第15話 エイレネ


リンコがトロルの首を刎ねた後、俺は魔法盾に魔力を全力で使い、その上壁に打ち付けられて意識を失った。


そして目を開けると俺はまた、暗闇の中に居た。

前回と同じ様に身体を確かめると俺はやはり子供の身体だった。


「また、ここか…」


俺はいつものように一人で呟く。

前回と同じように暗闇の先から声が聞こえるので俺はその声を追って暗闇の中を歩いて行くと。


また、ぼんやりと目の前に何かが浮かぶ。

この間と同じ様に俺の面影がある男の子と優しそうな女の子が一緒に居た。


そして俺はその光景を懐かしく感じていた理由がわかった、これは俺の記憶の一部なのだろう。


つまり、俺に似た男の子は子供の頃の俺。

そして、その横に居る女の子はマリ。

その二つだけ思い出す。


…マリ…そうだ…俺の妹だ…。


だが、幾ら他の事を思い出そうとしてもその二つ以外は何も思い出せず、さっきまで懐かしく感じていた光景が俺の目にはただただ不愉快な光景へとなって行く。


他には?俺の本当の出身地は?俺の住んでいた場所は?俺は今まで何をしていた?俺は…誰だ?


…考えれば考える程、言い様のない不快感と不安が俺を襲った。


それに拍車を掛ける様に目の前では俺とマリが一緒に路地の様な場所で笑い合っている光景が壊れたラジオの様に延々とループされている。


俺はその場にいるのが嫌になり、その場から逃げる様に反対へと走って行くと脳内に直接響く女性の様な歪な声が聞こえる。


『アナタハダレ…?』


「誰だ…?」


『フウンナコ…』


「誰だ?何処にいる?」


歪な女性の声が俺に語りかけてくる。正直少し不気味で気持ち悪かったが俺は気に留めず何もない暗闇に視線を向ける。


『フウンナコヨ…

 ワスレモノハ…?』


「忘れ物…?」


俺はその声を聞くと妙な不安と焦燥感に駆られる。


『アナタハダレ…?

 ユウシャサマ…?

 ソレトモドチラサマ…?』


「お前こそ誰だ…?」


俺は質問に答えず問いかける。


『ナニモノカ…?カミ…?アクマ…?

 ワタシノナハ…エイレネ…アナタヲココニ…

 ツレテキタ…』


「エイレネ…?お前が俺をここに…?」


神?悪魔?何を言いたいのかが全く分からない。

こいつはどうやらエイレネと言うらしい。


『アナタモイッショ…ワスレテル…

 マタ…エリスノセイ…トテモフウンナコ…』


「エリス…?」


『ソウ…イカイノモノ…

 キオクヲケサレタ…ダイジナブブンダケ…』


「大事な部分?俺は何も覚えてないぞ。」


俺はエイレネの話す言葉に全く付いていけず、戸惑う。


『トテモフウンナコ…

 アナタダケハスベテヲワスレタ…

 ワタシノコトモ…ソレイガイモ…』


こいつの言う通りだ、俺は記憶がないのだから。


「あぁ、お前の言う通りだよ。

 俺は何も覚えていない、だから教えてくれ

 俺が忘れている事、全てを。」


『ソレハデキナイ…コレガ…ゲンカイ』


「なんでだよ…?」


『ワタシハアナタノスベテヲシッテイル…

 デモ…アナタハアナタヲシラナイ…』


「じゃあ俺は…誰なんだ…?」


『ジカンガナイ…オモイダシテ…

 アナタハアナタ…ナノダカ…ラ…』


「俺は俺?どう言う事だよ。」


俺は暗闇に問いかけたが返事はなかった。


次第に光が差し込み、目を開けると見慣れた医務室の天井だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る