心変わり(2020/10/01)

人間の心は移ろいやすいものだ。

窓の景色を見て思った。

私は生物学を専攻している科学者だ。人類、哺乳類の生態を調べている。

私には長く付き合った末に結婚した妻がいた。

妻の名前は宮戸みやと理子りこ

理子は頭の良い女性で献身的に私を支えてくれた。

結婚から四年が経ったころだ。

移ろわないと思っていた理子の心は変わってしまった。

きっかけは些細なことだと思う。

私は研究バカとばかり、しばし言われるほ

どの性質を持っている。だからこそ、部屋や研究室にこもることも多々あった。

理子が病に犯された。うつ病だ。何もする気も起きなく、何もできなくなった。

私はそれを理解せずに攻め立ててしまい、決定的な亀裂きれつになった。

極めつけは私が理子に何気なく言った言葉も原因だろう。



「人類の恋愛に置いての持続は四年で、四年経つと別れるカップルが多いらしい」

「そ、そう。でも、私たちはまだ続いているよね」


私は何気なく言い、理子の表情が強ばったのを覚えている。

それから理子とは全く会話をせず、私の身の回りを淡々とするだけだった。


理子は仕切りにスマートフォンで誰かとやり取りしているのを目撃した。

私は身の回りをやってもらっている反面、何も問い詰められなかった。


ある日、理子はかしこまって居間に座っていた。


「話があるのだけど」

「鬱病のことか。もう、治ったのか」

「ううん。治療中。あの、ごめんなさい」

「謝ることはないよ。仕方ないし」


私は理子を安心させたかった。カウンセリングは続いているらしく、顔色は良い。


「私と離婚して下さい」

「本当に?もうダメなのか」


理子は首をしっかりと縦に振った。

理子の決意に揺らぎは無さそうだった。

私は言葉を失う。思えば、私自身に問題があったからだ。


「そうだね。私が原因だよね」

「原因は鬱病だよ。私の心が弱かったから」

「最後まで私を責めないのか」

「だって、あなたを好きだった気持ちは嘘じゃないから。だから、結婚してくれて有り難う。そして、さようなら」


私は涙を流した。


心変わり(了)

題材 四年 文字数809 製作時間18:55

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