第4話ダイヤモンド
私が質問を無視し、側仕えの修道女がダイヤモンドを商人達に見せます。
私が守護神様から与えられた力、業火の力で創り出したダイヤモンドです。
美しくカットしていますから、今までとは一線を画する美しさです。
全ての商人が眼を奪われていますから、高値で落札される事でしょう。
まだまだ数も大きさもグレードアップできますが、今はこの大きさです。
「ええっと、では、それぞれ値付けをしてもらおうか」
商人の代表が話しますが、私は修道女に視線を向けて介入するように命じました。
「まずはこのダイヤモンドの値をつけてもらいましょう。
最初は金貨百枚からです、それ以上の値でも欲しいものは言ってください」
修道女の言葉に、商人達は戸惑っています。
阿吽の呼吸で、安く買いたたく心算だったようです。
愚かな連中です、あれほど警告してやったのに、何も分かっていません。
まあ、いいです、二三人死ねば思い知るでしょう。
なかなか商人が反応しないので、修道女に視線を送って命令しました。
「欲しい者がいないようですね、では今回の売却は取りやめです。
今日はご苦労でした、この事は聖女様の胸に刻まれた事でしょう。
無事に家に辿り着けることを、心からお祈りしております」
修道女が私に代わって、氷のように冷たい声色で商人たちに帰るように命じます。
その声と視線には、嘲笑と哀れみも含まれています。
長年私に仕えてるので、この者達がどういう運命を辿るのか理解しているのです。
神の御使いに幾人かが殺されるという事を、経験で知っているのです。
腐ったこの国で、力尽くで私を従わせようとしてきた者が、人知れず事故死してきたのを、私の側仕えだけが知っているのです。
「いえ、あの、お待ちください。
それはあまりに御無体でございます、価値以上の値で買い取れと言うのは、いくら聖女様でもあまりに酷い仕打ちではありませんか」
修道女の視線が更に厳しいものになりました。
私の評判を貶めるような言動に、本気で腹を立てたのでしょう。
私の、聖女の側仕えならば、それは当然の反応です、私が商人の言動に怒っているのですから。
「本当にこのダイヤモンドが価値のないものかどうかは、明日には分かりますから、今の言動を決して忘れないように。
聖女様を不当に貶める言動をしたのですから、このダイヤモンドが金百枚以上の価値があった場合は、厳罰に処せられる事でしょう」
「え、明日でございますか、明日何があると申されるのですか?」
「今回の競売は、聖女様の慈悲によって、最初にこの国の商人が集められましたが、明日以降は近隣諸国の王侯貴族や商人が集められ、競売が開催されます。
その時に、このダイヤモンドが金貨百枚以上の価値がつけられたら、お前達は聖女様を騙して、不当に貪ろうとしていたことが明らかになります。
更に聖女様が強欲だと暴言虚言を吐いたことにもなります。
この国の王侯貴族が罰を与えなくとも、神々が厳しい罰を下してくださることになるでしょう、それは甘えたちのような屑を庇ったこの国の王侯貴族も同時にです」
商人たちが真っ青になって謝ってきましたが、そんな心のこもっていない謝罪は無視して、第十騎士団の方々に叩きだしていただきました。
「ウォーレン卿、これは今日の御礼です。
駆けつけてくださった騎士の方々に分けてあげてください」
「いえ、それは頂けません、我らは騎士団として当然の事をしただけです」
ウォーレン卿が遠慮して辞退しますが、そうはいきません。
団員の方々の中には、妻子を売春させるかどうかの瀬戸際の方がおられます。
その事はウォーレン卿もご存じの事です。
「残念ながら、他の騎士団長は商人から賄賂をもらい、私を警護するどころか、商人に売り渡そうとしています。
私が信じられるのは、ウォーレン卿と第十騎士団の方々だけです。
王太子の遊興費のために、騎士団費が削られたと聞いています。
これを受け取って、国防のために使ってください」
これだけ言えば、謹厳実直なウォーレン卿も、騎士団の方々のために受け取ってくださるでしょう。
私は金貨が千枚入った革袋を渡しました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます