サヴァン(2020/09/24)

1日中、ずっと音楽が聴こえる。何もしていなくてもずっと。

私は三年くらい前からこんな調子だ。

他の人には聴こえない音が聴こえる。

それを繋いで音楽を作る。編曲も、作曲も習っていないのに出来た。

何故、習ってもいないのに出来るようになったのか。


三年前、私は交通事故で頭を打った。

それにより短期的な記憶をすることができくなった。

いわゆる、高次こうじ脳機能のうきのう障害しょうがいだ。

両親は私の将来を心配した。勿論のこと、仕事が出来なくてなった。

その時から、頭の中から音楽が聞こえてくるようになった。

音符が頭の中を元気よく動き、メロディーを奏でる。

私は衝動に突き動かされるように、ノートに五線譜を書き、譜面を書く。


「どうしたの?」


母親は私の行動をただ驚くばかりだった。


「ピアノないか?」

「え?ピアノ?」

「うん。ピアノ」


家にはピアノがないからか、母親は押し入れからピアニカを取り出す。

私はそれを奪うようにして取り、譜面通りに演奏する。

母親は驚くばかりか、感動した。私は更に譜面にメロディーを書く。


「どうして、そんなことが出来るの?」

「解らない。でも、頭の中で流れてくる」


私は正直に答えた。母親はこの才能開花を喜ばしく思った。

しかし、父親は気味悪がった。

私の曲は美しくも、儚さのある音楽だった。クラシックのようで現代音楽に近い。

後日、私は両親のすすめで脳外科医に診てもらった。

私は後天性サヴァン症候群しょうこうぐんらしい。

脳や頭への衝撃により、これまでにない才能が開花する障害らしい。

これが幸運か解らない。私はただそれにより、頭の中の音楽を出力することが何よりもの幸福になった。


私はそれからひたすらに、譜面を書いた。

母親は私の為にグランドピアノを買ってくれた。

そのピアノを使い、演奏する。この上なく、幸せに満ちた。

けれど、音楽は人を恐怖にも落とすことが出来た。


それは父親だった。

父親は私の能力を気味悪がった。

私はそんな父親を嫌い、嫌悪の音楽を作った。絶望的で苦痛に満ち溢れた音楽を作り、

父親の前で演奏する。


父親は顔色を悪くし、その場で倒れて死んだ。

私はその様子を悲しむでもなく、ただ見つめた。



サヴァン(了)

題材 音 文字数 866 製作時間 27:35

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