文書ごとに集めた、カゴ別にしてある商品をそれぞれ、レジ袋に入れてお客さんの名前を書いた紙をつける。

 カートに載せると、注文書と一緒に1階引き渡しカウンターへ持っていって終わりだ。


「じゃあ、次、品出しなだししようか」

 中田さんはトコトコと棚の間を見て回ると「これとこれね」と棚の上に段ボールが載っているが、その空いているところを指した。

「お客さんが取る棚には商品あるけど、棚上の在庫が空だから、倉庫から持ってきましょう」

 そう言うと、価格表示カードの裏にもう1枚入っていたカードを抜いた。

 倉庫は4階にあるらしい。中には業務用のがっしりしたスチール製の棚が整然と並んでいた。


「この辺りが文具コーナーですよ」

 中田さんはカードを見ながら棚をキョロキョロして

「ああ、これだ。この上の段ボール」

 そう言って近くから脚立を持ってくる。

「あの、私が取りますよ」

「そう? ノートは重いから気を付けてね」

 確かに段ボールにみっちり紙が入っているから、結構の重さだが、俺は身体強化してるのでそんなに感じない。持ってきた台車に載せて次を探す。


 再び2階に戻ってきて、今度は商品の棚上に置く。

「東野さん、見かけによらず力持ちだね」

「えっ、そんな程じゃないですよ」

「いや、だってさっきから軽々段ボール持ち上げてるじゃない? 俺なんか最近腰やったちゃってさ。ほらっ ベルトしてるんだよ」

 そう言うと中田さんはちょっと腰のあたりのシャツをめくった。

 白い幅広のサポーターが見える。

「じゃあ、重い物は私がやりますよ。中田さんは見ててください」

「アリガト。だけど無理しないでね。ウチは重い物が多いから、皆な 腰や腕痛めてすぐ辞めちゃうから」


 ひと通り棚上を埋めていると、日本語じゃない言葉が聞こえてきた。

 何気に見ると、店員の1人が東洋系の初老の男女の接客をしている。

 が、外国人さんは英語でなく、自国語でジェスチャーを交えながら訊いている。

 店員の方も言葉がわからなくて困っていた。

 中田さんも振り返って「参ったな。英語ならわかる子もいるんだけど」と薄い頭を掻いた。


「あの、たぶん消しゴムの事聞いてるみたいですけど」

「えっ、わかるの? 東野さん」

 中田さんが目を大きくして振り返ってきた。

「いや、わかる単語が出てきたんで。なんか “面白い形の消しゴム” とか聞こえましたけど」

「ああ、動物とかお寿司の形しているやつかな」

 ピンと来たらしい中田さんは早速、別棚からオモチャのような消しゴムを持ってきて、外国人さんの所へ見せに行った。

 お客さんが大きく頷いて見せたので、消しゴムの棚に案内していった。


「良かった、助かったよ。確かに最近こういう消しゴムが、外国の人に流行りらしいんだよね。お土産に買っていくとか。でもホント、良く分かったね」

「昔良く香港映画とか字幕で見てたんで」

 俺は苦しい言い訳をした。

 本当は多言語スキルのおかげでまる解りだったのだが、ここでペラペラ話したら逆に注目され過ぎるかもしれないと思ってやめた。

 でも役に立ったのは良かった。先ず先ずは好印象の出だしだぞ。


 そこへ店員の女性がやって来た。

「あっ、中田さんすみません。ちょっと手伝って貰えませんか。お客さんの重い資材を運ばなくちゃならないんですけど、1階の男子が皆接客中でいなくて」

「あー、わかった。すぐ行くよ。東野さんもいい?」

「はい、大丈夫ですよ」


 1階はフロアの半分以上にDIYの工具や材料が置かれている。連れていかれた場所は材木コーナーだった。

 台車の前で待っていたのは70代くらいの老夫婦らしい男女。

「すいませんねぇ。本当は息子も来てくれるはずだったんだけど、急用が出来ちゃって来れなくなっちゃったんだよね。わたしも今日しか来れないから買うだけ来ようと思ってさ」

 どうも目の前の、何とか車に入りそうな長さだが重そうな丸太。

 これをお爺さんが自分で取ろうとして危なっかしいので人手を呼びに来たらしいのだ。

 もちろん俺が台車に載せる。

 清算した後、車まで持っていって後ろに載せた。


 すぐに戻ろうと工具売り場を抜けていると、見慣れた背中が店員と何やら喋っていた。

「よぉ、蒼也」

 後ろを向いていたのに、俺が気が付くと同時に振り返ってきた。


「ヴァッ、何してんだよ。―――こんなとこでっ ?!」

「ちょっと様子を見に来たんだ。それにこれ今訊いてたんだが、面白い武器置いてるな」

 ヴァリアスは手に持っていた工具を掲げた。

「それはチェーンソーだっ。木を切る道具で武器じゃないぞっ! ったく、俺の就職を邪魔する気か !? 用が終わったら早く帰ってくれよ」

「なんだ、恥ずかしいのか? しょうがないな、じゃあまた後でな」

 そのままチェーンソーを持ったまま行ってしまった。

 

 買う気かアレ? 

 とにかく売り場に戻ろうと階段の方に向き直ったら、近くで中田さんと目が合った。

 マズいっ、待っててくれたんだ。


「東野さん、今の外国人さん知り合い?」

「え、ええ……ちょっとまぁ……」

「大きくて迫力ある人だね。強そうだし。K-1の人とか?」

「いえ、一応違いますね……」

 頼むからあんまり訊かないでくれ。

「ふーん」

 それ以上は訊かれず、売り場に戻って品出しを続けた。


 6時になって休憩になった。4階の一室が食堂兼休息所になっている。

 食堂と言っても、会議室にあるような長机と折りたたみの椅子が並んでいるだけで、他は飲み物の自販機とレンジが置いてあり、テレビの横に狭い給湯室があるだけだった。

 中には先に2人が弁当を食べていた。

 俺も隅のほうの椅子に座り、持ってきたお握りとカップラーメンを出した。俺が自販機で缶コーヒーを買っていると中田さんが入って来た。


「東野さん、隣いい?」

 俺はまたヴァリアスの事を聞かれないか、ドキドキしたがその話はされなかった。

「閉店の30分くらい前にトラックが来るから、そしたら1階の裏の搬入口に行くよ」

 中田さんはレンジで温めた手作りらしい弁当を持って俺の隣に座った。


 搬入は通常、10~15人くらいでやるらしい。他の人は外に食べに行ったか、もしくは搬入作業だけ来る短時間のバイトの人らしい。

 正社員の人も遅番と呼ばれる、時間をずらした出社にして搬入作業をするそうだ。


「今日は俺が遅責(遅番責任者)だから」

 と言うことは中田さんも搬入作業するのか。確か腰痛めてるのに。

 そこへ3人、制服を着た20代くらいの女の子達が入って来た。

 俺の方をチラッと見て、そのままガラス戸を開けてベランダに出て行った。少し広めのベランダは喫煙所になっているらしい。


「女の子はね、搬入作業はないんだけど、閉店後売り上げ金を精算する作業があるんだよね」

  ここの営業時間は午前9時から午後8時までだ。閉店後残る人はやはり遅く出社する。

 また朝早く出社して、前日の棚出しの残りや開店準備をする早番という人と、9時から通常出社の3種類あるらしい。

 

 そんな話を聞いていると、ベランダでの会話が俺の気を引いた。

「ねぇ、さっきの新人の人見た? あれで50代らしいよ」

「えっマジで?! ちょっと可愛い顔してると思ったのに、ジジイじゃん! ってヤバッ、聞こえちゃったかな」

「大丈夫だよ。ドア閉めてるから聞こえないって」


 ハイハイ、しっかり聞こえてますよ。俺最近、耳が凄く良くなってるからね。

 でも50代なのは事実だけど、やっぱりジジイ呼ばわりされるのはガックリくる。悪気は無さそうだけど、何だか個人情洩れてない? 

 こんな調子でヴァリアスの事も噂になったらどうしよう。外国人だけど、下手したら借金取りかヤクザに思われないか? いやマフィアかな。どうもクリーンなイメージが湧かない。

 なんか食欲が無くなってきた。


 ちょうど7時半頃、トラックが到着したという連絡が入る。行くと搬入口の前に大型トラックが横付けしていて、荷台が横開きになっていくとこだった。

 材木など人の手では重いものはフォークリフトで下ろすが、その他の段ボールに入ったものなどは、荷台に人が載って降ろす作業となる。


 中田さんは下にいて主に皆に指示していたが、小さな物は受け取るなど荷下ろしを手伝っていた。

「東野さん、初めから張り切りすぎて無茶しないでね」

 再三言われているので、俺も気をつけている。あまり軽々しく持たないように。

 俺の体格じゃあんまり軽く持ったら変に思われそうなので、軽すぎず、重すぎず見せるのに注意した。

 台車に乗り切らない段ボールは、搬入口のシャッターの内側にいったん降ろしておく。


「じゃあ、これを運びましょうか」

 段ボールの載った台車を1台指して中田さんが言った。

 裏の業務用エレベーターで2階に上がる。

 まだお客さんが残っているので、気を付けながら台車を運んでいく。商品棚の前にそれぞれの商品の入った段ボールを置く。

 棚に入れるのはひと通り運んでからだ。


 完全にお客さんがいなくなって閉店になった頃、本格的に棚入れ作業に入る。

 中田さんも棚入れをおこなっているが、立ったりかがんだりで、腰が辛そうだ。度々腰を押さえてる。

 今はこれしか仕事がないようなので、代わってあげることも出来ず、早く終わらせてあげるしかない。


 と、誰かが俺の肩を軽く叩いた。振り返って俺は商品を落としそうになり、棚にぶつかった。

「大丈夫? 東野さん」

 中田さんが振り返ったが、何故か俺の目の前のヴァリアスには気が付かなかったようだ。

「だ、大丈夫です。ちょっと手が滑っただけです」


 それから俺はそっと口の中で呟いた。

「何してんだよ。もうとっくに閉店してるんだぞ。それにどうして中田さんに見えないんだ?」

「気配を薄くしてるからな。これだけ近づかなくちゃわからん」

 俺にだけ聞こえるぐらいの小声で言った。


「子供じゃないんだから、24時間見に来なくてもいいよ。それにこんなのバレたらクビになるかもしれないんだぞ」

 俺は棚入れしながらさらに小声で言った。

「言っただろ、オレはお前のメインの守護者なんだって。それにお前、あの男を心配しているんだろう? 

 お前の面倒みてるみたいだから、ちょっと手ぇ貸してやるか」

 そう言うと俺の前を通り抜けて中田さんの方に歩いて行った。


 俺は何をするのか心配で注意して気配を追った。

 後ろを向いて棚に商品を入れている中田さんの後ろに立つと、ヴァリアスはスッと右手を軽く中田さんの腰の辺りで振った。

 そして俺の方を振り返って、色が抜けていくように消えて見えなくなった。


 すると中田さんが急に腰に手をやった。

 おやっと言う感じで腰を少し動かしている。

「中田さん、あんまり無茶すると腰に響きますよ」

「いやぁ、なんか変なんだよね。急に腰の張りが無くなって、痛みも感じなくなっちゃった。何でだろ?」

「いや、たまたま今痛みがないだけかもしれませんよ。無茶しないでくださいね」

「うん、そうだね。急に治るわけないから、湿布が効いてきたのかもね」

 あいつちゃんと帰ったのかな。俺は索敵してみたが分からなかった。



 遅番は10時までなので、俺は更衣室で着替えると裏口から出た。

 そのまま地下鉄のほうに歩き出そうとして足を止めた。

 2つ先のビルの前にヴァリアスが立っていたのだ。


「蒼也、初仕事は疲れたか? 送ってってやるぞ」

「ああ、ほとんど気疲れだけどな」

 その半分以上があんたのせいなんだけどとは言わなかった。中田さんを治してもらったしな。


 すぐに転移しないで近くのコンビニによる。

 夜食に何だか甘いモノが食べたくなった。

 プリンとみたらし団子どちらにしようか迷う。

 ふと見るとヴァリアスはカゴにこれでもかと缶ビールを入れている。


 おい、俺は明日も仕事だからな。

 結局自分用にはちみつレモンサワーを買ってしまったが。

 店を出てちょっと離れてから玄関先に転移する。

 コンビニには防犯カメラが付いてるから気を付けないとな。


「なんだかんだとスキルが結構役に立ったよ」

 俺はテレビのニュースをつけながら言った。結構どころかかなりだけど。

「そうだろう。日常生活でも役に立つから持ってて損はしないぞ」

 ヴァリアスは早速缶ビールを開けている。

 俺は卓袱台につまみに買ってきたスモークチーズの袋を開けた。


「ところでお前、今日は結構魔力を使ったろう?」

「うん? まぁそうかな」

 そういや検索と身体強化を割としたか。

「今回はまだ魔力切れになるほどは使ってないようだが、気をつけないとこちらではパワースポット以外ほとんど魔素はないからな」

「あっそうか。魔力補給できないと魔力切れになっちゃうのか」


 俺はあの初めて魔力切れを味わったときの事を思い出した。

 あの感覚は2度と味わいたくない。

「そうだ。だからあの護符を肌身離さず持っておけよ。他の魔石でもいいんだが、あれは特殊な魔石で出来ている。

 普通の魔石は魔素が薄いところに置いておくと、魔素が漏れ出して無くなってしまうんだが、あれはお前にしか放出しないようになっている。持っていればあれから魔力を供給できるし、減れば魔素を周りから吸収するようになっているぞ」

 バッテリーみたいだな。でもそれはとにかく有難いな。


「あと、これを持ってきた」

 ヴァリアスは目の前の空中から、くるっと巻いた布を取り出した。

 卓袱台に広げると、中央に魔法円のようなものが書かれてある。

「あのドラゴンの魔石持ってるだろ」

「うん、ここに」

 俺は空間収納から例の魔石を出した。重たいので卓袱台ではなく畳の上にした。


「まぁ空間収納してる分には大丈夫だが、さっき言ったように魔石は少しづつ魔素を放出するからそのままにしておくと、どんどん小さくなっていく。

 これの中が動いて見えるのも魔素が対流してるからだが、小さくなると動きが鈍くなるからな」

「えっ、じゃあ時々出してたら、小さくなっちゃうのか?」

 帰ってきてから、時々出してぼーっと眺めてたよ。


「これだけ大きいとそう簡単には小さくならないけどな。せっかく大きいのに勿体ないだろ?

 そういう時にこういうのを使う」

 そう言うと布を畳に敷いて、その上に魔石を置いた。


「これはな魔力(魔素)を封じ込める魔法円なんだ。空間収納を持ってなかったり、外に飾って置く時に使う一種の魔道具だな」

「へぇー、じゃあ外に出して置く時はこれに載せておけば良いんだな」

 さすがに色んな道具があるもんだ。

 その後、俺は寝るので11時半頃帰ってもらった。

 

 

 次の日、ヴァリアスは職場に来なかった。それに俺もずっとそんな事に構っていられない。

今日は1階の工具売り場で品出しをしたが、『研修生』の腕章を付けていても、お客さんに商品を訊かれる。

 何処にあるかぐらいなら検索でわかるが、どこそこの商品とこの部品が合うかとか尋ねられると、解析でも自信がない。

 もちろん一緒についている社員の人に応対してもらうが、こうした商品知識を覚えるのに精一杯で、途中から良い意味で忘れていた。

 珍しくというか当たり前のことだが、帰りも待っていなかった。


 店は年始年末以外は年中無休だが、搬入の仕事は基本平日のみなので土日祝日は休みになる。

 今回火曜日から入ったので、金曜日まで4日間仕事だと伝えておいたからかも知れない。

 まだフロアの配置が決まらないので、日替わりで日用品売り場やガーデニングとフロアをまわる。

 スキルのおかげで4日目も滞りなく終わり、俺は帰路についた。


 地下鉄に乗るとたまたま前の席が空いたので、たった3駅なのに座ったらどうやら眠ってしまったらしい。

 揺り動かされて、入谷駅のアナウンスに気が付いた。

 目の前にいたのは当たり前になった外国人。驚く前に慌てて電車を降りる。


「疲れたか? やっぱり送って行ったほうが良かったかな」

 改札を通りながら、俺はかぶり振る。

「いや、これが当たり前なんだから大丈夫だ。それに女じゃないんだから、そんな迎えに来なくてもいいよ。それにしても」

 俺はふと訊いてみた。


「この3日間来ないなと思っていたんだけど、実はいたなんて事ないよな?」

「ふふん、どうだろうなぁ」

「あっ 本当に気配消していたのか?」

「まぁ細かい事はいいだろう。それより酒買ってくだろう?」

 そう言うとヴァリアスは目の前のコンビニに入って行った。


 くそっ、はぐらかされた。長時間のスキルが使えないとかボヤいていたけど、あいつならなんかどうとでもやり方がありそうだ。油断できん。

 とはいえ明日は土曜日、仕事は休みになる。

 

 そしてまたあちらに出稼ぎに行く日でもある。

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