未来からの使者(2020/09/26)

俺は未来から来たんだ。と発言した目の前の男は三橋みはししのぶ

主席で大学に入学し、僕以外の人で友達がいない。


「なぁ、三橋。冗談は止めないか」

「冗談か。四日以内に起こることを言おう。明日は梶谷町の三丁目で、如月きさらぎ安須あずさんが殺害される。犯人はうちの大学のスポーツ特待生の三谷みたに零士れいじ。明後日、明々後日は何もない。四日後の時に事件が起こる」


三橋の瞳は揺れていた。何か言い辛そうに僕を見る。


「それは」

「それは何だ?」

栗林くりばやし荘司そうじくん。君が殺される日だ」

「は?馬鹿馬鹿しい」


僕は三橋の言葉が信じられなかった。三橋の表情を見ると、真剣だった。

嘘をついていない目をしている。


「俺は栗林君を助けるために来たんだ」

「よく解らないんだけど」

「とにかく、俺はこの三日間、君を助けることにするよ」


こうしてよく解らないまま、僕は三橋とともに行動を共にすることになった。

次の日、本当に如月安須は殺害され、その犯人が三谷零士だった。

僕は三橋の予言に驚くばかりだった。


「三橋君。本当だったんだね」

「ああ。だから、言っただろう」


三橋は嬉しそうにしていた。三橋との三日間の生活は何だかかんだで楽しかった。

三橋は兄弟がいなかったらしく、母親と二人暮らしだった。

父親のことは教えてくれなかった。俺は深入りはしないことにした。

三橋はそれだけでも気が楽だったようだ。

とうとう、四日目が来た。

僕と三橋は一緒に大学に行く。何事もなく時間が過ぎていく。

予言はこのまま、外れるのだろうか。

その方が大いにいい。

三橋と寄り道をして帰ろうと思った。三橋は真剣な顔をして言う。


「実は俺、あなたを殺しにきたんです」

「え?」

「あなたが俺の父を殺したから。あなたは俺の母が好きで、その母と結ばれた父を恨むんです。そして」


三橋は涙声なみだごえだった。そうか、僕は三橋の父親を殺してしまうんだ。

だとしたら、ここで命を絶ってくれたほうがいいのかもしれない。


「そうか。僕、そんなことするんだ」 「………はい。でも、俺、栗林さんと一緒いるのが楽しかったです。友達になれたのも本当に嬉しくて。本当は殺そうと思っていた。けど、殺せません。だから、お願いを聞いてくれますか?」

「お願いって親父さんを殺さないでくれってことだろう?」

「はい」

「でもさ、過去を変えてしまっても大丈夫なのだろうか。正直、僕は人を殺したくない。けれども、変えてしまったら君は生まれてくるの?」

「………っ。でも、俺にはあなたを殺せません。だから、お願いです。お父さんを殺さないで下さい」


三橋は頭を下げ続ける。その真剣さが痛いほどに伝わる。


「解った。じゃあ、僕からも約束だ。未来の僕にも絶対に会ってくれよ」

「はい」


三橋は嬉しそうに笑った。三橋はそれから「もう、行かないといけません」と言って消えてしまった。

大学の同級生にも、三橋忍という名前すら消えていった。

本当に三橋忍は存在していたのだろうか。

僕はそれを二十年後に知る。


未来からの使者(了)

題材 止 文字数 1,191 製作時間 23:44

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