死の真相(2020/09/21)


彼女の岩見いわみ紀子のりこは自殺した。

飛び降り自殺だったらしい。

俺は何か出来たんだろうか、そればかりを考えてしまう。

紀子の母親、聡美さとみが俺に話しかけてきた。


「紀子の彼氏の雄太ゆうたくんだよね?」

「あ、はい。そうです」

「紀子と付き合ってくれて有り難うね。紀子、悩んでいる様子ってあった?」

「悩んでいる様子、解らないな」


俺は数日前までの紀子を思い出す。全く思い当たらない。

ただ紀子は俺のことが大好きで、いつも俺を気にしていた。

だからこそ、この死が受け入れ難くあった。


「そうですか。有り難うね。そうだ。雄太くん。紀子が死んでも、気にせず新しい人と幸せになってね」

「………どうなんですかね。俺、よく解らないです。時間が解決してくれるんですかね」


俺は紀子を思い出しながら、涙を流した。

けれど、時間と共に悲しみは薄れていく。

悲しいけれど、現実を生きなければならない。

紀子が亡くなって五年が経過したころだった。


うちの会社に新入社員が入った。

桃井ももい沙耶さやという、俺より2歳下の23歳の若手社員だ。

俺はその子に一目惚れした。

けれど、どうにかする訳でもなく、ただ仕事仲間として接した。

キッカケは社員旅行だ。沙耶が上司の加藤からセクハラされそうになったのを助けたのだった。


それから昼食を一緒にするようになった。

何度目かの昼食際、沙耶から告白された。


「雄太さんが好きです。付き合って下さい」

「俺で良ければ」


こうして俺は沙耶と付き合うようになった。

自宅で一緒にテレビを見ている時だった。何気なく、テレビを見ていた。

その内容は旦那が若い子と不倫している内容の番組だ。


「これさ、そりゃ、若い子のほうがいいもんな」


何気なく言った。沙耶は不愉快さを露にする。


「若ければいいの?年になったら女は価値がないの?」

「そこまで言っていないよ」


沙耶はむきになっている。何がそんなに逆鱗に触れたのだろう。


「それにこれはテレビだし、むきにならんでも」

「そう。解った。あなたは若い人が好き。私がどんなに悩んだか知らない」

「は?」

「私が死んだ理由を知らないようね」

「お前、何言ってるの?」


沙耶の顔はいつの間にか紀子になっていた。自殺した紀子だ。


「どういうことだ?」

「あなたは若い子がいい、年取ったら終わりって言った。私は悩んだのよ。いずれ年老いてしわしわになったら、あなたに棄てられるんじゃないかって。そう思ったらいても立っても居られなくなった。だから、死んだのよ」

「はぁあ?ちょっと沙耶、いや、紀子どういうことだよ」

「あなたのせいよ。そして、あなたは沙耶をも傷つけている。もう、いいわ。あなたを殺して私も死ぬ」


紀子が乗り移った沙耶は机にあったフォークを俺に差し向ける。

俺はそれを取ろうと思った。しかし、一歩遅く、フォークは俺の胸に刺さる。


「っうう」

「これであなたも年を取らずにいられるわ。あの世で一緒にいましょう」


死の真相(了)

題材 若 文字数 1,170 製作時間 22:35

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る