第16話 謝罪


目が覚めた俺は、医務室のベッドの上でまだ怠さの残る身体を動かす。


「お兄ちゃんっ!やっと起きた…!!」


心底安心した様子のヒマリが目に入り込む。

目の下は少し赤くなっていた、それ程に心配してくれていたのだろう。


今更だが、俺がヒマリに前から感じていた懐古的な気持ちはヒマリの顔の造形や雰囲気がきっと仕草まで俺の妹のマリと瓜二つだからだろう。


「ありがとうな、ヒマリ」


俺はそう言ってヒマリの頭を優しく撫でる。

何となく、そうしたくなったからだ。


「ひぇぁっ!」


ヒマリは身体をビクつかせて、顔を伏せた。


「ぁの…本当に…良かっ…です…」


「あ、あぁ…そういえばヒマリ。

 エイレネって知ってるか…?」


俺はヒマリに目が覚める前に暗闇で話しかけてきたエイレネについて尋ねる。


「はぃ…しってます…」


「そうか…じゃあエイレネは一体何者なんだ?」


ヒマリは深く深呼吸して、もう一段階頭を下げる。


「私をここに連れてきてくれた女神様です…」


「ん? じゃあここに来る前にヒマリはエイレネ

 と会った事があるのか? 」


「はぃ…」


俺はその言葉を聞いてふと疑問に思った事をヒマリに尋ねることにした。


「そうか、なら

 ヒマリはどうやってこの世界に来たんだ?」


「女神様が現れて…それから…気を失って…

 目が覚めたら…この世界に…」


そう言ってヒマリは表情を隠すように両手で顔を覆い身体が小刻みに揺れる。

それから少し間を置いて話始める。


「お兄ちゃん…ごめんなさい…

 前の世界の事は今は…考えたくないです…」


これ以上は聞かない方がいい雰囲気だったが俺はもう一つだけ聞いてみることにした。


「ごめんな、もう一つだけ。

 エイレネの事で何か忘れてる事はないか? 」


「忘れてる事…ですか…? 」


「あぁ、何か大事な事? とか? 」


俺は主語のない言葉で自信無さげにそう聞くと、ヒマリはしばらく考えた素振りを見せた後にないですとハッキリ答えた。


「そうか…ありがとうな。

 この話はもう終わりにしよう!」


「いぇ…お役に立てず…ごめんなさぃ…」


「そんな事ないよ、ありがとう。」


俺はもう一度ヒマリの頭を優しく撫でる。

少しすると、ヒマリは落ち着きを取り戻して顔を少し上げて、ありがとうございますと言った。


しばらく沈黙が続いていたが、しばらく眠っていたせいか、俺の腹の虫が鳴り沈黙を破った。


「あはは…腹が減ってるみたいだし

 食堂にでも行ってくるよ! 」


俺は少しの気恥ずかしさを誤魔化すように怠い身体を持ち上げる。


「わ、私もまだなのでっ! 一緒に行きますっ! 」


「ん? じゃあ一緒に行こうか」


そうして、俺たちは医務室を出て食堂に向かう事にした、ヒマリは先程までの暗い感じは無くいつものヒマリに戻っていた。


食堂に辿り着くとリンコが食事を取ろうとしている所だった、リンコは俺とヒマリに気付くや否や罰が悪そうな態度でこちらへ向かってくる。


俺は横に目をやると、ヒマリはリンコをジッと睨みつけていた、リンコが俺の前まで来るとふぅと一息ついて腰を90度に曲げる。


「ごめんなさいっ!」


「あ、あぁ…」


俺は勢いのある謝罪に呆気に取られて気の無い返事を返す。


「はい! 私もう謝ったからね! 」


「リンコさんッ! あなたって人はっ! 」


リンコがサッと頭を上げて意地を張りながらそう言うとヒマリが普段のイメージからは想像も出来ない顔でリンコを睨みつける。


リンコは身体をビクつかせて、凄い勢いでもう一度腰を90度に曲げ直した。


「つ、次はちゃんと言うこと聞きます!

 ごめんなさいっ!!」


「あ、あぁ…そうだな…これからはもう少し

 協調性を持って行動してくれ、な?」


「う、うんっ!!」


かなりぎこちなかったが、リンコなりにちゃんと反省してるのだろう、俺はこの間の事は水に流す事にした。


「リンコさん…次はないですからね…」


「は、はい…姉さん…」


「ひ、ヒマリさん? 」


俺が寝ていた短期間でこの二人の間に何があったのだろうか?

俺は明らかな上下関係が目の前で展開されている事に驚きを隠せずにいた。


「おぉお! アユム! やっと起きたかっ! 」


後ろの方から声が聞こえたので、振り返るとレイジとザハールがいた、ザハールも親指を俺に向けて立てていた。


「レイジさん!

 やっとって言ってましたけど俺どれくらい

 寝てたんですか? 」


「ん?今日でほとんど1週間ってとこだな。

 その間のヒマリときたら、もう…」


そう言ってレイジが横目でリンコを見てニヤリと笑っていた。


「う、うるさいっ!レイジ!

 あんたは黙ってなさいっ!」


ヒマリはリンコをジッと見ると、リンコはわざとらしく顔を逸らした。

ここまで来ると子供みたいで可愛いなこいつ。


「そうだ!お前ら飯はもう食ったんか?」


「いえ、俺たちも今から食べる所です!」


俺がそう言うと、リンコも私も今から食べる所と気恥ずかしそうに言い、久しぶりに全員で食事を取る事となった。



「ほういえば、アユム…んぐ。

 お前が寝てる間にな、村の奪還作戦が決まった

 んだよ。」


レイジはいつもの様に食べながら話を始める。


「そうなんですね、どんな感じですか? 」


「部隊をいくつか組んで、全方位から村を

 墜としに行くんだとよ、ベンツさんから聞いた

 限りでは配置やなんやは明後日には確定する

 感じで、予定通り事が進めば7日後、前哨基地に

 集まって、攻め落としに行くらしいぞ。」


「7日後ですか…」


「あぁ、予定通り行けばだがな。」


レイジがつまらなそうにその事について共有してくれる、少し間を開けてレイジは話題を変える。


「それより、ここ最近の

 ヒマリちゃんの話でもするか?」


「やめてっ!」


レイジがそう言うと、リンコがすかさず止めに入った、当のヒマリは恥ずかしそうに顔を赤くして目を伏せている。


リンコの静止を無視してあれから、ここ1週間のヒマリの様子や訓練内容をレイジが楽しそうに話し始めた。


どうやら俺が眠っている間、リンコはヒマリに淡々と説教され続けていたらしい。


ヒマリの説教は怒気を絡める事も無く延々とリンコに自身の悪かった所を答えさせ、その結果どうなったかを呪文の様に何度も何度も唱えさせるものだったとか。


その結果レイジが俺を背負って帰ってきた日は悪びれも無くケロリとしていたリンコが翌日にはレイジに深く頭を下げ謝罪する程にまでなっていたとか。


それからこの1週間で俺を抜いた勇者メンバーの平均レベルは40近くまでになっていたらしかった。


後は他愛ない話を繰り広げて、全員が食事を終えたあたりで俺は自室へと戻った。


自室へと戻った俺は気になったので、自分のステータスを確かめる。



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〈サトウ・アユム〉

種族: 〈人間族〉

職業:〈賢者〉

Lv:28

マナ:383

攻撃:121

防御:131

魔力:283

俊敏:153


武器: 水精の杖セイレーンロッド=マナ消費10%削減・魔力+45


称号:

〈異界の勇者〉〈巨漢殺し《トロルキラー》〉

特性:

〈状態異常無効LV2〉〈即死無効LVMAX〉

〈杖技LV2〉〈火の加護LV2〉〈水の加護LV3〉

〈風の加護LV3〉〈光の加護LV1〉

〈闇の加護LV1〉〈詠唱破棄LV3〉

〈アストラ語LV6〉

スキル:

火弾ファイアバレット〉〈火柱ファイアピラー〉〈水弾ウォーターバレット〉〈魔法剣マジックソード〉〈魔法盾マジックシールド

風弾ウィンドバレット〉〈探索サーチ〉〈漂風ドリフトウィンド

〈ケア〉〈グラビティ〉〈アナライズ〉〈魔力増加〉《マジックブースト》


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レベルが一気に上がっているのはトロルとの戦闘のおかげだろう、ステータスが以前に比べたら大きく上がっていた。


新しいスキルもいくつか増えている事に俺は若干の喜びを感じながら床に着いた。

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