時間は一緒(2020/09/29)

白鳥しらとり華子はなこは白鳥家のお嬢様だ。

けれど、何をやっても上手くいない。

華子は自分が凡才ぼんさいの上に器に合わない家に生まれた。

そればかりの苦悩を携え、27歳の大人になった。

ある時、白鳥家に客人がきた。

それは白鳥家と縁のある、八坂やさか涼子りょうこという女性だ。

涼子と華子は昔に一度だけ顔を会わせている。

華子は涼子の応対をすることになった。


「お久しぶりです。涼子さん」

「華子さん。お久しぶりです。お元気でしたか?」

「おかげさまで。お仕事は今、家のお手伝いされてると?」

「そうなんです」


涼子は嬉しそうだった。華子は涼子を微笑ましく見た。


「昔、華子さんに諦めないでいることを教わってからずっとやってきました」


涼子は家業の老舗しにせ和菓子わがし 友楽ゆうらくを継いだ。

涼子はかつて、不器用で出来の悪い子とののしられていた。

だからこそ、華子と涼子は共感することがあり、仲が良かった。


「そうだったんですね」

「はい。私は華子さんを今でも尊敬しています」


華子は一人だけ置いてきぼりを食らったようで悲しい気分になる。


「ねぇ。何故、涼子さんは諦めずに頑張れたの。凡人の私にはわからないの」

「だって華子さんは凡人じゃないですよ。言ってたじゃないですか。時間だけは平等だって。どんな特別な人も時間は平等だって。勿論、体力の差だって健康の差だって違います」


華子には涼子がまぶしく見えた。

華子は自分の昔を不意ふいに思い出す。

小さな頃は何でも出来る気がして、何だって成れるって。

その限界を知るのが大人の時だ。

出来ないことが解ってくる。華子はゆっくりと微笑んだ。


「そうですね。でも、辛くなかったんですか」

「辛くなかったなら、辛かったです。何度も自分には無理なんじゃないかって。でも、時間だけは同じって考えたら自分にもやれる気がしたんです。それにお菓子が好きだったから……」

「そうですか」

「あの、私、華子さん。私のお菓子食べて下さい」


涼子は輝く笑顔で華子にお菓子を差し出した。


時間は一緒(了)

題材 時間 文字数 794 製作時間 25:18

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