サイコキラーだらけの浦島太郎

 昔々あるところに浦島太郎という若い漁師が年老いた母と二人で暮らしていましたが、ここ数年母の姿を見たという人は居らず、庭に植えられた木には毎年綺麗な桜の花が咲いていました。

 ある日のことです。浦島太郎が海岸へ行くと、少年たちが1匹の亀をいじめているところに出くわしました。

「やあ僕は浦島太郎。君たちは一体何をしてるんだい」

 笑顔で近寄る浦島に対し、ニヤニヤと笑う少年たちは黙って小刀を取り出しました。刀には亀のものと思わしき血液が付着しています。

「……一旦落ち着こうか。僕はどうすれば良いんだい」

「話が分かるね、おじさん。僕らが欲しいのは銭こだ。それも出来るだけ沢山のね」

「すまないが、手持ちはこれだけだ」

「ふうん、命が惜しくないんだね」

「ま、待ってくれ、家に帰りさえすればまだあるんだ!」

「案内しな、お・じ・さ・ん」

 涙を流してうろたえる浦島の前で、亀よりも面白い獲物が見つかったと少年達はほくそ笑みましたが、これ以降彼らの姿を見た者は居らず、浦島の庭の井戸は土砂で埋められました。

 ハンカチで手を拭きながら海辺に戻ってきた浦島太郎に、例によって亀が感謝の意を述べて竜宮城への招待を提案します。

「ありがとう! お言葉に甘えさせてもらうよ」

 浦島はそう言って亀に跨がると、釣り糸を亀の首にぐるりと巻き付けて両手でたぐり寄せました。

「ええっ、この糸は何ですか浦島さん」

「無事に送り届けてもらうための保険さ。あれだけの仕打ちを受ければ人間そのものが憎くもなるはずじゃないかい?」

「……後悔するぜ、旦那」

 こうして不敵な笑みを浮かた亀と満面の笑顔の浦島太郎は竜宮城へと向かいました。

「ようこそ、君は恩人だ! いつまでもゆっくりしていっておくれ」

 モーテル竜宮城のオーナー夫婦は温和な笑みで浦島を出迎えてくれましたが、二人とも夕食時に自分達の作った毒入りスープに顔を埋めることになります。殺しが日常になっていたのでしょう。ひとえに慢心の結果でした。


「そろそろ飽きたな」

 随分と時間が経ったある日、鯛やヒラメの活造りを食べながら浦島はそう口にしました。モーテル竜宮城の獣臭い地下室から大小のつづらを盗んだ浦島は、再び亀の背中に乗って地上へ帰ります。亀はこの頃にはすっかり反骨心を失って、浦島の言いなりでした。

 地上に着いた浦島は、見たこともない景色を目の当たりにします。天まで届くような高い建物が建ち並び、恐ろしい勢いで走る早駕籠が石畳の上を走り回っていました。

 一瞬で全てを理解した浦島太郎は、眉間に皺を寄せ、両手でつり糸を力いっぱい引っ張ると、ヒュウと口笛をひと吹きしてその場を立ち去りました。

「グゲ!」

 亀は解放されました。

 その後、相席居酒屋で知り合った見知らぬ男から貰った箱を開けた女が、一瞬にして老婆に変わってしまったという話が、やりすぎ都市伝説でオンエアされていましたとさ。信じるか信じないかは、あなた次第です。

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