破滅の確定した世界を人外少女は救おうとする様です
@umahone01
第1話
「この世界とは、一体何なのだろうか?」
そんな下らなくも、しかし何処か深そうな疑問なんてのは、恐らく誰も彼もがその短い人生の内で、いつかは、一度くらいは抱くであろう疑問なのだろう。しかし、どうだろうか、生憎の事、この世界には、その抱くであろう誰も彼もが存在していない。
「こんな瓦礫と魔物の死体、それから廃れた自然で満たされ、人間の作った文明が崩壊し、魔物がのさばるこの世界でも、そうだね、遡ること1500年以上の大昔、その時代のこの世界では、ローアの帝国を中心として、例えば人によって整備され尽くした街道とか、仰け反っても葉を存分に付けた枝を伸ばした木々とか、そんな、今こそ考えてみれば素晴らしいとも言える光景が、容易に見ることが、眺めることがね、出来たんだよ」
そんな感じに、当時の私からすれば妄言とも取れる戯言を、まぁ、どちらにしても同じだが、自称世界の探求者の私の母が、分厚い、見るからに古びた本を両手に広げ、その広げたページに載っている本物とも見違える絵を幾つか指差しながら、嬉々として私に言い放ったのは、私がまだ五歳の時分。
そんな当時の私は、母に無理矢理にも連れ回されながら無心に関心を書き足して眺めた、いつまでも黒ずんで止まない空とか、枯れ果てた木々でなんとか生きている森林とか、人影忘れた寂しい町跡とか、底まで乾ききった湖とか、そんな荒んでも静かな光景を映す視界に、度々入り込んでくる魔物を食料として、ゴールを設定せずに何処までも歩き続ける。と言うのが、私のこの世界に生を受けてからの至って普通の日常であり、私が眺める光景こそが、それこそ天地開闢以来のごくごく普通でしかない光景だと、そう妄想していた私にとっては、繰り返すが母の突拍子もない戯言は、絵という証拠を見せられなければ、鼻で笑って夢を見れば忘れてしまう、そんな事だった。
そんな私の母の口癖は、
「なんでさぁ、そうエリカはこの世界の崩壊を探求したいなと思い付かないのかな?」
というもので、その自称世界の探求者という身勝手な称号に恥じることなく、母はこの世界の崩壊の原因を一心不乱に求めていた。そして、自身の人一倍強い好奇心という限りの知らない衝動に身を任せる以外に選択をしなかった。
そして、その人並外れた好奇心の証明に必要な材料、その筆頭として私自身を提示することになるだろう。
それは、私の不格好に作られたサファリハットという帽子をちょいと除けて、頭髪の更にてっぺんを触れるか見るかしてみれば良い。そこには確実に、私の来い赤毛に交じり、小さく真っ白な角が2つ確かにはえている。
とどのつまり、私は、鬼という化け物、魔物ということになってしまう。私は、魔物と人間のハーフであり、勿論私の母親は立派な人間である。いや、立派かどうかというとそれは議論の余地が存分に残っており、断言はできないが、それでも人間である事に変わりはなく、つまりはそう言うことである。
そういう事というのが、一体どういう事かというのは、考えない方が、私の健全たる精神のためであり、よっぽど懸命な判断というものだろう。
誰だって、自分の母の○○○なんて想像したく無い事だろう。
そうして、私が生まれると同時に、生まれて間もない自身の娘を、自分の絶対的な好奇心の成すままに、自分の為の旅に連れ出した。という、そういう人間であり、それほどに好奇心を抑えるストッパーを欠片すらも持ち合わせていなかった。
とは言ってみたものの、しかし鬼の血を引いた身体と言うのは、とてつもなく便利で、傷の治りも母と、人間と比べてみても何十倍、何百倍もあり、痛覚も大部鈍い。鈍いだけで、骨折でもすれば、腕でも千切れれば、痛みは身体をひたすら駆け抜ける。体力や腕力などは比べる迄もなく圧倒的で、五感も人とは比べ物にならないほどに優れている。なにせこの魔物ばかりが嫌に蔓延るこの世界において、鬼という魔物は、その中でも上位に食い込むのだから。
ーーーーーーーーーーーーー
現在、時は3147年七月上旬、夜もだんだんと深まりを見せ、今この世界で人間の血を引いたものが、この私だけと言うのは、何度考えても、どこか感慨深いものが有るのだから不思議だなと。
しかし、私が感慨深さを感じているその直ぐ下では、それを意図的にぶち壊すかのように、廃れに廃れた文明の残骸とも言える町跡に、巨大な、4.5メートル程の、ざっと50匹以上は居るんじゃないかと思わせるほどの量の、カマキリに似た形をとった魔物が、私が立って下を覗いるこの塔のような建築物の周囲に群がっており、ギーギー、キーキーと両手に付いた鎌と鎌とを擦り合わせて出すその音は、私の中で今まで存在しなかった筈の吐き気というものを、生み出すどころか、だんだんと加速させて行き、背筋には幾度となく寒気という寒気がひた走る。
そんな眼球からしたら害悪以外の何物でもない光景を見せる地上を真っ直ぐ視線を上げた遥か上空では、ゆったりと月明かり以外に明かりの見当たらないこの世界で何重にも重なった暗雲が、その月を私から隠してしまった。
その暗雲からは、次第に小雨がポツリポツリと降ってきたかと思うと、瞬く間に土砂降りへと変化し、ピカピカと目を存分に眩ます明るさが、私の視界を覆い、直後に馬鹿馬鹿しく思うしかない量の雷鳴が鼓膜を埋め付くし、雷が一面に立ち込めるという異様以外の何でもない光景が広がる。広がるのだけれども、しかし、少々待って欲しい。霧や煙の類いが立ち込めるというのならば、それは大いに納得であるが、雷が立ち込めるとは、まったくどういう状況なんだ?理解が追い付かない。
なんだ?カマキリの気色悪さのせいで、私の眼球がついに狂ってしまったのか?
そんな自分の目玉を多少冗談交じりに疑っている私の足元を、右足と左足のちょうど隙間を、一瞬に、轟音を引き連れた雷が突き抜けた。
私の立っていた建築物は、当たり前だと主張するかのように轟々と立派に音をたてながら燃えており、半壊も間もないだろう。
それを上から見ている私は、足場を失い、宙に放り出されてしまった。地面には相変わらずカマキリが犇めき合っており、帽子はヒラヒラと私の真上を舞っている。
さて、私は幸運にも鬼として、それなりの力を持っている。それでも、鬼ではあるものの、普段ならばそこいらの有象無象の魔物などは、千切っては投げ、千切っては投げという具合ではあるものの、しかし、この大量の魔物を相手にして、この圧倒的とも言える物量を相手を前にして勝てますかと、そう問われれば、それははっきりと不可能というものである。
だからこそ、私は着地した後どうやって逃げようかなと考えている。ふと頭上を舞っている帽子を掴むと、そこには、威風堂々という表現をしても、それは謙遜でしかないと思える。尾を螺旋状に何処までも限り無く巻き、雷を全身に纏っている巨大な竜が居座っていた。
その竜が雷鳴をあげて吠えると同時に、一本の雷が地上に降った。雷は単なる通過点として、私の心臓をあっさり貫き、実にあっさりと、心臓をジリジリと焼かれながら身を焦がし、私は命を落とした
…………筈だった。
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