引きこもり(2020/09/19)

自分の世界にこもっていれば傷付かない。誰とも接触しないほうが気が楽。

そうして人との接触を避けていた。

仕事も一人で完結できるフリーランスのデザイナーになった。

それでいい。自分の世界だけで完結している。


私は1日の仕事を終え、買い物に出かける。

独り暮らしになってから5年。

実家にいたときには味わえない気楽さが最高だ。

いつものスーパーで買い物をしていると男性店員が見てきた。

店員に見覚えはない。学生時代の同級生でもない。

私は気にすることなく買い物を続けた。店員が私に声をかけてくる。


「あの、いつも購入されているコラーゲンなんですけど。発注忘れて入荷ないんです」

「そうですか、お知らせ有り難うございます」


私は店員に背を向ける。


「あ」

「何ですか?」

「あ、えーっと。覚えていないかな?」


私は店員の顔をもう一度見る。

全く解らない。店員は私に笑いかける。


「ごめんなさい。全然、覚えてない」

「そっか。だよね。佐々木さん殆ど、学校来なかったし」


中学時代の不登校を思い出したくなかった。私は会話を終わらせたくなる。


「ごめんなさい。急いでるので」

「あ、すいません」


私は店員に背を向けて、レジに向かう。

レジで買い物をさっさと済まそうと思った。もう、このスーパーには行かない。


私は次の日からいつものスーパーへに行かなかった。

隣街のスーパーで買い物を済ます。そんな日々を一週間続ける。

一週間過ぎたころだった。


「あの」

「なんですか?」


中学時代の同級生だと言ってきたあの男性店員だった。

会いたくない人に会ってしまった。


「もしかして、僕が原因で行くの止めました?」

「あなたのせいと言うのもあれですが、昔を思い出したくない。それだけです」

「………ごめんなさい」

「あなたが謝ることありません」


店員は明らかに落ち込んでいるようだった。そんなに落ち込む必要がどこにあるのだろう。


「何故、落ち込んでいるのですか?」

「あ、その実は僕、佐々木ささきさんのこと中学時代から好きでした」

「そう。有り難う」


私はふいと自分が不登校になった原因を思い出した。当時、好きだった宮村みやむらがくにからかわれたからだ。

宮村が放課後に「好きだ」と告白してきて、有頂天うちょうてんになっていた。

けれど、それは宮村が友達と私が落ちるか掛けていたのだった。

それを知ってからは恋愛も人間関係も築けなくなった。今のようになった原因だ。


「あの、それで」

「まだ何か?」

「あの」

「だから何?」


私は次第にいらだってくる。店員は笑う。


「何が可笑おかしいの?」

「だって。佐々木さんが感情的になったり表情豊かなのが見れて嬉しくて」

「はぁあ?」

「いつもつまらなさそうにしていたから。あ、でも、好きだったってのは本当なので。僕のこと考えてみて下さい。お返事はいつでもいいので」


店員は私に笑いかけると、さっさと帰って行く。

私は何がなんだかよく解らなかった。けれど、すごく久しぶりに人と話した気がした。

人と関わるのは傷つくかもしれない。

けれど、たまにはいいのかと一瞬だけ思った。


引きこもり(了)

題材 世界 文字数1,220 製作時間 27:46

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