第7話 マナ切れ

森で倒れてから暫くして俺は目を覚ます。

目を開けると視界に天井が映っていた。


俺は身体を起こして辺りを見渡す。

どうやら、俺はしばらくの間ベッドの上に寝かされていた様だった。


「やっと、起きた!

 ごめんね、魔法剣の使い方ちゃんと説明したら

 良かったよね…」


エレノアは申し訳なさそうに胸の辺りで手を合わせながらそう言った。

俺その意味が良く分からず、戸惑っていると

それに気付いたエレノアが説明をしてくれる。


「アユム君が倒れたのは、マナ切れが原因よ!

 言い忘れていたのだけれど私達人間族は

 最大マナ以上のマナを使うと意識が

 飛んじゃうのよね…」


「なるほど、そういう事だったんですね。

 風狼を切った辺りから意識が朧げで…」


「そうだったのね…

 でも、良かったわ…あのままマナ切れの状態で

 無視してマナを使い続けると

 身体の内部から徐々に破壊されちゃうのよね

 もし、あの一撃で終わってなかったら

 色々と危なかったわね…」


エレノアはわざとらしくふぅと腕を額に当てていた、その様子に俺は苦笑いしてると、エレノアがまたわざとらしくてへっとしていた。


それから、エレノアはマナ切れについて俺にもう少し詳しく教えてくれた、例え戦闘中にマナ切れを起こしても、個人の戦う意志さえあれば、マナを使い続けれるのだそうだ。


ただし、マナの代わりに生命力を使って魔法やスキルを維持してしまうらしい。


「もちろんマナも生命力も時間をおけば

 回復するから、もしマナが少なくなったら早めに

 撤退するのよ。これはこの世界の基本だから覚え

 ておいてね!」


「わかりました、ありがとうございます。」


俺が同意を示すと、エレノアはよろしいと言って

椅子から立ち上がった。


「よし、じゃあ今日の訓練は終わり!

 もう動けると思うけれども、念のため暫く

 医務室で休んでてね、それで落ち着いたら自室に

 戻っていいからね」


そうして、エレノアは俺に自室までの地図を一枚手渡してまた明日ねと告げ大きく伸びをしながら自分の業務に戻って行った。


エレノアを見送った俺は特にする事も思い付かなかったので、目を閉じてもう暫く横になる事にした。




目を開けると俺は、暗闇の中に居た。


暗闇の中でふと、どこか懐かしい声が聞こえる。

俺はその声が気になり声の聞こえる方へ向かう。


歩き始めると俺の手が視界に入り少し違和感を

覚えた、立ち止まって手を見ると子供のように小さい掌が二つあることに気付く。


俺は自分の身体を確かめる様に全身を触ると。

俺の身体が子供の形を取っているのがわかった。


「なんだ、これ…」


俺は一人そう呟いて、声の方へ再び歩き始めた。

しばらく進むと、声は聞こえなくなり。

ぼんやりと目の前に何かが浮かぶ。


そこには俺の面影がある男の子と優しそうな女の子が笑顔で手を繋いで遊んでいる様子に見えた。


「ま、り…?」


俺が無意識にそう呟いたところで映像が切れる。


目を開けると、先ほどと同じ医務室だった。

色々なことがあった一日だったからだろうか、疲れて夢でも見ていたんだろうな。


俺はベッドから起き上がり、エレノアから貰った地図を頼りに王国から用意された自室へと戻る事にした。


医務室から出ると、外の景色が目に入る。

すでに外はもう暗くなっていた。

自室へと向かうため、しばらく廊下を歩いていると、ふんわりとした茶髪の見知った顔が映る。


「お、お疲れ様です。ア、アユムさん!」


かなり緊張した様子でヒマリが挨拶して来る。


「ヒマリさんこそお疲れ様です。

 訓練どうでしたか?」


「く、訓練ですね…!そうですね…た、

 たくさんの人の治療を手伝ったり…

 それと、レイシスさんと魔物を何体か討伐

 させて頂いたり…」


ヒマリは少し顔を赤らめながら辿々しく俺にそう告げる。後半は少し聞きづらかったが、それなりに大変だったのだろう。


それからは治療がどうだったかとか

どんな魔物を倒したのかとか、今日あった訓練の事をお互いに話し合いながら自室の方へと向かっていた、途中でお腹が空いていたのか俺の腹が盛大に鳴る。


「あ、あ、あの…良かったら食堂に

 行きませんか…?レイシスさんも

 お腹が空いたら、食堂に行くと良いって

 言ってくれてましたし…」


「そうですね、じゃあ一緒に行きましょうか」


エレノアはそんな事言って無かったななんて思いながら俺は同意を示すとヒマリは嬉しそうに首を縦に振っていた。


そして食堂に着くと、また見知った顔が見えてきた。赤髪の男が俺達に気付き、こちらに向けて手を振っていた。


「お”う!アユムど、ヒマリお”疲れ様!」


「ちょっとレイジさん!食べ物詰めて大声で喋ら

 ないで!」


汚いのよ、と同じく食べながら注意するリンコにお前もじゃねーかとレイジが返していた。

静かに食事をしながらザハールもそのやり取りを見てフッと軽く笑っていた。


「アユムとヒマリは一緒に訓練してたんか?」


俺たちが一緒のいるのを見てレイジが質問して来る。


「いえ、ちょうど廊下でヒマリさんと

 合流したところでして。

 皆さんは一緒に訓練されてたんですか?」


「いや俺とリンコは途中からガッズさんが急務で

 抜ける事になってベンツさんと一緒に訓練場

 で戦闘訓練してたんよ、んでザハールは食堂で

 料理受け取ってる所だったからその流れで

 一緒に食べてるって感じだな」


「なるほどです、それじゃ俺達も

 ご一緒よろしいですか?」


そう告げるとレイジがそうだな、一緒に食おうぜと言いリンコとザハールも同じように同意してくれていた。


俺とヒマリは料理を受け取り、そのまま

レイジ達と今日の訓練の事について

話し合いながら食事を終えた。


その後は各々自室に戻る運びになったので

各自挨拶をして自室へ向かって行った。


俺とヒマリは自室が近かったので、途中までは一緒に戻る事にした。



ヒマリが自分の部屋の前で立ち止まって

何か思い立ったように俺の方に向き直る。


「あ、あの…ヒマリで良いですよ…」


「ん…?

 わかりました、では俺もアユムで良いですよ。」


少し間を開けてヒマリが喋る。


「あ、あの…お、おにーちゃんでは

 ダメですか…?」


「え…?」


俺はヒマリの不意の発言に戸惑っていると、ヒマリが間髪入れずにもう一度聞いてくる。


「ダメ、ですか…?」


「だ、大丈夫ですよ…」


俺がそういうとヒマリはへへっと笑って何も言わずにそそくさと自室へ入って行った。


俺は少し呆気に取られたが、再び自室へ戻る事にした。

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