長い恋の終わり(2020/09/08)

約束を破ってしまった。

私には付き合って10年になる彼氏がいる。

名前は土田つちだてるだ。輝とは長い付き合いで、今は遠距離恋愛中だ。

そんな輝との月1回のデートの約束を私には破ってしまった。

友達の佳苗かなが倒れ、それの付き添いをしていたからだ。

輝に電話の連絡を入れたのは、約束の日から三日後のことだった。


「本当にごめんね」

『いいや、いいんだ』

「この埋め合わせは今度に。今週開いてる?」

『うーん。今週か。ちょっと無理』


輝の声色は元気がなかった。

輝はやはり、約束を守ってくれなかったのが許せないのか。私は心配になる。


「本当にごめんね」

『いいや。気にしなくていい。ただすぐに連絡、欲しかった』

「………本当にごめんなさい」

『君にとっての僕はそんなに重要じゃないんじゃないかって思えて。僕は』


輝は泣きそうな声色だった。


「本当にごめんなさい。私、ごめん」

『僕のままだとはわかってるんだ。君が僕と馴れ合いになってるからだ』

「………でも、私は輝がいないと」

『ねぇ。君にとっての僕は本当に必要な人なの?』


輝の声色は冷たかった。私は輝が約束を破ったことを根にもっているだけだも思った。

でも、輝の本心は違うようだ。

それでも私にとって輝は大事な存在だ。


「大事だよ。ずっと側にいてほしい。今は離れているけど、いつかは」

『そっか。ありがとう。そんなに思ってくれてたんだ。聞きたかった言葉のタイミング、遅かったよ。ごめん』

「え?」

『今回の約束で君が僕を優先しなかったら、別れようって決めていたんだ』

「どうして!」

『君は僕に内緒で他の男性と食事したり、遊んでいただろう?』

「それは、仕事の」


私は心当たりがある。

仕事の取引先の男性社員との会食、他の社員が同席していた。

しかし、二人っきりになることもあった。

断っていたものの、一度だけ関係を持ってしまった。

いずれも仕事の関係で、良好に事を運ぶために関係を持った。

けれど、それは一度きり。なぜ、それを知っているのだろう。


『見てしまったんだ』

「え?」

『夕方のテレビのニュースで

君が他の男性とホテルに向かってる姿が写っていた。自粛じしゅく期間きかんの街並みを写すニュースで』


私は頭が真っ白になった。緊急きんきゅう事態じたい宣言せんげんで、自粛期間になった時だ。取引先の男性とホテルに行った。


「そ、それは」

『君のことだから、仕事のせいだろう。解っている。けれど、僕もそんなに心の広い人じゃない。だから、別れよう。これは君のせいじゃない。コロナウイルスのせいだと思ってくれ』


輝の電話は切れてしまった。電話の不通音が響く。

私の長い恋はコロナウイルスによって終わった。


長い恋の終わり(了)

題材 約束 文字数1,057 製作時間 26:26


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