カフェでの出来事(2020/09/20)

久しぶりの休日に、俺と恋人の茉莉まりは海に行った。

青い海は心を癒していく。海水浴の季節は終わったが、鑑賞として海はやはり綺麗だ。

海辺のカフェ、『夕暮れ』に行く。

カフェの店主は根津ねずみさきという人がやっている。

この海辺のカフェは街で評判になっていた。コーヒーが美味しいらしく、店員のおじさんも感じがいいらしい。


カフェに入ると、女性店員が案内する。


「いらっしゃいませ、お席にご案内しますね」

「はい」


俺と茉莉は窓際の席に座った。海辺が一望できる場所だ。

客は俺と茉莉、奥の方にカップルがいた。


「ご注文はどうしますか?」

「コーヒー二つで」


この店で評判のコーヒーを頼んだ。

店員は注文を受理すると厨房に消えていく。

茉莉は嬉しそうに俺を見る。


「来て正解だったね」

「ああ。絶対美味しいコーヒーだよ」


俺たちは笑い合う。その時だった。


「話が違うじゃない!」


怒鳴る声が聞こえてくる。

どうやら、奥に座っているカップルの彼女が叫んだらしい。彼氏がなだめる。


「どうどう、まだ方法はある」

「って言っても………」


俺と茉莉は顔を見合わせる。俺は茉莉の耳元で言う。


「喧嘩してるのかな?」

「どうなのだろう」

「余所でやってほしいな」

「まあ、仕方ないよね」


俺たちは気にしないことにした。

けれど、俺は興味本位で2人の会話に耳を立てる。

彼女が「このまま、引き下がるわけには」と言って、彼氏が何かいっている。


「あいつさえ、いなければ」


俺は何か不穏な空気を感じた。飛躍しすぎているかもしれないが、殺人計画なのだろうか。と一瞬、抱いた疑惑を捨てる。


「どうした?佐一?」

「うんうん、何でもない茉莉」

「あの、カップルでしょう?きにしないほうがいいよ」

「うーん、でも」

「変なのに関わらないほうがいい」


茉莉は事なかれ主義だ。その方がいいだろう。でも、俺はやっぱ気になる。

その続きを聞く。


「なぁ、今夜、アイツをろう」

「はあ、何言ってんの?」

「その方がお前にとっていいし」



俺はとうとう、我慢できなくなり2人の席に向かう。

2人はきょとんとした顔で俺を見る。


「あの、人を殺めるとか止めたほうがいいですよ?自分の人生棒にふりますよ!それに人殺しって」

「はぁあ?なに言ってるのこの人!」


彼氏のほうが爆笑した。彼女のほうも笑っている。


「あり得ないでしょう?私たちの言ってるのはネズミのことよ」

「え?え?」

「そうそう!俺らさ、農業やっていて、ネズミが大量発生していて、それで」

「え、あ、マジっすか。すいません」


俺は自分の間違いに恥ずかしくなる。二人は怒ることなく笑っていた。


「まあ、君が勘違いするのもむりないよ。俺たち、会話変だったしな、ごめん」

「ごめんなさいね」

「いえ、僕が勘違いしていたので、本当すいません」


俺は二人に頭を下げて、茉莉のいるとこに戻った。茉莉があきれる。


「だから言ったじゃん!」

「ごめんごめん」

「あと、さっきコーヒー来たよ。これ飲んだら、帰ろう」

「そうだな」


俺たちは評判のコーヒーに舌鼓したつづみをうった。コーヒーはまろやかでおいしく、評判になるだけのものがあった。


勘違いが恥ずかしかったが、来て良かったと思った。


それから二週間のことだった。茉莉が俺に慌てて電話してきた。


「どうしたんだよ?」

『あ、ニュース見た?』

「見てないけど」

『単刀直入に言うよ。カフェ『夕暮れ』の店主、根津岬さんが殺された』

「は?」


俺は足元がぐらついた。あのカップルはネズミの駆除をすると言っていた。

ネズミ。根津岬という名前。

つまりは根津岬さんを殺す予定だったのだ。


カフェでの出来事(了)

題材 ネズミ 文字数 1,429 製作時間 39:09

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