第12話 聖女② side:ヒマリ


王城の訓練場へと戻ると、レイシスが急ぎ足で外套を一つ持って来てくれた。


私は部屋の隅へ行きそそくさとそれを羽織る。

ここに戻るまでずっと布を掴んでいた手が解放されて、私はすっきりとした気持ちになった。


「レイシスさんっ!ありがとうございますっ!」


「あぁ…聖女様…」


そう言って、レイシスは祈りを捧げて来た。

本当にこの人が、王国騎士の総隊長で大丈夫なんだろうか?


私はその様子に、とてもひどい事を考えてしまった。


「レイシス総隊長!

 戻られておりましたか!!」


ドタドタと、騎士の一人がこちらへ走ってくる。


「あら?騎士殿どうされましたか?」


レイシスは私に祈りを捧げながら、目を開き横目を騎士へ向けて答える。


「はっ!本日前哨基地へ魔族が使役する魔物が

 数体攻め込んで来たとの報告がありました!」


「…それは確かですか?

 予想より、かなり早いですね…」


レイシスは祈りを解き、騎士へと向き直る。


「はい、情報によりますと旧レント村の方から

 大きな魔力塊が一つ観測された数日後に

 魔物が攻め入って来たとのことです。」


「そうですか…」


レイシスは胸の辺りで手をゆっくりと合わせて答える。


「詳細は夜を告げる鐘を合図に本日、作戦会議室

 の方でお話させて頂く運びとなっております。

 レイシス隊長の方でも各部総隊長、部隊長殿

 へ、言伝をお願い致します。」


「わかりました…

 ありがとうございます騎士殿。」


レイシスの言葉を聞いて騎士は綺麗な敬礼をしてこの場を離れた。


「また…沢山の命が散る事になるのですね…」


騎士が出ていくのを見守りながら、レイシスは周囲に聞こえない程度の声量でボソリとそう呟いていた。


「聖女様…申し訳ありません。

 今日の訓練はここまでと致しましょう。」


「わかりました、レイシスさん。

 今日もありがとうございます…」


レイシスは、騎士の話を聞いてからはとても悲しげな目をしていた私はその目に呑まれ不安な気持ちに包まれる。


「聖女様、ご安心ください。

 まだ力無き勇者様達は、王国が命を掛けても

 お守り致しますので。」


「……。」


「勇者様達は我々の希望ですから。」


「……ありがとうございます。」


「聖女様、名残惜しいですが。

 私は行かねばならない所がありますので。

 ここで、御暇させて頂きます。」


そう言ってレイシスは、私にとても穏やかな笑顔を向けてこの場を一人後にした。


私は何も言えなかった。

何を言ったら良いのかもわからなかった。

レイシスの言葉がこの数日間気持ちが浮いていた私に響く。


勇者は強い。皆が口を揃えてそう言う。

確かに私達のステータスや能力はこの世界の基準で考えると、とても強い部類だろう。


それでも今の私達は王国の中級兵士とあまり変わらない程度のステータスなのだ。


私は自身のステータスを見る。


----------------------------

〈ヒマリ〉 

種族: 〈人間族〉

職業:〈聖女〉

Lv:7

マナ:237

攻撃:61

防御:73

魔力:160

俊敏:138


武器:王国騎士のタリスマン マナ+30


称号:

〈異界の勇者〉

特性:

〈状態異常無効LV1〉〈即死無効LVMAX〉

〈風の加護LV1〉〈光の加護LV2〉

〈癒しの加護LV2〉〈アストラ語LV5〉

スキル:

〈風弾〉〈ケア〉〈マジックアップ〉〈憩の空間〉〈憩の風〉


----------------------------


「…。」


私は決して強くない。

聖女と称えられ羨望の眼差しを向けられようとこの戦争では守る側ではなく所詮は守られる側の人間なのだ。


医務室で見た傷だらけの兵士達が、頭に浮かぶ。


もし、前哨基地が墜とされたら…?

もし王国騎士が負けて、王国に魔族が攻め入って来たら…?


「おにーちゃん…」


私は大切な人を守る為に強くなりたい、そう思い

訓練場の案山子に目を向けた。


私が守る、そう心に決めて。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る