百度参り(2020/09/23)
百度参りをすると、願掛けになると聞いたことがある。
実際のところ、どうなのだろうか。
私は正直なところ、
願い事は、自分の好きな仕事に就きたい。これだ。
私は早速、今日から始めて見ることにした。
まず、お参りするお寺や神社を決める 。
次に1日で100回お参りするのか、100日間お参りするのかを決めるらしい。
お参りする際は一切、言葉を発してはいけない。二礼二拍手をする。
百度参りは1日でも欠かしてはいけない。
私は早速、仕事の帰り疑惑に近所の神社に行くことにした。
神社の入り口に入り、本堂に向かう。
鈴を鳴らし、お
二礼し、二拍手をして目を瞑り祈る。
「好きな仕事につけますように」
強く願った。私は本堂から、帰っていく。
同じように参拝している女性がいた。
その女性の様子は必死だった。
きっと、真剣な祈りなのだろう。
この人が百度参りに来ているか否かははっきりしないが、何となく自分と同じ気がした。
次の日も、その次の日も同じ女性がいた。
ただその女性が目を引くのは、
何故か、ずっと白装束で長い髪を結うこともしない。
すっと、現れてさっと帰っていく。
その女性は私のことを認識していると思う。
私はその女性が何を願っているのか、単純に興味が湧いた。
参拝が終わった後に、話しかけてみようと思い立つ。
女性が参拝し終わり、神社から出てくる。
「あの」
「私?」
「ええ。そうです」
女性は私に話しかけられ、大層、驚いた。
「なんですか?」
「あの、ここのご利益って凄いですよね」
「らしいですね」
女性は世間話を早く終わらせたがっている。私は女性を引き留める。
「あの。ちょっとお話しません?」
「………なぜ?」
「少しだけあなたとお話して見たかったんで」
私は半ば強引に女性をカフェに連れていった。
女性は私を不思議そうに見た。
「なんで、私に声かけたんですか?」
「何か私と同じで百度参りしているっぽかったからです」
「そうですか。当たりですよ」
「ですよね。何を願っているか教えて下さいますか?」
「………そうですね。殺したい人がいるんです」
私はふと動きを止めた。正確には緊張で止まったが正しい。
「ど、どうして殺したいんですか?」
「私を裏切ったからです。10年付き合って、若くて子供作れる女と結婚したいって。最初は子供なんていらないって言ったのに」
女性の表情は苦痛に満ちていた。あの真剣さはこの恨みが入っていたのか。
私は何となくすんなりきた。
「そう、だったんですね」
「実はね、今日で最後だったんです」
「百度参りが?」
「ええ。だから、今日。殺しにいくんです。包丁も新調したし、万一の為にもスタンガンをね」
「………あなたがやるんですか?」
「ええ」
「あの、何か余計なお世話ですけど、止めたほうがいいです。そんな男の為に復讐なんて。あなたの人生が」
「有り難う。私の為に言ってくれたんだよね?もうね、私はもうこの人生ともおさらばしたいのよ。仕事もない、若さもないから」
私は目の前の女性が手を汚すのを止めたいと思った。
それに百度参りを血に染めるなんて、罰当たりだとも思えた。
けれど、それよりも目の前の女性を精神的に救い出さないといけない気がしてくる。
「そうですか。でも、聞いてください。人生ってずっと苦悩だと思うんです。試練の連続で。良かったことも沢山あったと思うんです。けれど、良かったことを悪かったこと、悲しいことの思い出が強烈。だから、ずっと不幸せな気がしてくるんですよ」
女性は泣き始めた。私は慌てて、女性の肩を叩く。
「思い出してください良かったこと。悪かったことは封じてください」
「………そうね、あなたの言うとおりよ」
女性はしばらく涙を流した。私は女性が落ち
着くまで一緒にいた。
帰る際、私は再度、女性に釘を指す。
「絶対、殺さないで下さいね」
「はい。有り難う」
女性は私に笑いかけ、帰っていく。私は女性を信じた。
けれど、その願いはむなしく散る。
後日、男性の殺害報道が流れた。私は直感的にその男性が、先日の女性の復讐相手だと思えてきた。
私は暗い気持ちと、女性に裏切られた思いに駆られる。
結局、女性は自分の願望を抑えられなかった。
私が参拝に行くと、女性がいた。
参拝が終わると、女性は私に近付く。
「あなたのおかげよ」
「あなたが殺したんじゃないの?」
「違うの。私はあなたに止められから殺らなかった。違う人がやったの」
「え?」
その時、何処からともなく風が吹いた。神の返事なのかは解らない。
「あいつ、他の人からも恨み買ってたみたい。百度参りって効果抜群ね」
女性は妖艶で、不気味な笑みを浮かべた。
私は百度参りの効力と、神々の力を思い知った。神様が願いを叶えたのだろう。
百度参り (了)
題材 100 文字数 1,920 製作時間 15:28
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます