合わせ鏡(2020/09/16)

今夜も学校内の夜回りをする。

私は今年に入ってから、三年生の教室を持って半年が経つ。

母校の教師になるとは思わなかった。

学校の階段の踊場に合わせ鏡がある。毎回、夜通るのは恐い。

私はいつも少しだけ目を瞑る。今夜は目を開けて通ってみた。

すると、生徒の三崎みさきがいた。


「びっくりした」

「先生、過去と現代が繋がるときがあるのって信じる?」

「え?」


以前から三崎は不思議な雰囲気があった。近寄りがたい存在だった。

外見的にはイケメンなほうだが、少しだけ従兄弟いとこ陽一よういちに似てる気がするのは何故だろうか。


「過去から現在に通ずる瞬間がある」

「え?」

「過去から現在って繋がっているだろう。でも、過去に行けることはないが、過去の人が現在に行くことは出来るんだ」


三崎は私の顔を見つめた。

私の胸元くらいしか身長がない三崎は妙な存在感があった。


「僕は過去から来た」

「は?」

「先生、いや、京花きょうかちゃん」


その呼び方には覚えがあった。従兄弟の陽一だ。


「え?」

「僕は陽一だ。京花ちゃんに言いたいことがあって」

「………それって」


陽一は交通事故で亡くなってしまった。

丁度ちょうど、10歳のときだ。

私は当時、陽一の友達の国光くにみつが好きだった。

けれど、陽一は私と国光の仲を邪魔した。

あの時は解らなかったが、陽一は私が好きだったのだろう。

陽一が「国光君が公園に午後4時に待っている」と私に告げてきた。

けれど、私は行けなかった。

陽一は私が行けないことを国光に伝えに行く途中で交通事故で死んだ。

陽一の両親は私を責めなかったが、私のせいだと思っている。


「自分のせいだと思ってるだろう?違うよ。僕のせいだ。それを伝えたかった。ありがとう」

「私こそ、陽一が私と国光君のために。ありがとう」

「これで思い残すことは………ないよ」


陽一は静かに笑い、消えて行った。私は「陽一………」と呟いた。


「幸せになれよ」


耳元で聞こえた気がした。


合わせ鏡(了)

題材 鏡 文字数 771 製作時間 23:41

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