世界の名作KUSO童話集

ロッキン神経痛

誇張しすぎた桃太郎

 昔々あるところにお爺さんとお婆さんが暮らしていました。

 お爺さんは山、お婆さんは川でした。

 ある日お婆さんの上流から巨桃が流れてくると、下流でいきなり十文字に割れました。

「何って、内側から桃を斬っただけだが?」

 桃太郎でした。

 桃太郎は1日の約4分の3を食べることに費やしてすくすく成長しました。これは象さんと同じくらいの食事時間です。一説によると、彼の主食は3歳児の頭部サイズのきび団子だったそうです。

 こうして体長2メートル半にまで成長した桃太郎は、例によって鬼ヶ島へ鬼退治に出かけることになりました。

「ワンウキケーン!」

 道中で仲間になった猿犬雉(三つの動物が一体となった神々しい生き物)に優雅に跨がった桃太郎が山を越えると、平原一帯が既に鬼の領土になっていました。人間よりはるかに腕力に優れた鬼達が、孤島に留まっているはずがなかったのです。

 農民達は無残に殺められ、遠くでは城が、民家が、田畑が燃えていました。

「許すまじ、鬼の一派め!」

 怒りに打ち震えた桃太郎は、更に巨大化して旧劇場版エヴァンゲリオンと同じくらいの大きさになって鬼たちと戦いましたが、血気盛んで凶暴な鬼の軍勢を前にだんだんと追い詰められてしまいます。


 日が暮れる頃、あちこち傷を負った桃太郎は命からがら野山へと逃げ込みました。すると藪の中で息を潜めている彼の耳に、どこからか囁き声が聞こえます。

「桃太郎、ワシが今から言うとおりにやってみなさい」

「お爺さん」

 お爺さんは山でした。

 翌朝、桃太郎はお爺さんを登り、お婆さんの上流で水の流れをせき止めていました。

「も、もう限界じゃ、すぐに離れよ」

 お婆さんがうめき声を上げて桃太郎が言うとおりに離れた直後、凄まじい轟音と共に、大量の洗濯物で作られた堤防が決壊しました。決壊したお婆さんの水はお爺さんの土と混じり合い、次第にどす黒い土石流となってふもとの鬼達に襲いかかります。圧倒的な自然の力を前にしては、鬼もひとたまりもありませんでした。

 こうして鬼を退治した桃太郎は、お殿様に気に入られ、妻を百人娶り千人の子宝に恵まれ一億人の民に慕われて天下人となり、晩年は人間国宝となりつつ日本プロレス界の重鎮として活躍するなどして二百五十五歳で冷凍睡眠するまで元気に暮らしましたとさ。やるじゃん、桃太郎。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る