第18話 レント村奪還 決行準備② side:ザハール


俺は7歳の頃戦争孤児だった。

身寄りも無く、一人では何もできない。

金も無ければ、力も無い、毎日の様に感じる飢えを泥水で耐え凌いでいた。


もう、死んでしまうんだなと思った時に近くに停まった黒い車から大きな男が俺に近づいてきた。


「おい坊主、その水は美味いか? 」


こいつは何を言っているんだろう? 泥水が美味いわけなど無いのに、こんな馬鹿にはさっさと帰ってもらおう。


「…ま…ぃ…」


ああ、もう声も出ないのか。

まあたまに来るガキみたいに石を投げてこないだけマシか。


「ガハハッ!! そうか坊主! 美味いか!! 」


男はそう言ってガサツな手で俺の頭をかき乱す。

痛いしやめて欲しかったが、その大きな手から暖かな温もりを感じてどうしてか渇き切った俺の目から水が漏れる。


「お?泣くほど美味いんだな! 」


そう言って男が俺の近くに溜まっていた泥水を両手で掬う。


ああ、こいつは馬鹿なんだな。

それもそうか、第一こんな死にかけの子供に声を掛けてくるやつなんてイカれた奴くらいだろう。

こんな奴相手に温もりを感じた俺が情けなくなる。


「う…っぺ!ガハハッ!

 こいつは、ひでぇ! 溝の味だあ! 」


「…。」


男は大層に笑いながらそう言うとニカっと汚らしく笑った。


「おい坊主、もっとうめえもん食いてえか?」


「…る。」


「そうか!食いてえか!!

 おい!ギャドソン!車を持ってこい!」


男がそう言うと、ギャドソンと呼ばれた男が車をこっちへ寄せる、俺は大男に掴み上げられ車の後ろへ乗せられた。


久しぶりに柔らかい物の上に乗った俺の身体は崩れる様に倒れる。


「おぉ坊主! 人様の車に乗った途端寝っ転がるな

 んて無礼な奴だなあ!! 」


違うのだ、身体が勝手に倒れただけだ。

せっかく、固い地面から離れられたんだこのまま降ろされるのは嫌だ。


「ち…が…ぅ…!」


俺は精一杯声を張り上げて否定する。


「ん…?なんも違わねえだろい!

 ガハハ! 仕方ねえ坊主だなあ! 」


男は何も気にせずギャドソンと呼ばれた男に指示して車を走らせた、俺はその光景を見つめながら眠りに落ちた。


ーー


「おい坊主!いつまで寝てんだ?

 にしても男の癖にえらく貧相な身体だなあ!」


目を開けるとベッドの上に俺は裸で転がされていた、俺は以前同じ戦争孤児の小さな少女が大きな男達に弄ばれていた事を思い出す。


俺はここでこいつに犯され、そのままあの少女みたいに殺されるのか。


「ガハハ! おい坊主!

 なに縮こまってんだ! 早くこれに着替えろ! 」


そう言って男は俺の身体に近いサイズのシャツとハーフパンツを投げてきた俺は呆気に取られた。


とりあえず、言われた様に服を着ようとするが

思うように身体が動かない。


「なにボサッとしてんだ!

 しゃーねえ坊主だなあ! 」


ドカドカとこちらへ来た男は俺を軽々と持ち上げ雑に服を着せてくれた。


「ガハハ! 馬子にも衣装ってなあ!」


「…。」


男は俺を持ち上げたまま、部屋を出て階段を降りる、それから短い廊下を進んでいくと何やらとても良い匂いが漂ってきた。


男がドアを開けると、騒がしい声が聞こえてくる。


「おい!お前らあ!!

 こいつにうめえもん食わせてやれい! 」


男がそう言うと、そこに居る6人の男女が大笑いし始める。


大男は俺を近くの椅子に下ろすと、奥にいる仲間達の元へと歩いていった。


しばらくすると、20代くらいのがっしりとした綺麗な女性が片手に皿を一つ持ってこちらへ来る。


「ほれ、坊主たんと食いな!

 私のお手製だ! そんじょそこらの飯より上等

 よ! 」


「…ま…す。」


目の前に美味しそうなシチューが置かれる。

俺は、置かれたスプーンを持ち上げシチューを掬おうとするが、手が震えて上手く口へ運べない。


我慢できずに、手でシチューを掴み取ろうとすると女性が俺の手を掴み取る。


「アッハッハ!しゃーない坊やねえ! 」


そう言って女性は優しくシチューを俺の口へ運んでくれる。


「ほれ、焦らなくていいからちゃんと食いな。」


ああ美味い…

少し辛すぎるくらいの塩が身体に染み渡る。


「お?そんなに美味いかい?

 アッハッハ!作り甲斐があったもんだねえ! 」


俺は久しぶりに感じる、温もりに涙が溢れた。

いや、このシチューが美味すぎたんだろう。

俺はしつこい程に辛く最高に美味いシチューを余す事なく食べきった。


「おい坊主!

 家は何処だ!送ってやるよ! 」


大男はこちらに向かってきて、ニカっと笑いながら酷な質問を投げかけてくる、俺には帰る場所なんてないのに。


まあ仕方ない最後に美味いものが食べれただけでも俺は少なくとも犯されて殺された名前も知らないあの少女よりは救われた最後だろう。


「ろ…じ…。」


俺は元いた場所を素直に答える。

周りの人達が一斉に笑い出す。


「ガハハ! そうか坊主!

 お前の帰る場所は俺だったのか!! 」


俺は意味がわからなかった、だいたいこの男は最初から意味がわからない奴だったのだ。


「おい坊主!何鳩みてえな顔してんだ!」


一体なんなんだこいつは、坊主坊主とうるさい奴だ、俺にだって名前くらいあるんだ。


「お…れは…ザ…ハール…だ…」


「おぉそうか坊主!

 おめえはザハールって言うんだな! 」


「そ…うだ…」


俺がそう言うとそうかそうかとうなずき、男は腕を組む。


「俺の名前はロッジだ!

 ガハハ!ザハールおめえの帰る場所だよ! 」


それから、俺はこの大男が率いるロッジファミリーの一員となった。


ーー


俺はロッジファミリーへと入ってから。

色々な仕事をした、殺人や窃盗に麻薬売買。

ロッジファミリーとは所謂マフィアだった。


ただ、俺達にも誇りはあった。

俺たちロッジファミリーは大きな組織では無かったが仕事は選んでいた。


それがロッジの意向であり、ロッジがロッジである理由でもあった、そんなロッジの事を俺は大好きだった。


そして何より、身寄りのなかった俺を心の底から愛してくれるファミリーが大好きだった。


俺は最高に幸せだった。


ーー


それでも、幸せな日々とは

いつの時代も続かないものなのだ。


ある日俺が敵対組織のスパイに迂闊にも漏らしてしまった情報により、瞬く間にして俺の大好きな日々は終わりを告げた。


俺がアジトに帰り、いつもの様に皆がいる部屋へ戻ると、そこには大量の銃槍と俺が大好きだった人達が転がっていた。


俺は地面に落ちていた一丁の拳銃が目に入る。


「ハハハ…俺が…」


拳銃は俺が情報を漏らしたスパイがいつも持っていた物だった、俺は全てを理解した。

襲い掛かってくる虚脱感と一度味わったことがあった絶望感に包まれる。


俺は疲れてしまった。

俺を守る為に戦場へ向かった家族を失い、俺を救ってくれた家族も俺のせいで失った。


「俺の…せいで…」


手に持っていた拳銃の銃口を頭に当てる。

その時、俺の目の前に大きな光が現れた。


『悲しき、青年よ…』


「ハハハ…この後に及んで幻覚か…」


『私は女神エイレネ…汝何を望む…? 』


「……。」


ーー


俺は目覚めると、この世界にいた。

未だに俺は考える、この世界は現実なのか?、と

目が覚めると、あの日の続きから始まるのではないかと。


俺はカードを見つめて、開示と唱える。


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〈ザハール〉

種族: 〈人間族〉

職業:〈弓の勇者〉

Lv:42

マナ:193

攻撃:252

防御:123

魔力:184

俊敏:319


武器:王国騎士の弓 攻撃+45


称号:

〈異界の勇者〉

特性:

〈状態異常無効LV2〉〈即死無効LVMAX〉

〈弓技LV2〉〈水の加護LV1〉

〈アストラ語LV4〉

スキル:

水弾ウォーターバレット〉〈必中〉〈意志のホーミングアロー〉〈瞬歩〉


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カードを見つめていると後ろから声を掛けられた。


「おい! ザハール! 飯でも食いに行こうぜ! 」


「ッフ…そうだな。」


俺はレイジとともに食堂へ向かった。


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