第26話 レント村奪還 開戦⑤ side:リンコ
あのスケルトン、洞窟の個体とは全然違うわね。
大丈夫かしら?
「あんたは私が相手してやるよ!」
「ック…」
魔族はリンコへ間合いを詰め剣を放つ。
リンコはそれを受け止めて、競り合う。
「あんたやっぱり、あの辺の雑魚よりやるねぇ」
そう言いながら魔族が少し離れたところにいる兵士達に目線をやる。
「だから、何よっ!」
「そうねぇ…あの辺の奴らよりは弱そうねぇ」
次に魔族はレイシスとチリ達の方に目線を配る。
「だから、何なのよっ!」
「さあ?なんだろうね?」
リンコは顔を顰めて、競り合っている剣を潜り抜けるように外し、勢いに任せて剣を振り抜く。
魔族はそれを軽く交わし距離を取った。
「
リンコが空かさず風の斬撃を放つが、それも軽く交わされる。
「んー、全然ダメねぇ」
魔族は一瞬でリンコに距離を詰めて鋭い一撃を放つ、あまりの速度に対応しきれず頬のあたりから血が軽く飛ぶ。
「ック……!
光よ、我らに新たな祝福をーケアっ!」
リンコが魔法を唱えると頬の傷が徐々に塞がっていく、その隙を突いて再度魔族がリンコに詰め寄る。
「悠長ねぇ」
リンコは横に飛び跳ねる様に転がって攻撃を交わす。
「風よ……ック!!」
「剣士が呪文なんて、温いわねぇ?」
魔族はリンコの魔法を中断させる様に剣を振るう、リンコはその攻撃をギリギリで流す事で精一杯だった。
ーーザハール
スケルトンはカタカタと音を立ててザハールへ蓮撃を浴びせている。
「瞬歩……」
ザハールはまるで瞬間移動したかの様に一瞬にしてスケルトンから距離を取る。
「意志の
「弓技ー三連星」
ザハールは1つの追尾する矢と3つに分かれた矢を放ち、スケルトンに命中させる。
しかし、肉体に頼らないスケルトンはザハールの矢を受けてもお構いなしに攻撃に転じる。
「相性が……悪いか……。」
ザハールはスケルトンの攻撃を一重で交わしながら、反撃のタイミングを図る。
「瞬歩……」
「水よ、魔を払う弾となれー
再度ザハールが放った攻撃がスケルトンに命中する。
「俺では……魔力が低すぎるか……」
ザハールは軽く周りを見渡す。
リンコはもちろんの事チリ達もレイシスもこちらをフォローする余裕は無さそうだ。
「……ッフ」
ザハールは気持ちを高揚させ、目の前のスケルトンに集中する事にした。
「弓技ー破魔の矢」
ザハールの弓に魔力が宿り、スケルトン目掛けて飛んでいく。
スケルトンはその矢を一重に交わす。
「そうか……これは効くのか……」
スケルトンはザハールの攻撃を見て、先程とは少し変則的な動きを混ぜて攻撃に転じる。
スケルトンは様々な態勢で様々な角度から連続で剣撃をザハールへぶつける。
しかし、ザハールは素早さに特化しているためどの角度の攻撃も、一重で交わしていった。
次第に目も慣れてきて、ザハールに余裕が出始める。
「弓技ー破魔の矢」
「弓技ー三連星」
ザハールが技を放つ、スケルトンは破魔の矢を確実に交わすが、他の矢は全て身体に命中する。
次第に、ダメージが蓄積されたのか、スケルトンの動きが少し鈍り始めた。
「必中」
ザハールの周りの空気が変わる。
「弓技ー破魔の矢」
ザハールが矢を放つと先程より鋭い一撃がスケルトンへ直撃する。
スケルトンの頭蓋は破裂する様に音を立てて弾け飛んだ。
「全く、使えないねぇ」
魔族がそう言うともう一体のスケルトンが地面から這い出てくる。
先程と全く同じ個体だが、連戦となるとザハールは少し厳しさを感じマジックポッドを一瓶口へ含んだ。
ーーリンコ
「風よ、我が身に纏えー
リンコは魔族がザハールに意識を取られているうちに、魔法を唱え、マジックポッドを一つ飲み干す。
「うぇっ……不味いわねっ!」
そう言って余裕そうにしている魔族へ一瞬で距離を詰めて、逆袈裟の要領で剣を放つ。
漂風で強化された、リンコの速度は油断している魔族の予想を僅かに上回る。
「ッチ、痛いねぇ!」
「剣技ー岩石卸っ!」
魔族は足元に浅い傷を負った事に注意が向きリンコの剣技の対応に少し遅れ、不細工な態勢でリンコの剣を受け止めるが魔族の剣は予想外に速度の乗った剣に弾き飛ばされる。
「剣技ー絶対斬っ!」
空かさず、屈んだ姿勢から居合の要領でリンコが剣を放つ魔族はその攻撃を交わしきれず腹部の端に深い剣撃を負う。
「あぁああああッ!!!」
「悠長な事してるからよっ!」
魔族は腹部を押さえて、口から血を吐き出す。
「火よ、魔を射殺す…弾丸となれ…ー
魔族は近くの金属の破片と木の破片が転がっている所へ魔法を放つ。
リンコは空かさず、魔族へ詰め寄り剣を放つ。
魔族は剣を交わしきれず、右肩の部分に浅く傷を負った。
「あぁ、殺す、絶対殺すッ!!」
魔族は先程放った魔法の所に落ちている少し先が赤くなった金属を瞬時に回収して腹部の傷に無理矢理当てる。
ジュウジュウと音を立てて、魔族の手と腹部は爛れた様な火傷跡が残る。
リンコはその光景に恐怖を感じる。
「無理、殺す、殺す、コロス……」
魔族は呪文の様にそう言い放つと先程までの余裕は無く、徐々に黒い靄を身体から放っていく。
先程の余裕そうな雰囲気はすでに無く、ただただこちらを虚な目で見ていた。
「何よ……気持ち悪いわね……」
「……。」
次にリンコが魔族の動きを捉えたときには、もう既に目の前まで来ていた。
リンコは咄嗟に反応して距離を取り、剣を防ごうとしたが、魔族の剣はリンコの右腕を切り飛ばした。
「……ッ!!」
リンコは何が起きたかわからなかった。
再度、攻撃に転じようとしたときに右肩に激しい痛みを感じる。
「ああああああ”あ”
ああああああああああッ!!」
リンコは叫び、地面に膝をつき肩を押さえる。
目の前には迫りくる、魔族の剣。
ゆっくりと映るその光景をリンコはただただ
見ているしかなかった。
リンコは悟る様にゆっくりと目を閉じた。
「瞬歩」
リンコは頭から生温い水が掛るのを感じ。
開くはずのなかった目を開ける。
魔族の剣はザハールの胸部を貫く様に突き刺さっていた。
「……ル?」
「杖技ー千手ッ!!」
ザハールの後ろで何かが倒れる音がする。
「……グハッ!」
それに合わせて、リンコの方へザハールが崩れ落ちる、その光景にリンコは肩から感じる痛みなど忘れる。
「ハール……? ……ザハールッ!!」
「あぁ、これは……。」
レイシスが顔を曇らせてリンコとザハールの状態を確認する。
「光よ、我らを救う祝福をーハイケア…」
レイシスがリンコへと回復魔法を掛ける。
リンコの肩口から肉が盛り上がる様に止血を始めた。
「ね、ねぇ? レイシス? ザハールは……?」
「申し訳…ございません。」
「ねぇっ! レイシスッ!!」
リンコがレイシスに詰め寄ろうとすると辛うじて息があるザハールがリンコの服を掴みそれを静止する。
「……いい。」
「ザハール……?」
「頼みがある……。」
大量の血を流しながらザハールは悲しげな目でリンコにそう伝える。
「世界を救ってくれ……」
「ザハール……ねえ?
意味わかんない…ザハール? ねぇってばっ!」
「……ッフ。」
そう言ってザハールはいつもの不格好な笑顔を浮かべて親指を立てる。
「あぁ…最後…シチューが食い……な。」
ザハールは目を閉じて涙を一粒だけ零し、不格好な笑顔をしながら手を地面に預けた。
リンコは崩れ落ちる様に叫ぶ、レイシスは唇を噛み締めて、ただ見守っていた。
「レイシスさん、ど、どう言う状況っすか?」
戦闘を終えたチリとドグルがこちらへ向かってくる、2人ともかなりの傷を負っていた。
「チリ隊長…ドグル副隊長……
申し訳ありません、この子達を後方支援へ。」
そう言われてチリはザハールとリンコを確認して顔を曇らせる。
「……はいっす。」
「レイシス隊長、お言葉ですが
私はお供します。」
ドグルは傷だらけでレイシスに伝える。
「いえ、貴方も戻ってください。
私がその分戦わせていただきますので。」
「ですがっ!」
「深傷を負った兵士たちを連れて、早く後方へ
戻りなさいッ!上官は私ですッ!」
「わかりました…」
「ドグル、戻るっすよ。」
ドグルは悔しそうにレイシスの言葉を聞き入れる。
そうしてチリはザハールを優しく担ぎ、ドグルは放心状態のリンコを担ぎ上げた。
そのまま、何人かの兵士達と深傷を負った兵士たちを担ぎ、この場を離れた。
たった4体の魔族と接敵しただけで50人いた兵士で戦えるものはもうレイシス以外にいなかった。
「あぁ……女神様、力無き私をお許し下さい。」
レイシスは離れて行くチリ達に祈りを捧げて、村の中央へと一人で進み始めた。
ーー
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