一匹狼(2020/10/05)

クラスにずっと一人でいる女子生徒がいる。

名前は中瀬なかせ直子なおこ

クラスが変わっても誰ともつるむこともない。部活をやってもいなかった。

私はなんとなく機会がなく、中瀬と話すことはなかった。

しかし、今期のクラス委員会で私は委員長に選ばれ、中瀬がクラス委員会の副委員長になってしまった。


それが決まった際、中瀬は嫌という感情もなく、怒るというわけでもない。

静かな海のようにしていた。


先生に呼ばれ、中瀬と共に職員室に向かう。

中瀬は何もしゃべらない。私は中瀬に話しかける。


「中瀬さん宜しくね」

「……宜しく」

「中瀬さんは副委員長やるの初めてなよね?」

「そうです」


中瀬は淡々と返答をしてくる。感情が見えない。


「じゃあ、解らないことあったら気軽に聞いてね」

「はい」


私は何を話せばいいのか解らず、沈黙する。中瀬は私を見た。


「あの、別に気を遣わなくて大丈夫ですよ。喋らないといけない理由なんてないですから」

「……そう?」

「ええ。だって今から職員室に向かうだけだし」


私は何だか中瀬が冷めている気がした。

中瀬の言葉は正論だが、とっつきにくさを感じた。


「そうだね。ただ中瀬さんと上手くやっていくにはコミュニケーションも必要かなって思ってごめんね」

「謝ることはありません。すいません。私も話をするのが得意じゃないので、上手い返答が出来なくて。決して、話しかけてくれることが迷惑と感じていません」


どうやら中瀬は冷たいわけじゃなく、コミュニケーションが得意じゃないだけだ。


「そっか。中瀬さんの気持ちは解ったよ」

「有り難う」


中瀬は不器用な微笑みを向けた。

その表情はこれまで見たことないものだった。

中瀬自身が壁を作っているのではなく、単純にコミュニケーションが上手く出来ないだけだ。

それは少しだけ残念な気もした。誤解を受け易いからだ。


「そうだ。中瀬さん、今度、お昼ご飯一緒に食べない?」

「え?」

「皆で食べると美味しいよ!」


中瀬は驚きつつも、笑顔で応えた。


一匹狼(了)

題材 壁 文字数 803 製作時間 25:13

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