不思議の国(2020/09/07)

ウサギを追いかけてたどり着いた先は不思議の国でした。

私はぼんやりとした意識の中で、そんなモノローグを思い出す。

宇佐美うさみ由香ゆかの後を思っていた。目が覚めると、知らない顔の男がのぞき込んできた。


「大丈夫ですか?」

「あ、いや」

「そうですか。大丈夫なんですね、じゃあ、起き上がりましょう」


男はにこやかな笑顔で私に微笑んだ。私はあたりを見渡す。知らない部屋だ。


「痛っ」

「起き上がるにはまだ早かったですか。そうそう。ここでは逆なので気をつけて下さい」

「逆?」

「逆の世界。言ったこと全て逆を言わないといけない」


男は溌剌はつらつとした笑顔で言った。私は何のことか解らず混乱する。


「え?」

「説明終わりです」

「はぁ」

「あなたは宇佐美さんをおっかけてきたんですか?」

「へ?」


先ほどの説明で逆を言えと言ってきた。つまりは逆の答えということか。


「違います」

「あなたは宇佐美さんが自殺すると思ってそれを止めようと思ってきた」

「違います。彼女は自殺しないです」

「そうですか。よく解りました。宇佐美さんがやってきました」


宇佐美は虚ろな表情だった。私は宇佐美が心配で追ってきたとうことだ。

本当は違う。私が宇佐美の彼氏を略奪りゃくだつしたからだ。私が責められないようにするにはという卑しい心意気だ。


「ねぇ。本当は私をバカにしていたでしょう」

「ち、ちが」

「あなたは心配と見せかけて、自分への責任が来ないか心配だったんでしょう?」

「違う。それは」


宇佐美は私のことを見抜いているのだろう。私は心配しているフリをする。


「本当に心配で心配で」

「嘘。あなたは自分への責任がこないか心配。それだけ。あなたは」


宇佐美の表情は険しくなり、顔が変形し、傷だらけになる。


「ねぇ。ここまでして満足?」

「え?」

「あなたがやったのよ!」


宇佐美の最後の言葉で、私の周りは真っ白になり、意識を失った。

電子音がする。私はゆっくりと目を覚ます。病院のベッドらしい。


風見かざみ恭子きょうこ容疑者は同僚の宇佐美うさみ由香ゆかを屋上で突き落とし、殺害しました。しかし、風見容疑者は自身も足を滑らせ転倒しました。警察は風見容疑者を殺人の容疑で逮捕しました。意識が戻り次第、事情聴取を行う予定です』


そうか、私が宇佐美を殺したんだ。

私は再び目を閉じた。


不思議の国(了)

題材 ウサギ 文字数 911 製作時間 22:54

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