第2話

 魁偉な魔物共が幾らでも跳梁跋扈して、木々という木々が、枝を分けて何処迄も澄み切った夜空を遮る薄暗い森の中。

小学生の純粋無垢を映した様な満月から注ぎ立つ一筋の光は、その枝と枝の隙間を探り、所々に焼け焦げた後の残る不格好な帽子を直ぐ真横に転がし、ささやかな夜風に静かに揺れる無為自然の散らした赤毛、長髪を垂らした齢16の、幼顔の残った小柄な少女を照らしている。


 少女は雨風の過ぎ去った直後なのか、水滴を歓迎した青草に小さく擽られながら、まだ芽吹かぬ胸部の蕾に、白雪を彷彿とさせる美しい両手を添えて重ねて、時折可愛らしい八重歯をチラリと覗かせながら、可愛らしい寝息を立てている。


 そんな景観というのは、何物にも負けず劣らずの、唯一無二の絶景であり、世界中何処の有名な芸術館を回っても見当たらない芸術でもある。なれば是非ともカメラに納め、上品で立派な額縁に飾り寝床にでも設けたい。そんな願いを抱くに足る景観ではあるが、しかし、この少女の眠っているこの世界では、それをどうしても叶える事が、とても悲しいことながら、出来ないのだ。叶わないのだ。


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ーー……ん?……どういう事だ?


 というか、此処は一体何処なんだ?眩しい?いや、でも私の記憶が確かならば、私の眼球は眩しさなんて感じられないほどの状態に立っている筈で、そもそも、竜によって身体を貫かれたならば、そんな事は考えられない筈で、いや、確かに死んでも意識が有るのは嬉しい事だし、痛みも感じないのは喜ばしい限りなのだが、そもそも私は死んだのか?死んだとは何なんだ?定義は?いや、今は定義なんて気にしている場合でもないだろう。それに、死んでいないという可能性も、というか、母曰く「私が死んでいたとして、それを確実に証明する術なんて無い」と言っていて、そもそもなんで空が明るいのだ?本に載っていた絵をみるでは限り地獄というのは真っ暗な場所だと、もし死んでいなかったとしても、私が生まれてからずっと空は黒色で、と言うことは、天国といういう場所か?しかし私は天国に行けるような生き方はしていない筈なのだが、あっ、そうだ、遠くに吹き飛ばされたとか?手段は別として、今の状況を説明できるのでは、もしかしたら、私や母が知らなかっただけで、晴れている場所もあったとか、いや、でもそんな事がありえるのか?可能性は有るだろうけれども、しかし、可能性があるというだけなら何にでも当てはまり、それに、こんなに肥えた森林まで残っているものなのか?というか、あのあっちこっちで騒がしく飛び回っている鳥は何なんだ?やはり、いや、何がやはりなのかは謎だが


私は死んでいないのか?しかし、あれでどうやって生き残れたというんだ、此処は死後の世界と考える方が、しかし、死後の世界の事なんてよく分からないが、こんな所なのか?信じられないが、タイムスリップとか、異世界に飛ばされてしまったとか?いやいやいや、そんなことは死後の世界という考えよりも馬鹿馬鹿しい。ではやっぱり、他の場所に飛ばされただけとか?他になにか、もっと現実味のある、もしかしたら、死んだわけでも、飛ばされた訳でも無く、ましてや異世界とかタイムスリップでも無く、気を失っていたらとんでもない時間が経過していて、それでもって世界が、いや、鬼の寿命を考えてみたら、100%ありえないと断言は出来ないが、しかし、これも、とてもでは無いが、にわかには信じがたい。まったく訳が分からない。いや、でも今の所では一番現実的と思えなくもないが、しかし、比較対照が全て馬鹿馬鹿しいと判断せざるおえないし、だったと仮定しても、それでもあの竜やら、カマキリの大群やらが気を失った私をほっておくわけがない。きっとボリボリと不愉快な音を立てながら食い尽くすことだろう。ならば、それはあり得ず、やはり遠くに飛ばされた上での気絶、それでかなりの時間が経過したとか……


うん、取り敢えずは落ち着こう、深呼吸だ深呼吸。


「はぁーーー」


 よし、恐らくは、きっと、多分落ち着いたと……思う。では、まずはこの状況を、何があって、何が原因でこうなったのか、起承転結をはっきりとさせよう。


起・竜によって雷を放たれ心臓を焼かれて死んでしまった。


承・……


転・……


結・目を覚ますとまったく見覚えの無い、知らない世界のとある森の中で倒れて寝ていた。


 壊滅的に情報が少なすぎる。起承転結も何も有ったものじゃない。起と結しか無いじゃないか。私が今欲しているのは、承転の部分なのだが、けれども、その大事な部分がお留守じゃないか、なれば、今のうちは考えるのを止めておこう。


 どうせ、知識がないと答えが出せない疑問なのだ。その知識を私は持っていないのだから、少なくとも今はどうしようもないだろう。


 というかだ、頭上が騒がしい。


 そう思い立って、それをきっかけとして空を見上げてみると、先程から飛び回っていた小鳥たちが、チャー、チャー、チャー、と奇妙な鳴き声を上げながら、パタパタと羽を動かしたり、じっとしたりしながら飛んでいる。


 それにしてもあれだな、あの鳥を見ていると、急に腹が減ってきた。


 そして、その空腹の原因である小鳥たちは、未だに、これから私に食われる運命だと私が空想しているなんて微塵も考えていないであろう純真無垢な目をパチクリしながら、飛び回っている。これは、どう考えても、可哀相と考えたとしても食べないという選択肢は無い。だって、私が空腹で近い未来にここでまた倒れてしまう事の方がよっぽど可哀相に思えるから。


 私は、簡単に決意すると、其処らに落ちている石ころを数個ばかり拾い上げると、腕を振るって、小鳥向かってぶん投げた。

石ころは真っ直ぐに風を切りながら飛んで行くと、三匹に鈍い音を立てて当たった。


 不幸にもその石ころに当たってしまった小鳥たちは、奇っ怪な、それでいて聞くに堪えない呻き声を、数秒息をせずに上げると、パタパタ血の垂れた羽を扇ぎ、そのまま垂直に、ポトッという可愛げのある軽い音をしながら、地面に落下した。まぁ、不幸とは言っても、そうさせたのは私なのだけれども。


 という訳で、その小鳥は一匹を焼き鳥として食べて、残り二匹は背中に背負った。


 私は、側に落ちている帽子をサッと拾い上げると、深く被り、気の向く方向に

、樹木の聳え立つ方向へと歩き始めた。

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破滅の確定した世界を人外少女は救おうとする様です @umahone01

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