第5話 はじめての実戦①

それから俺はエレノアの後ろについて行きながら

歩いていた、訓練場を後にした俺は長い廊下を通り正門まで着いた。


正門には門兵が立っておりエレノアに気づくとビシッと敬礼をしていた。

それをみてエレノアは軽く手をあげると、重々しい門がゆっくりと開き始める。


「お疲れ様です!エレノア魔導総隊長!

 失礼ですがそちらの方も先ほど

 総隊長と共に出て行った方たちと

 同じ様に勇者様なのでしょうか?」


「えぇ、そうよ。

 この方も異界から来てくださった勇者様よ」


エレノアがそう答えると、兵士たちは目をキラキラさせて、俺を見てくる。

俺は兵士たちの方へ向き一礼して自己紹介する事にした。


「初めまして、これからこの

 王国でお世話になる事になりました

 サトウアユムです。

 よろしくお願いします。」


「こ、こちらこそ、よろしくお願い致します!

 勇者様どうか、この国を救ってください!」


緊張した様子で俺に深く頭を下げる兵士たちに少し困ってしまったが。

頑張りますと一言添えて俺も深く頭を下げた、その様子を微笑ましそうにエレノアが見ていた。


「では、行ってらっしゃいませ!」


門が開ききったと共に、兵士たちが気持ちのいい挨拶を送ってくれる。

俺とエレノアはそれに答えて王城から出て行く。


王城から出てしばらくすると、色々な露店や住宅街が並ぶ場所へと出る。

町にいる人々は俺達に気付くと思い思いに会釈してくれた。


「えれのあさまー!いってらっしゃいー!!」


小さい男の子がこちらに向けて満面の笑みで手を振っていた。

エレノアはそれを見て笑顔で手を軽く振ると男の子は嬉しそうにしていた。


「エレノアさんは随分と、

 町の人に慕われてるんですね。」


「そうね、でも私だけじゃないわよ?

 ルタの王国騎士や兵士たちの仕事は

 国の治安や国民の安全を守る事だからね。

 王国の騎士も兵士も皆、同じ様に

 慕われているわ。」


「そうだったんですね、それにしても王国の危機

 だって聞いてたからもっと暗い雰囲気

 なのかな?なんて思ってましたけど、

 案外活気付いてて少し安心しました!」


「えぇ、そうね、本当に…」


エレノアは俺に同意を示してくれたが、その表情は先ほどとは打って変わって少し暗い表情に見えた。


良く周辺を見渡してみると恨めしい顔でこちらを見ている人がそれなりにいる事に気づいて俺はハッとした。


「エレノアさん、すみません。

 俺の今の言葉すごく不謹慎でしたよね…」


「いいのよ、優しいのね。

 だけど、今はアユム君が気にする事じゃないわ

 実際活気付いてるのも事実なんだから。」


「ありがとうございます、すみません…」


エレノアは気を利かしてくれたんだろうけど

俺はそれに対して何も言えなかった。

恐らくこちらを恨めしい顔で見ていた人達はきっと今も前線で戦っている人達の家族や、戦いで亡くなった人の家族達なんだろうな…


少し気まづい空気が流れていたが、門が見えて来たところでエレノアがその空気を壊してくれる。


「ほら!アユム君!

 あそこに見えるのが王国の正門よ!

 今から正門を抜けてバシバシ、実戦経験

 積んでいきましょう!」


「は、はい!エレノアさん!

 これからよろしくお願いします!」


そうして俺たちは門を抜け平原へと出て行く。


しばらく平原を歩いていると少し離れた位置に暗い緑色で人型の何かが3体ほど見えてくる。


「はい、止まって。

 アユム君、あそこにいるゴブリンが見える?」


「ゴブリンってあの

 暗い緑色の人型の奴ですか?」


「えぇ、あれは駆け出しの冒険者が最初に倒す

 低級の魔物の代表格よ。

 たいした事ないし今のアユム君でも余裕を持って

 勝てると思うわ。」


そう言ってエレノアは近くに落ちていた石粒をさっと拾い2度ほど掌で遊んでから可愛らしい掛け声と共にゴブリン目掛けて投影した。


「ウギャァッ!」


離れた場所に見えるゴブリン一体に命中した。

ゴブリンはエレノアを見つけると共に激昂した様子でこっちへ走ってくる。


「エ、エレノアさん!

 ゴブリンが物凄い勢いで走ってきてますけど

 俺はどうしたらいいんですか!?」


「んーそうねー

 私が後ろの二匹撃ち落とすから

 残りの一匹はアユム君お願いね。」


エレノアは少し茶目っ気のある表情で任せたよと

言って杖を翳し魔法を唱える、杖の先に二つの青色の魔法陣が浮かび上がる。


「水弾ッ!!」


呪文と共に二つの水弾がゴブリンへと射出され、あっという間に二匹のゴブリンの頭部が弾け飛ぶ。


「ほら、アユム君残り一匹頼んだよ!」


気付くと残った一匹がすぐ目の前まで来ていた。

ゴブリンは俺に向けて勢いよく棍棒を振り抜いた。


「ホギャァ…?」


しかし、俺はその遅すぎる棍棒を余裕を持って交わしてゴブリンに目掛けて杖を翳す。


「水弾ッ!」


俺の杖から射出されたそれはゴブリンを2、3メートルほど吹っ飛ばした。


「ギャァアア…!!」


上半身が抉れ呻きをあげながら、今にも死にそうにもがき込むゴブリンへと近づき俺は杖の先端をゴブリンへ深く突き刺す。


「ギ…ィ…」


なんとも言えない不快感を感じながら先端を抜くとエレノアが拍手をしながらこちらへ向かってくる。


「やるじゃないのアユム君、その様子だったら

 低級上位から中級下位くらいの魔物まで

 単独で狩れそうね!」


「勘弁してください、今のも一歩間違えたら

 棍棒で振り抜かれてましたよ!」


「大丈夫よ、アユム君のステータスだったら

 ゴブリンの攻撃なんて欠伸しながらでも

 避けれたでしょ?」


「まぁ、そうでしたけど…」


俺はゴブリンを殺した事にかなり罪悪感を感じていた、そのことを察した様でエレノアが俺の頭をポンと軽く叩いた。


「気負う事は無いわ。

 誰かがやらないと、誰かがやられるのよ。

 この世界はそう言う仕組みで出来てるのだ

 から。」


そう、ガノンから聞いた話によると、この世界の中級までの魔物は同族以外は必ず殺す様に出来ているのだ、理由なんてない。

ただそう言う風に出来ているだけらしい。


時には群れで、時には単体で…


だからエレノアの言った事は正しい。

誰かがやらないと、他の何処かで誰かがやられるのだ。

そう頭では分かっていても、まだこの世界にきて間もない俺が他者の命を奪う事に心が追いついていないだけなのだ。


「んーそうね…

 今日はここまでにして

 王国で魔法の訓練でもしよっか?」


エレノアは俺を気遣ってそう提案する。

だからこそ、俺は両の頬を強く叩いた。


「大丈夫です…

 このままお願いします!」


その様子にエレノアはただ、黙って俺を見守ってくれていた。

少し間を開けて、エレノアは切り出す。


「わかったわ。

 でも疲れたら言ってね、初日なんだし

 一刻を争うって言っても今日くらい

 大丈夫だからね。」


エレノアは優しい。

だからこそ、その優しさに甘えないと心に誓い

俺はグッと杖を握りしめた。

そうしてありがとうございますと一言エレノアに伝えた。


「じゃあ、そうね!

 ゴブリン程度じゃアユム君の成長に繋がらない

 だろうし、もう少し強い魔物を探しに

 行こっか!」


俺は相槌を打ち、エレノアと共に平原の奥へと進んでいくのだった。

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