廻り合い(2020/09/25)


前世の記憶ってあるのだろうか。

私は台所で夕飯を作っている最中にぼんやりと考える。

旦那の幹夫はまだ帰っていない。

最近、見る夢は私が城の大名だいみょうめかけ大奥おうおくにいる夢だ。

私は大奥の中でも大名に一番、気に入られているらしかった。

けれど、殺される。刀で後ろから刺されて死ぬ。刺してきた相手は女性だ。

私とその人は友達関係以上だったらしく、

恐らくは同性愛だったのだろう。

その女性は私が大名の正妻せいさいになるのが耐えられなかったらしい。

あまりにも不思議な話だと思う。以前、私はテレビで前世の記憶の特集を見た。

現世でも前世の記憶を宿したまま、生きているということ。

私はそれなのだろうか。


夕飯が作り終わり、旦那の幹夫みきおの帰りを待つ。

幹夫に夢の話を以前した際、「馬鹿げている」と一刀いっとう両断りょうだんされた。

普通にただの夢なのかもしれない。しばらくすると幹夫が帰ってきた。


「どうした?神妙しんみょうな顔しているよ?」

「そうかな」

「うん。あ、もしかしてさ、前に言ってたこと?」

「うん」


私は夕飯を幹夫の前に出す。幹夫は穏やかな表情で私を見る。


「まあ、馬鹿げているって言ってのは謝るよ。ごめん。でもさ、前世がそうだったとしても現世は違うだろう?」

「そうなんだけど、私は私を刺してきた女性のことを忘れてしたら駄目な気がして」

「女性かぁ。その女性とは恋仲だったってこと?」


幹夫は夕飯の焼き魚を食べている。

私は幹夫と交際から結婚までのことを思い出す。私は同性愛者でもない。


「恋仲。だったかもしれないしね」

「そうか」


幹夫はもしかしたら、嫉妬しているのかもしれない。

私は少しだけ嬉しくなった。

結婚して数年経っているが、幹夫はいつも私を思っている。


「………嫉妬している?」

「うーん。ま、嫉妬というか。俺も言わないといけないよな」

「は?」

「その女性、俺の前世だ」

「え?」

「前世でお前と一緒になれなかった未練があって。男として生まれ変わったというか。まあ、俺自身も信じられないんだが。どうにもそうだったみたいで」


私はあまりにも突然すぎてついていけなかった。幹夫は私を真剣に見る。


「前世のことだけど、殺してごめんな」

「………そんなに私が好きだったの?」

「現世でお前を初めて見たときから、体の中に何かが駆け巡ったんだ。その後からかな。前世のことが色々」

「そうなの?」

「ああ。だから、改めて俺と一緒にいて下さい」


私は幹夫の顔が急に懐かしく思えてきた。

そうだ私はこの人を前世でも好きだったんだ。


「はい、喜んで」


廻り合い(了)

題材 前世 文字数 1,010 製作時間 27:16

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