マジックミラー鶴の恩返し

Hey Guys! We Have A Gift For You.


「私が機織りをしている間は、決して中を見ないでください」

 そう言って美しい娘は、茅葺き屋根の家から出て行きました。

 はて、家の外には機織り機もないというのに、一体どこで機織りをするつもりなのだろう。首をかしげたお爺さんとお婆さんがその後を着いていくと、いつの間にか家の前に一風変わったトラックが止まっているではありませんか。

 そのトラックはキャンピングカーのような真っ白な外観で、後部には片開きのドアが見えます。娘はそのドアをくぐり、青空に雲の描かれた可愛らしい内装の車内へ入っていくところでした。

 呆気に取られているお爺さんたちの元へ、茶髪で痩せ型の怪しげな男が近寄ってきます。

「初めまして、僕は出張機織り機のレンタルをやっている小林と申します。

 それじゃあこれから30分間鶴子さんは中で簡単なインタビューと機織りをしますので……彼氏さんは、ここで待っていてくださいね」

 小林にそう言われるまま、気づいたらそこに立っていた娘の彼氏(色白で優しそうなメガネ)とお爺さんとお婆さんは、トラックの外で娘の機織りが終わるのを待つことにしました。


 5分経った頃でしょうか。突然トラックの側面がこう、上にせり上がって中から大きな大きな鏡が現れました。

「なんじゃこれは? 世の中には不思議な車があるもんじゃのう」

 お爺さんは鏡に近づいて手をかざしてみますが、鏡ですから当然中は見えません。当たり前ですね。

「なんか中から変な声が聞こえませんか? おーい鶴子ー?」

 娘の彼氏は、すっとぼけ顔で鏡の向こうに話かけています。

「せっかくの鏡じゃから、化粧直しでもしようかのう」

 その内にお婆さんは家からメイクポーチを持ってきて、軽い化粧直しを始めました。トラックは時折小刻みに揺れ、悲鳴のようなものも聞こえるような気がしますが、全ては気のせいに違いありませんでした。

 予定時間をかなり過ぎて、娘の彼氏とお爺さんたちがすっかり打ち解けた頃、どことなく紅潮した鶴子が謝礼の5万円を持って外に出てきました。

 彼氏の前で妙に余所余所しい態度を取る娘は、謝礼をお爺さんたちに手渡します。何が何だか分からないですが、親切にしてもらったお礼だそうです。

 お爺さんがネットサーフィン中にたまたま全てを知ってしまい、鶴子が元の鶴の姿に戻って飛び去ってしまうのは、まだ先のお話です。

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