第13話 洞窟トロル①


この世界に来てから、早くも2週間が過ぎた。

最初の頃に比べたら皆すっかりこの世界に慣れてきていた。


それと最近レント村を拠点にしている魔族の侵攻が活発になっている為、各隊長たちがその対応に追われていた。


なので俺たちはいくつかのルールの元各自で訓練を行う事となっていた。

ザハールとヒマリは各々やりたい事があるらしく別々に王城を出て行った。

それから残った俺はリンコとレイジに声を掛けてルタ洞窟4階層目まで来ている。


「んー、どいつもこいつも弱っちいわね…」


リンコがつまらなそうにそう呟く。


「まあ、良いじゃねえか!

 それだけ俺たちが強いってこった!」


レイジが明るくリンコにそう返す。


「違うのよ、私はもっとこう!

 ドラゴンとか、ベヒモスみたいなでっかい魔物

 をババーンっと倒したいのっ!」


「んなこと言ったって、そんな魔物急に出てきた

 らお前ビビって漏らすんじゃね?」


「うるさいっ!盾しか使えないくせにっ!」


レイジとリンコが言い争いを始めそうだったので、俺は二人の間に割って入る。


「はいはい、二人とも落ち着いて。

 ささっとこの階層の敵片付けて、王城に戻りま

 しょう。」


俺たちは、各隊長たちに安全に訓練する為ルタの森は中層までルタ洞窟は4階層目までと言われていた。


「えー!この程度の敵じゃ

 私達一生強くなれないじゃない!

 今日は5階層まで潜りましょう!」


「ダメだ5階層からは一気に魔物が強くなる上に

 トラップが仕掛けられているから危険だって、言われ

 てただろ?」


「大丈夫よ!勇者が3人も居るのよ?

 多少強いって言ったって、絶対大したことない

 わ!トラップだって交わせば良いじゃない!」


俺はもう一度その提案を断る、レイジもそれに同意する。


「もう!男二人して臆病者なんだから!」


リンコがブスッと膨れながらそう言うが、俺たちは適当に返事して洞窟を進んでいく。


5階層手前の部屋にたどり着くと、スケルトンが5体ほど群れていた。

レイジが前衛を張り、リンコが自由に敵を攻撃する、俺は後衛で魔法を当てる。


そうして難なく5体のスケルトンは動かなくなった。


「やっぱり、こんな低級の魔物じゃ

 一生強くなれないわ!先進みましょう!」


そう言ってリンコが5階層目へ繋がる階段を降りて行く。


「おいリンコ!待てって!」


レイジが静止するがリンコは鼻歌を歌いながら無視して進んでいく。


「あんの…じゃじゃ馬娘っ!

 アユムすまねえ、先に進むぞ!」


「はい、レイジさん…」


俺は半ば呆れながらレイジとリンコを追いかける。

5階層に辿り着くと同時に俺は探索を使う。


「あれ?二人とも来たの?

 ここから先は危険なんだし先に

 帰ってもよかったのよ?」


リンコが白々しく俺たちにそう言った。


「リンコ…お前なぁ…」


「なによ、レイジ?」


「あーもう、わかったよ。

 ちょっと探索したら帰るぞ」


レイジは諦めて渋々承諾し俺達は5階層を探索する事となった。


しばらく進んでいくと俺は近くで大きな魔力塊を一つ見つけた。


「二人とも、止まって。

 近くに多分強い魔物が一体います!」


「了解、アユムどっち側だ?」


「左側の通路の先です。

 とりあえず一旦、右に逸れましょう!」


俺がレイジにそう伝えるとリンコが目を輝かせて左に走り出す。


「よっしゃあ!いただきーっ!!」


「おい馬鹿っ待て!!」


「あっ…レイジさん…すいません…」


俺は頭を抱えて謝る、敵の位置を伝えたら今の

リンコが飛び出す事ぐらい容易に想像出来た事だったからだ。


仕方ないので俺達はリンコが向かった先を追いかける。

辿り着く前にリンコが敵と接敵したのだろう。

ガキンッと鉄がぶつかり合う音が聞こえてくる。


「あら、結構強そうじゃない!」


「ゴフゥゥゥ…」


リンコの元へ行くと目の前には2メートル程の巨漢が大きな剣をぶら下げていた。


「なんだ、ありゃ…」


レイジが驚いていると目の前の巨漢が、物凄い速度でリンコへ剣を振り下ろす。

激しい金属音と共にリンコはそれを受け止める。


「ングゥゥッ…!」


敵の力が思った以上に強くリンコは徐々に押されて行く。


「行くぞ!アユム!」


「はい!」


俺とレイジは互いに目を合わせて戦闘態勢を取る。


水弾ウォーターバレット!」


「おらぁっ!」


俺が巨漢に魔法を打ち込む。

同時にレイジがリンコの元へ駆ける。


リンコと競り合いをしている巨漢に向けてレイジが飛び込んで行った。

敵はそれに気づきリンコを蹴り飛ばし、俺が放った水弾を交わす。


「キャッ!」


リンコは咄嗟に剣を盾にし蹴りを受けるが軽々と後ろへと吹き飛んでいく。

その隙を付いてレイジが盾で敵を攻撃する。


「シールドバッシュッ!」


しかし巨漢は即座に態勢を立て直して、レイジの盾を往なす。


「グッ…!」


水弾ウォーターバレット!」


レイジは少し態勢を崩すがしっかりと盾で攻撃を受け止めると同時に俺がもう一度放った水弾が敵の側頭部に直撃する。

同時に俺はアナライズを使う。


「ゴファアアッ!!」


「アナライズッ!」


----------------------------

〈洞窟トロル〉

Lv:57

マナ:96

攻撃:268

防御:234

魔力:56

俊敏:102


称号:

〈殺戮者〉


特性:

〈雑食〉〈鼓舞〉

〈物理耐性LV1〉〈魔法耐性LV1〉

〈剣技LV2〉〈体術LV2〉〈再生LV1〉

スキル:

〈瞬間加速〉〈咆哮〉


----------------------------


俺はアナライズを通して敵の情報を見る。

なんだこのステータスは…今までの敵と違いすぎる。


「ゴフゥゥゥ…」


トロルは側頭部から血と煙を上げ俺に睨みを利かす。


「あークッソ…痛いじゃない…!」


それと同時に先ほど吹き飛ばされていたリンコは起き上がって態勢を整えてトロルを睨みつける。

この世界に来て初めてまともに攻撃を喰らったのか、リンコは少し震えている。


そして、敵の情報を得て危険と判断した俺は二人に提案する。


「二人とも!そいつは今までの敵なんて比べもの

 にならない程にステータスが高いです!

 流石に危険すぎます!隙を見て撤退しましょ

 う!」


俺の言葉にレイジは同意する、リンコも流石に分が悪いと悟ったのか、悔しそうに同意してくれた。


「ゴファアアッ!」


撤退が決まったところで、トロルが声を上げ俺に飛び込もうとしてくる。


「挑発!!」


すかさずレイジがスキルを放つ。

トロルは標的を切り替え、レイジに重い一撃を放つ。

レイジはそれを大盾で受け止める。


「くっそ…良いパンチ持ってやがるぜ…」


「剣技ー疾風はやて斬り!」


「ゴファッ!」


レイジへ攻撃しているトロルの隙を突いてリンコが浅い一撃を入れる。

トロルは、レイジに打ち付けている剣と反対の手を使ってリンコを跳ね飛ばす。


「アゥッ!」


バンッとリンコが壁に打ちつけられると同時にカチッと音がした。

その音を合図に俺たちのいる部屋の通路が一瞬のうちに壁で塞がれた。


「くそ、トラップか!」


俺とレイジは退路が断たれた事に気付く。


「はは…やべえ…俺漏らすかも…」


「うるさいっ!」


レイジが冗談めかしくそう言うと、起き上がったリンコが泣きそうな顔で赤面していた。


それにしても状況が不味い、どうしたものか…

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る