第20話 レント村奪還 決行準備④

食堂にたどり着いた、俺とリンコは各々好きな食事を取りに行き、席へと着く。


「そういえばリンコ。

 お前、エイレネって知ってるか? 」


「エイレネってあの女神様? 」


「あぁ、多分そうだな。

 お前もヒマリみたいにエイレネに会ってから

 ここに来たのか? 」


「うん、アユムは会ってないの? 」


リンコがキョトンとした顔で俺にそう聞いてくる。


「会ってるとは思うんだけどな。

 俺はここに来る前の記憶が無いからさ。」


「ふーん、じゃあさ

 どこから来たかも覚えてないの? 」


「そうだな、ステータス表を見るまでは名前も

 わからなかったくらいだしな。」


街並みや景色くらいは朧げに覚えてるんだけどな、俺がどんな環境で育って何をしてたかは思い出せない、実際はそんな感じだった。


「じゃあアユムは

 帰りたいとか思わないんだ? 」


「んー…どうだろうな。

 リンコは元いた世界に帰りたいか? 」


「うううん!

 私この世界が好きだからっ! 」


リンコはへへへと笑いながらそう答える。


「あ、でもね。

 私のいた世界も、好きな所はあったよ! 」


「そっか、どんな所が好きだったんだ? 」


リンコは昔を思い出すように目を瞑りながら、喋り始める。


「まずね、花火って言うのがあってねっ!

 私はそれが好きだったんだっ!」


「火の球が一つ上に飛んでパーンッ!って

 たくさん弾けてキラキラ光るのっ! 」


リンコは手でそれを表現しながら楽しそうに続ける。


「それがね、毎年夏にあってね。

 私はそれを見るのが凄く楽しみだったんだっ!

 早く夏来ないかなーってっ!」


「そうか、リンコは花火が好きだったんだな。」


「もうっ! アユム全然興味なさそうっ!! 」


「いや、興味ないわけじゃないぞ。

 説明を受けてもイマイチピンとこなくてな。」


「むぅぅ…アユムも

 一回見たら絶対好きになるよっ! 」


「そうか、だったら俺も見てみたいな。」


「うんっ! この世界にあったら見せたげるっ!

 すっごく綺麗なんだからっ! 」


そう言ってリンコがまた身振り手振りで花火の事を一生懸命教えてくれた、一通り説明をするとリンコは話を変える。


「あ、それとねラノベが好きだったのっ! 」


「ラノベ?なんだそれ。」


「本なんだけどね、事故に遭って死んじゃった人

 が別の世界に行って大冒険したりとかするの!

 でね私はずっと憧れてたんだ、私も自分の足で

 いろんな所を冒険したいなってっ! 」


「へぇーまるで俺たちみたいな感じだな。」


「うんっ!だから私はこの世界が好きなのっ! 」


リンコは話をしていて気持ち良くなったのか、机の下で足をパタパタとしているのがわかる。


「ねえ、アユムはちょっとでも

 何か覚えてる事ないの?」


「んーないな。

 最近思い出した事はあるけどな。」


リンコが聞きたそうに両手で頬杖をついてニコニコしながら、教えて教えてと言ってくる。


「大した事じゃないぞ?

 俺にはマリって妹が居たってだけだよ。」


「あっ!私の知り合いにも

 マリって子がいたよっ!ヒマリに瓜二つの子な

 んだけどね、性格は全然違くてね…」


リンコが楽しそうに話を続けようとするが、リンコの知り合いのマリが気になって俺はそれを静止する。


「ん? なによ? 」


「いや、マリとは仲が良かったのかなって 」


「んーたまに会うくらいの人だったし

 そこまで、仲良くはなかったかなあ。」


「そうか…話遮ってごめんな。」


「大した話じゃないし別にいいわよ。

 あっそうだ、いつもお兄さんと一緒にいた

 イメージはあったかなあ。」


「お兄さんは俺に似てたか? 」


「会うときいつも近くにいるっ言ってただけで

 見た事ないわよ? 」


「そうか…ありがとうな。」


俺が残念そうに話を終わらすとリンコは話に水を刺されたのが気に入らなかったようで、少し膨れていた、俺は何とか話を戻そうとする。


「そ、そうだ!

 リンコの事もっと教えてくれよ! 」


「な、何よっ急に、気持ち悪いわねっ! 」


俺が突飛もない事を口にしたせいで、リンコは若干身を離すが、顔は少し綻んでいた。


それからリンコは機嫌を治して自分の居た世界の話を始めてくれるが10割近くラノベの話だった。


「ちなみに、リンコ。

 ラノベ以外に何かないのか? 」


「ん? 何かって何よ? 」


「例えば花火みたいなさ、本以外の話! 」


「ふんっ! 知らないっ! 」


俺がそう言うとリンコは顔をプイっと横に振って眉間にシワを寄せ始める。


「もう、行くね。」


「ん?あぁ、今日はありがとうな。」


そう言って、リンコが席を立ち上がる。


「手…」


「て?」


「手を出してっ!」


リンコは俺の手を引っ張り、ポケットから雑に赤のペンを取り出すと俺の手に何か書き始める。


「何してんだ…?」


「それは日の丸って言うのっ!

 私の居た世界の国旗よ、花火以外はそれくらい

 しか知らないわっ!」


最後にふんっと言い残してリンコは踵を返してこの場を去った、その背中に俺は寂しさを感じた。


ーー


俺はあれから食堂を出て、自室に戻る。

そして椅子に座りながらリンコの落書きを眺めていた。


「日の丸かぁ…」


俺は日の丸を見て洞窟で見た白カビを思い出す。


「似てるな。」

言い様のない既視感を感じながら落書きを眺めていると何かが繋がる感触を感じた。


「日の丸…日本…そうか日本だ…!」


その瞬間、俺は思い出した俺の出身がリンコと同じ日本だった事を。

そして次第に俺の中で朧げだった風景が色付いていき、暗闇の中で見た景色と合わさっていく。


それからしばらくして俺は10歳頃までの記憶をある程度、思い出した。


それ以降の記憶はなかなか思い出せなかったが、それでもいくつか思い出せた事に俺は喜びを感じた、両親の顔、それから妹のマリ、そして幼き日の友人達の顔が頭に浮かぶ。


ありがとうな…花火綺麗だよな。


俺は夏祭りの花火を思い出して、心の中でリンコに礼をする。


そして無性に元いた世界に帰りたくなった。

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