泣く理由

顔をかいて、指が目に入ってびっくりして泣く。


顔をかいて、指で目を開いて、閉じられなくなって泣く。


眠たいのに眠り方がわからなくて、泣く。


お腹が空いて泣く。


目が覚めたとき、誰もいなくて泣く。


呼んでも来ないとき、寂しくて泣く。


ただ奇声を発するだけでもいいのに、わざわざ体力を使う【泣く】という行動で、気持ちを表す。


力一杯声を出して、目を固く閉じて、涙を流して、大口開けて。

時には顔や頭をかきむしって、自分を傷付けてまで。


それなのに抱っこしたり、声をかけると、ピタッと泣き止んだりする。


目も見えない、立てない、首も座らない、手も届かない、与えないと食べられない。


どんな動物よりも未熟な状態で生まれて、ゆっくり成長していく。


両手を上げて、無防備に眠り、愛を求める。


赤ちゃんが可愛いのは、きっと無防備だから。


抱っこしていて、その高さから落とせば、もう命が終わるかもしれない。

抱っこしてる人が命を握ってる。


それなのに、嬉しそうにニコニコしてる。


守らなきゃって思える。


泣いて参ってしまうこともあるけど、ピタッと欲求を満たしてあげられると、嬉しい。


釣り好きな夫が、釣りが好きな理由。


喋らない魚相手に、いろんなことを考えては試し、予想を立てて作戦を練り、釣り上げる。

ルアーを変えてみたり、場所を変えてみたり、竿の投げ方を変えてみたり、動きを工夫してみたり、気温や潮の満ち引きを計算してみたり。


そうやってあれこれ考えて、そんな自分の読みがピタリと当たるのが楽しいらしい。


ひとつもわからないと思ったけど、今なら少しだけわかる気がする。

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