第8話 アナライズ
あれから俺は自室に入り、ベッドの上で横になっていた。
王城の一室なだけあって、置いてある物はそこそこ値が張りそうな物ばかりだった。
「お兄ちゃんかぁ…」
俺はヒマリのその言葉を思い出して温かい気持ちに包まれながら、充足感と共に眠りに落ちた。
夜が明けて、俺の部屋へと日差しが入り込む
眩しい日差しが差し込み、俺は自然と目が覚めた。
寝ぼけた眼で俺は自室にある
洗面所に向かい顔を洗う、そうしていると身体から汗の匂いがする事に気付き不快感を覚えたので
エレノアから貰った地図に書いてあった浴場の事を思い出しそこへと足を運ぶことにした。
自室から出て王城の廊下を通っていると、朝からせっせと掃除をしている使用人たちが、俺を見かけると気持ち良く挨拶してくれる。
俺は挨拶を返しつつ浴場へと向かった。
そうして、浴場に着いた俺は男性側の方の暖簾を潜り、脱衣所で早速服を脱いで身体を流しに中へと向かう。
中に入ると、そこは広々とした大浴場だった。
時間が早いせいか、俺以外の人は誰も居なかった。大浴場の一番奥にある広い浴槽を覗く、浴槽の中は一定の間隔で魔法陣が描かれており、薄く光を放っていた。
シャワーなどが無いため、俺は浴槽の側に置いてある木桶を取り、お湯を汲み上げ頭から数回被った後、浴槽に浸かった。
チャポッとお湯が跳ねる音に俺は癒されながら肩まで入り込む。
丁度いい温度のお湯が身体の芯まで澄み渡り、俺はしばらくの間幸せな気分に浸っていた。
そうして、汗を流した後、脱衣所で衣服を着直して浴場から出ると、丁度俺の横側にある暖簾から女性が出てきた。
「お、お兄ちゃん…!?」
ヒマリは俺を見るや否や、少し固まった後、顔を赤らめながら俯いて両手をパタパタと振っていた。
まだ髪が乾き切っていないので今上がったところだったのだろう。
それと前から気になっていたのだが、ヒマリは何故か俺に対して過剰に反応する事が多いのだ。
その反応に慣れていない俺はついヒマリに釣られるように辿々しく挨拶を返してしまう。
「ヒ、ヒマリさん…おはようございます…」
「ひ、ヒマリでいいです……ょ…
あとその…敬語も…だいじょ…ので…」
いつも以上に聞き取りにくかったが、言いたい事は何となく分かったので改めておはようと言うと。
ヒマリは改めておはようございますと一礼した後、その場を後にした。
それから、食堂に行き朝食を取った後、俺は自分の部屋へと戻り訓練所に集まる予定の時間まで自分のステータスを確認しながら昨日の様にまだ使った事の無い魔法を頭でイメージして時間を潰していた。
そうこうしていると、王城から朝を告げる鐘が鳴ったので、俺は訓練場へと向かい始めた。
昨日ガノンに聞いた話によると基本的に王城では1日に王国全体に響く鐘が三回なる、1回目は朝を告げる鐘2回目は昼を告げる鐘で3回目は夕方頃に夜を告げる鐘がなるのだ。
俺たち異界の勇者達は朝を告げる鐘を合図に訓練場へ向かう運びとなっている。
そうして訓練場に着くとエレノアがこちらに気付いて手を振っていた。
次第に他の勇者達も集まり、各指導員の元へと各々向かっていた。
「エレノアさん、おはようございます!」
俺はエレノアに挨拶をして、今日の予定についての話を聞いていく。
そして今日も昨日に引き続き、ルタの森表層での戦闘訓練を行う事に決まった。
「あっそうだ!
その前に王国の研究室に寄って行くから、アユム
君も一緒に付いてきて!」
俺はエレノアに同意を示して、訓練場から出る
そして王国の研究所へと向かって行く。
王城から出て離れの方へ向かい、暫く歩いていると
大きな倉庫のような、建物が見えて来る。
俺たちはその建物の前までつくとエレノアが扉を3回ノックした。
しばらく待っていると中から扉が開き1人の白いローブを羽織った30代くらいの眠たげな顔をした女性が出てきた。
「おはようございます、エレノア隊長殿。
本日はどうされましたかな?」
「おはよう、クレア所長。
以前から、言っていたマナを回復させる
薬の件なのだけれど、順調そうかしら?」
「あぁ…マジックポッドの件ですね。
丁度先日試作品が幾つか出来た所ですよ。」
クレアはエレノアにそう伝えると、こちらへと一言行って研究所へと入って行く。
俺とエレノアもそれに続いて研究所へ入る。
研究所の中にはクレア以外に同じような白いローブを羽織った人が20人ほど居る、様々な薬品の匂いや所々でカラフルな煙が上がっているのが見える。
研究所の中を進みながらクレアは俺に喋り始める。
「おや…そう言えば君は見ない顔だね?
エレノア隊長殿とご一緒されてるあたり
昨日こちらへ来られた勇者殿かな?」
「はい、異界から来た賢者のアユムといいます。
よろしくお願いします。」
「ほぉ…賢者とはまた珍しい…
こちらこそ、よろしく頼むよ。」
クレアはそう言いながら顎に手を当てて何かを考えてるような素振りで歩いて行く。
しばらく歩いていると、研究所の一室の中へと案内される、俺とエレノアは中央の席に座るよう誘導され、少し待つように促された。
待っているとクレアが青紫の液体が入った小瓶を2つほど片手に持ってきて、その小瓶を俺たちの前にコトン、と置く。
「これが、そのマジックポッドです。
この中身を摂取する事で、瞬時にマナを
一定量回復できるはずですが…
まだ、試作段階でどの程度の効果があるのか
現状分かっておりません…それに飲めるかど
かも不明ですが…」
「へぇー!これが…
その様子だと全然実用段階には
至ってなさそうね…」
それに、これが飲み物なのね…とエレノアは少しガッカリとしながらまじまじと青紫の液体を眺めていた。
少し間を置いてクレアが俺に質問してくる。
「ところで、アユム殿…
君は賢者と言っていたが、もしやアナライズと
言う魔法が使えたりしないかい?」
クレアにそう言われて俺は使える事を伝えると、クレアはやはり…と顎に手当てながら満足そうに俺を見ていた。
「では、アユム殿一つ頼みがあるのだが。
このマジックポッドをアナライズで見てくれな
いかい?」
「わかりました、では…」
俺は頭でアナライズの魔法をイメージする。
杖を顔の手前あたりに翳し、机の上に置いてあるマジックポッドへ向けて魔法を唱える。
「アナライズ!」
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名称: マジックポッド(制作品)
品質: F
鮮度: A 効果+120%
効果: 摂取した者のマナを瞬時に30回復する。
解説: 1時間以内に2本以上摂取すると、
10分間の間身体が麻痺状態に陥る。
1日に5本以上摂取すると、
死に至る場合がある。
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アナライズを使うと俺の頭の中にマジックポッドの詳細が浮かび上がってきた。
俺はその情報をクレアとエレノアに伝える。
「なるほど、一応使える程度の仕上がりには
なっているのだな、しかし効果の割に
副作用が大きく感じるな…」
「そうかしら?
戦闘時にマナ切れの状態で戦闘すること自体
かなり追い込まれている状況なわけだし。
副作用を気にするよりマジックポッドを消費し
てマナを回復できる事のほうが圧倒的に大切だ
と思うわ。」
「確かに、そうですね。
ありがとうございます、エレノア隊長殿。
マナ切れの危険性は分かっているつもりでした
が、私が戦闘員ではない事もあってつい性能の
方に目が言ってしまいました。」
そう言いながらもクレアは性能に満足していないのだろう、顎に手を当てて少し悔しそうに液体を眺めている。
「クレア所長、このマジックポッドだけど
これから量産出来ないかしら?
これさえあれば、レント村の奪還作戦の時の
兵士や騎士達の生存率が飛躍的にあがると思う
の、なるべく多く作ってもらえるととても
ありがたいのだけれど…」
「えぇ、このマジックポッドのレシピなら
既に出来上がってますので、10日もあれば
100個は作れるかと思います。」
クレアがそう言うとエレノアは頭を下げてお願いしますと一礼した、クレアはお任せ下さいと一言伝えて俺とエレノアに一本ずつマジックポッドを手渡してくれる。
そして俺たちは、ルタの森へ向かうべく研究所の出口まで来ていた。
「アユム殿、本当にありがとう。
私達では詳しい性能の解析をするのに
もっと時間がかかるし、犠牲が出る可能性も
あった、でも君のアナライズのおかげで
現状でも使える物だと知れたし
課題点も見つかったんだ、本当に感謝する
よ。」
そう言ってクレアは俺達を見送ってくれた。
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