第四話 無智名、無勇功


 レオンは今、西塔二階の貴賓室でファルコ王国の使者と会談している。

 ライフアイゼン王国の送った密使に応じて、ファルコ王国の戸部侍郎、サイモン・ヘインズビーが商隊を装ってヴァーグ王国の検閲を逃れ、南山関を越えて、ランベルトの喪を弔うためと称してファルコ王の名代としてやってきたのだ。

 サイモンは城中の霊廟に供物を捧げ、悔やみを述べた後、レオンに貴賓室に設けられた宴に招待されていた。



「ヘインズビー卿、遠路はるばる弔問の使者ご苦労であった」


「はっ。無事大役を終え、ほっとしております」


「して、弔慰以外のもう一つの役目についてだが」


「我が王は貴国との同盟を望んでおります」


「同盟......しかし我が国は第二皇子の帝位継承を認めておらん」


「セントラルガーランドは未だ包囲されております。が、陥落も時間の問題でしょう。第二皇子アウレリウス様の生死にかかわらず、一旦白紙に戻し、戦後に再度諸侯王で選帝を行いたいとの事です」


「政争の具を残すわけにはいかん。が、ハリード皇太子は戦死されている以上仕方がないか」


「同盟が成立すれば、ファルコ王はセントラルガーランドを包囲してるエグル王国を攻撃し、貴国はヴァーグ王国を攻める。まずはこの基本方針で行きたいと思いますが」


「ヴァーグは貴国の南部とも国境を接しているが」


「守備と牽制の兵は配備します。戦況次第では援軍を出すことは可能ですが、ヴァーグの地は貴国で切り取り頂ければと」


「まず貴国はエグルを取る、我が国はヴァーグを取る、その後ガビーノの本貫は貴国、旧シュトラス地方は我が国で取ると」


「大陸を南北で二分して恒久の平和をこの大陸にもたらしましょうとの事です」


「ファルコ王の話は分かった。マルセル、余はファルコ王国と同盟を結んでも良いと考えるが」


「陛下の御心のままに」


「ヘインズビー卿、弔問の返礼および同盟の正式な使者を遣わす故、ファルコ王によろしくお伝え願いたい」


「はっ!」


「礼部侍郎ヘルムート」


「はっ」


「余の名代としてヘインズビー卿と共にファルコ王国へ赴き、この同盟を纏めるように」


「御意」





 翌朝、ヘルムートが弔問の返礼および同盟締結の使者としてサイモンと共にファルコ王国へ向けて出立する。

 直後に行われた朝議では、マルセルの事前の根回しが功を奏したのか、開戦決議が採択され、同盟成立後にヴァーグ王国に宣戦布告を行うこととなった。

 もちろん親征を行う事も承認された。

 朝議は滞りなく終わり、談話室でレオンとリーザが一息つきながらテオバルトの差し出す書類に目を通している。



「テオバルトはどう思う?」


「ファルコ王国は信用できません。が、利用できるうちは利用すべきでしょう」


「うん、俺もそう思う。まぁそもそもファルコ王国が第二皇子を擁立して揉めたのが原因だしなぁ」


「ガビーノへ送った使者がまだ戻りませんが、まずは旧領を回復する事が先決かと」


「フランチェン領辺りは帝都に近いし難しいけど、まずはローゼ領だな。そこから臨機応変に動くことになるけど」


「他国の戦況次第ですからね。ガビーノと不戦条約を結ぶ事が出来れば良いのですが」



 そこなんだよなぁとレオンは漏らしながらも書類を決裁していく。

 最近のリーザはレオンの仕事中は腕に抱き着くようにしている。

 レオンの両手が自由になり、リーザもレオンの手元を見やすくなり、自身も決裁印が押しやすくなるからだ。

 レオンが退役の申請書類を見ていると、ふと気になりテオバルトに聞く。



「テオバルト、この退役武官に関する書類だけど」


「はい、ああオットー・シュリック男爵ですね」


「これだけの戦歴で正五品上の牙門将軍っていうのは?」


「平民出身という事で出世が遅れたのもありますが、戦果が地味なのです」


「地味?」


「大きく勝たず、大きく負けない。平民出身の為に貴族の子弟が多い国軍ではなく、練度の安定しない傭兵、諸侯兵などを主に率いる事が多いので目立つ戦果が挙げられないという事みたいですね」


「クララ」



 クララは「こちらです」とオットーの経歴が書かれた書類と軍功帳を差し出す。

 リーザはそれを見てぎゅっとレオンの腕を強く抱きしめるが、レオンに頭をなでられた瞬間、にへらと頬を緩ませて機嫌を直すと、レオンと一緒にその書類を見る。



「レオン、これは......」


「そうだねお義姉ちゃん。父上に代替わりした時から重要な戦にはほとんど参陣してるね」


「お義父様の在位十三年間で士爵に叙爵してから順調に陞爵しています。この昇進速度は相当目をかけてらしたのですね」


「平民が男爵になるってだけでも稀だし、むしろ爵位を得て、統率する部隊規模が増える度に戦功を揚げてるね。百人規模を指揮する将校より将軍の方に適正があるように見える」


「武科挙で好成績を収めたわけでも無く、一兵卒からの叩き上げで男爵というのも凄いですね」


「クララ」



 レオンに呼ばれると傍らに控える侍女から書類を受け取り、クララが口を開く。



「裨将軍、偏将軍に任官されていた際のシュリック卿の評判ですが、とにかく無難な戦いをする将軍です。部隊損耗率も低く、任務遂行率も高く、上官の評判は良いようです。ですが規律に厳しく、融通が利かない為に一部貴族の子弟には余り評判が良くないようですね。逆に兵卒の功でもしっかりと評価して軍功帳に細かく記載するマメな方で、兵や下士官の信頼は篤く、功績によって報酬の額が変わる傭兵にも評判は良いようです」


「そんな有能な将軍が六十歳という年齢と、先の大戦で受けた戦傷で退役申請か。もったいないなこれだけの将軍が退役しちゃうのは」


「戦傷......左手に矢を受けて握力が低下......ですか。ねぇレオン、将ならば余り問題にならないのではないですか?」


「そうだね、というかマルセルがわざわざ俺に見せたって事はそういう事なんだろうな。五品官の牙門将軍の人事なら兵部侍郎あたりで処理できるでしょこれ」


「でしたら早速行きましょうレオン」


「そうだね、こういう事は早い方が良い。クララ」


「かしこまりました」


「フリーデリーケ、お土産にお菓子を持って行きましょう。キルシュザーネトルテを用意できますか?」


「市場のおばちゃんから定期的に購入するようになりましたので大丈夫ですよ姫様」


「ではよろしくお願いいたしますね」


「レオン様、今日これからシュリック卿のお宅へ行幸されるのですか?」


「うん」


「即位されて初めての行幸がシュリック卿ですか。公卿を差し置いてというところは気になりますが、却ってよろしいかも知れませんね。派閥とは無関係なお方ですから」


「あ、流石に公式になっちゃうのかな」


「あら、でしたらお土産はよろしくないのでしょうか?」


「流石に非公式という訳にはまいりませんが、公式文書に載せなければ良いだけですので、高額なものでなければリーザ様のお好きなようにされて構いませんよ」


「ありがとう存じますテオバルト」


「割と緩いんだね公式文書」


「行幸では議事録など取りませんしね。せいぜい陛下とこういう話をされたという一文くらいのものですよ」


「それにしても派閥か、めんどくさいな」


「次に行幸されるときは、そうですね......尚書令が無難でしょうね」


「その辺は任せるよ。別に派閥同士でどうこうってのは無いんでしょ?」


「そうですね、まぁお互い対抗意識を持った出世競争みたいなものですから平和と言えば平和ですね」


「まぁそれで仕事を頑張ってくれるなら別にいいんだけどね。お互いの足を引っ張るとか姑息な手段を取らなければ」


「そのあたりはマチアス卿が目を光らせてますし、問題は無いと思われます」



 クララがレオンとテオバルトの会話が途切れたのを確認すると、進み出てくる。



「レオン様、馬車の支度が整いました」


「よし、じゃあ一緒に行こうお義姉ちゃん」


「ええ、レオン。一緒に参りましょう」







 貴族街の片隅にあるオットーの邸宅に到着したレオン一行は、馬車を降り、玄関の前で跪く一家の前まで歩いて行く。

 まだ幼い女の子が跪く母親の横にちょこんと正座で座り、我慢できないのかちらちらとレオン達の方を見ては母親に小声で注意されている。



「陛下、姫殿下、こちらオットー・シュリック男爵でございます」


「陛下、姫殿下、オットー・シュリックでございます。拝謁を賜り恐悦至極。また我が家にお運び頂き身に余る光栄。一生の誉れでございます」


「シュリック卿、よろしく頼む」


「リーザ・ローゼ・ライフアイゼンです。シュリック卿、今後ともよろしくお願いいたしますね」


「ははっ!」



 さぁ頭をあげてとレオンが声を掛けようとした時、母親の横でちょこんと正座してた女の子が瞳を輝かせて立ち上がると、リーザに向かって小走りに近づいてくる。

 エリーザベトがそれを制止しようとするとリーザはそれを止める。

 跪き頭を下げていたと家人が何事かと顔をあげると、幼な子の突飛なその行動に声も出ず顔を青くする。

 


「おねえちゃんすごくきれい!」



 女の子がリーザの目の前に来ると、ぴょんぴょんと跳ねながら声を上げる。



「まぁありがとう存じます。お名前は?」


「アメリア・シュリックです! ごさいです! へーかのおめにかかれてこうえいです!」



 僅かな時間に練習したのだろう。

 姫殿下という単語が無かったが、リーザはにっこりと微笑み、目線を合わせるために少しかがむと同時にアメリアの頭をなでる。



「まぁ可愛い! アメリア、良く出来ましたね。わたくしはリーザと申します。よろしくお願い致しますね」


「リーザおねえちゃん!」


「ええ、そうですよアメリア」


「姫殿下、孫が申し訳ございませぬ! アメリア、こちらに来なさい!」



 家人は真っ青な顔のまま茫然とし、アメリアの母親が今にも泣きそうな顔でうろたえている。

 なんとか声が出せたオットーも、酷くうろたえながらアメリアを呼び戻そうとする。



「やだ!」



 だがアメリアはそんな家族の心配をよそに、リーザと離されると思ったのか、リーザの背中に隠れてしがみつく。



「よろしいのですよシュリック卿。さぁ皆さまも立ち上がってください」


「シュリック卿、リーザお義姉様なら大丈夫だよ。さぁ立ち上がって」


「アメリア、お姉ちゃんと手をつなぎましょう」


「うんリーザおねえちゃん! えへへ」



 アメリアはリーザとつないだ手をぶんぶんと振ってご機嫌だ。

 リーザもこの少女が可愛くて仕方が無いようで顔が緩みっぱなしだ。



「リーザおねえちゃんこっちだよ!」


「本当にアメリアは可愛いですわね」



 アメリアがリーザを応接室へ連れていこうとしてるのにオットーが気づき、慌ててレオンを応接間へ案内する。



「陛下、孫が大変失礼をして申し訳ございません」


「いやいや、大丈夫だよ。お義姉様も喜んでるし気にしないで」



 応接室に到着するもアメリアは一向にリーザから離れようとしない。

 上座の一人掛けの皮張りの椅子にレオンが、左手の三人掛けの長椅子にリーザとアメリアが手をつないだまま座る。

 レオンがオットーに席を促すと、恐縮したまま下座の席に着く。



「アメリアは甘いものは好きですか?」


「うん!」


「じゃあお姉ちゃんのとっておきを差し上げますね」



 片手で器用にポシェットから一粒のボンボンを取り出して包みを開くと、指でつまんでアメリアに差し出す。



「アメリア、ボンボンですよ。お口を開けてくださいませ」


「あーん」


「はいっどうぞ」


「りんごのあじがする! あまくておいしいよリーザおねえちゃん!」


「硬いから噛んでは駄目ですよ」



 こくこくと頷きながらもボンボンに夢中だ。



「ふふふっ、アメリアは元気で良い子ですね」



 ころころとボンボンを口の中で転がすのに夢中なアメリアの頭をなでているリーザは、ずっとにこにこしている。

 そんなほんわかした空気の中、オットーの妻がお茶を淹れて持ってくる。

 どこかで見たような茶器に慣れた茶の香り、レオンは急遽思い立った行幸を反省しつつも、クララの細やかな仕事ぶりに感心する。



「さてシュリック卿、いやオットー将軍。訪問の目的なんだけど」


「はっ」


「近々大いくさが始まるのは分かるよね」


「はい、大事な時に大恩ある国家に対して御奉公出来ないのは非常に無念であります」


「そこを曲げて出仕して欲しいんだ」


「陛下自らそう言って頂くのは大変光栄でございます。まだまだ若い者には負けないと自負しておりますが、戦傷で満足に槍も持てないのでは却ってご迷惑をおかけするだけでしょう。この老いぼれの命など惜しむものでは無いのですが、若いころから槍働きしかしてこなかった身、戦場以外でお役に立てる場所が......」


「いや、まさにその戦場で力を貸してほしいんだよ」



 オットーはレオンの台詞に口惜しそうに思うように動かせなくなった自身の左手をなでる。

 だが決意したようにレオンを見つめ返して席を立つと、レオンの前まで進み出て跪く。



「かしこまりました。左手に槍を縛り付けてでも御奉公させていただきます」


「ええっ、いやいやいや、わざわざ槍を縛り付けなくても」


「でしたらツヴァイハンダーを縛り付けて、傭兵と共に敵陣に斬り込みまする。なぁに、十やそこらの首は刈って見せましょうぞ」


「えっ、なんで将軍自ら敵陣に切り込むの? いやたしかにそういう将軍はうちには多いけども」


「はっ? 先の大戦の功で牙門将軍に任じられましたが、それまでは偏将軍、つまり将軍とは名ばかりの副将格や部隊長のようなものです。我が国では偏将軍や牙門将軍は千程度の兵を指揮するのが慣例ですし、傭兵部隊の指揮官をお任せ下さるのではないのですか?」


「オットー将軍にはもっと大兵を率いてもらいたいと思ってるんだけど。実際去年なんかは上官が戦死した後に残兵五千を率いて撤退戦を成功させたりしてるし、先の大戦では負傷兵を率いて撤退作戦を成功させているし」


「たしかに五千やそこらの兵を率いた経験はございますが......」


「部隊指揮の戦歴も素晴らしいが、オットー将軍の本質は大兵を率いた部隊運用、特に守勢に回った時に発揮されると思ってる」


「兵を預けて頂ければそれなりの戦いは出来るとは思いますが、私は過去一度も勲功第一位どころか上位になったこともありませんし、智謀が優れているわけでも武勇が優れているわけでもありません」


「それは誰と比較して?」


「えっ、いや世間もそうですが軍部でも私の名を知る方は少ないでしょう」



 レオンは席を立つと、先程から跪いてるオットーと目線を合わせる為に片膝をつく。そしてオットーの左手を取ると傷を優しくなでながらレオンは言う。



「兵書に<善く戦う者の勝つや、智名も無く、勇功も無し>とあるよ。良将はその智謀や勇敢さを認められることはない。なぜならば普通に戦って普通に勝っているからだ。たしかにうちにはバルナバスやマインラートのように負け戦をひっくり返すような派手な武功を挙げる将軍もいる。だけど俺はオットー将軍の、地味だけど堅実で老練な部隊運用を評価してるんだ。是非俺の、いやこの国の為に力を貸してほしい」



「陛下......この命、いかようにもお使いください」


「ありがとう、オットー将軍」



 オットーと話し終えたレオンが立ち上がり、「では今日はこれでお暇しようか」と声を掛けると、アメリアが察したのかリーザに問いかける。



「リーザおねえちゃん......かえっちゃうの?」


「ええ、残念ですけれど、まだお仕事がありますので」


「......」



 涙目でリーザから離れないアメリア。

 リーザを帰したくない一心で腕にしがみつく。



「ではアメリアにお姉ちゃんからの贈り物です」



 そう言ってポシェットからボンボンの入っている箱を取り出すと、そのままアメリアに渡して蓋を開けて見せる。



「ボンボンがいっぱいはいってる!」


「アメリアは毎日これを一つずつ食べてくださいませ。そしてボンボンが無くなる前までに、またお姉ちゃんがアメリアに会いに遊びにきますから。どうですか? それまでアメリアは我慢できますか?」


「うん! リーザおねえちゃん」


「アメリアは良い子ですね」



 リーザがアメリアの頭をなでながらフリーデリーケに目配せすると、フリーデリーケがオットーの妻に箱を差し出す。



「奥様、こちらお土産のキルシュザーネトルテです。よろしければ皆さまで召し上がってくださいませ」


「ありがたく頂戴いたします。また孫にまで過分な物を頂きまして申し訳ございません」


「いいえ、よろしいのですよ。アメリアのおかげで大変楽しく過ごさせて頂きました。こちらからもお礼申し上げます」





「お義姉ちゃん良かったの? あのボンボンを入れてた箱、大事なものなんでしょ?」



 帰りの馬車の中でリーザと手をつないだレオンが聞く。



「ええ、でも良いのですよレオン。アメリアを見ましたか? とても大事そうにあの箱を抱えていました。わたくしの代わりに大事にして頂けるなら良いのです」


「今日はお義姉ちゃんがアメリアに取られちゃうんじゃないかってちょっと心配しちゃったよ」


「あら、レオンはアメリアにやきもちを妬いたのですか? ふふふっ大丈夫ですよ。わたくしはレオンのお義姉ちゃんなのですから、レオンとずっと一緒にいますよ」


「そっか、良かった。じゃあ今度一緒に城下へ新しい箱を探しに行こうか」


「ええ! 一緒に参りましょう!」


「そうだクララ、茶器はそのままで良いからね」


「かしこまりました」



 リーザは握っていた手を放し、レオンの腕にしがみつく。



「レオン、どういうことですか?」


「オットー将軍の家には、王族をもてなす茶器が無かったんだよ。男爵になってまだ間もないから領地からの収入も無いだろうし、男爵に陞爵した時に家屋敷と一緒に報奨金も多少は貰っただろうけど、そもそも調度品やら接客用の品なんかは、代を重ねて少しずつ集めていくものなんだよ。今回はその辺を察したクララが、事前にお茶の葉っぱと一緒に茶器を貸し出したんだけど、またお義姉ちゃんがアメリアに会いに行くし、今後は高位貴族の来客も増えるだろうからね。俺やお義姉ちゃんからの下賜って事にしちゃうと角が立つから、クララかテオバルトからの贈り物か、グナイゼナウ伯爵家からの貸出品って事にすればまあ何とかね」


「またわたくしの思い付きでみなさんにご迷惑をおかけしてしまったのですね......」


「そんなことないよ。お義姉ちゃんのおかげで名将の引退を押しとどめることが出来たんだよ。吏部尚書か兵部侍郎あたりに任せてたら引退を翻す事が出来なかったかも知れないし、そもそも手続きだなんだで開戦に間に合わなかっただろうしね」


「ですけれど......」



 レオンはリーザを優しく抱きしめると、耳元で囁きかける。



「その為にクララやフリーデリーケ、テオバルトがいるんだよ。マルセルだっている。駄目だったら駄目、出来ないなら出来ない、間違ってるなら間違ってるって言ってくれるからね。今回だって誰も反対しなかったでしょ? だからこれからもお義姉ちゃんには思いついた事をどんどん言ってもらわないと」


「レオン......」


「俺だって間違ったことを言うこともあるし、その時はお義姉ちゃんも指摘してね」



 レオンの胸に顔を埋めてぎゅっと抱きしめてこくこくと頷くリーザ。

 テオバルトの左隣に座るクララは二人を見て口元がヒクヒクと動いているし、右隣に座るフリーデリーケはニコニコと二人を見つめている。

 レオン達の正面、中央に座るテオバルトは一瞬で馬車内の観察を終えると、なるほどこういう関係性か。と一人納得するのだった。

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