エンヴィー(2020/09/06)
大学の音楽サークルの
俺は日本のロックバンドが好きで、サークルに入った。
友達も出来て、
「今日、アシナの新曲発売日だぜ」
「知ってる。予約しているからCD屋で買うよ」
俺と田辺が好きなバンド、アシナの新曲の発売日だった。田辺が何か不安そうに言う。
「実は」
「なんだ?」
「俺、親が病気でサークル止めないといけなくなった」
「え?マジ」
俺はショックで一瞬、目の前が暗くなった。せっかく友達なれて、グループを組んだのに解散。俺はやりきれなくなった。
「それなら、仕方ないよな」
「ああ。だけどなぁ」
「だけど?」
「実はこのサークル、在学中に辞めるを許さないらしくて」
「なんだ?それ?可笑しくないか」
サークルはそもそも、趣味でやるものだ。それを強要するような体制なのだろうか。
「それが
「はぁあ?あり得んだろう」
「だといいんだけど」
田辺は不安そうな顔をしていた。たかがサークル辞めるくらいで、罰を与えるようなことなんて有るのか。
「なぁ、俺がリーダーに言っておこうか?」
「いいよ、自分で言うよ」
「遠慮すんなって。俺が交渉してやるよ」
「そうか。宜しく頼む」
こうして俺は田辺の退会届けを受け取った。
正直なところ、田辺には辞めてもらいたくない。
けれど、家の事情で辞めるのは仕方ないものだ。
俺はサークルリーダーの
「品川。今日はどうした?」
「実は田辺友貴が家庭の事情で続けることが出来ないって」
「続けることができない?ほう」
箕島は不気味な笑みを浮かべた。田辺の言っていたことは本当のようだ。
「これが退会届です」
「これねぇ。君はさ田辺君と組んでたよね」
「はい。凄く残念です」
箕島は俺の肩を叩く。箕島の表情は恐い。背筋がぞくりとし、寒気がする。
「僕ね、こう見えてすごいんだ。君は田辺君を本当とこ、どう思っていた?」
俺は田辺のことを羨ましく思っていた。
その理由はギター歴が俺よりも短いのに、かなり上手い。その上に歌も上手かった。
「嫉妬していました。歌もギターも上手い。憎らしく思えてきました」
箕島は俺の言葉を聞いて笑う。箕島が囁くように言う。
「サークルを止めるってことは許されないよな?」
「……。許せません」
俺はいつの間にか、田辺が憎らしく思えてきた。箕島は更に笑う。
「じゃあ、その願い俺が叶えてやるよ………」
「………え?」
「叶えて………やるよ」
箕島は俺に背を向けて消えて行った。箕島のヤバい噂を聞いたのはその後だった。
それから田辺の姿を見なかった。
同じクラスのゼミ仲間に聞いたら、田辺は入院しているらしい。原因は車に
俺は嫌な予感がして、田辺の病院に向かった。田辺は俺を見るなり、錯乱していた。
「俺に近づくな!お前のせいで俺は、手を失った」
田辺の手は骨折していた。俺は心配する。
「え?どういうこと。これ、リハビリで治るんじゃないのか」
「治らない」
「は?」
「お前がサークルに!もう顔を見たくない!帰れ」
田辺はナースコールを鳴らし、看護したちがやってくる。
俺は看護師に連れられ病院の外に追い出された。
サークルの箕島のせいだろうか。
俺は大学に戻ると箕島を探した。箕島は学食でお茶をしていた。
俺に気づいた箕島が言う。
「お前の願い、叶えてやったぞ」
「は?やり過ぎじゃないですか?」
「お前は田辺に嫉妬していた。そして、このサークルを辞めようとしていた。俺は在学中にサークルを止めるやつに罰を与えたまでだ」
俺はこの頭のおかしい人が心底、気持ち悪く感じた。
たかがサークルに何を執着しているのか。
「は?あなたのやってることは犯罪です。俺はあなたを警察に突き出します」
「突き出す?証拠でもあんの?」
「田辺に聞けばいい」
「田辺は錯乱してるから、お前だと思うよ」
「は?」
「っふふふ。お前、まだ解んないの?昨日、俺が田辺を轢いた後、お前いただろう?」
箕島は俺の肩に手を置く。箕島は続ける。
「お前は折れ込んだ田辺の左右の手を思い切り踏みつけたんだ」
「は?」
「お前が踏みつけたんだ」
箕島はスマートフォンを取り出す。何かしているのか、画像を俺の前に見せた。
「これだよ。お前は都合のいい記憶を忘れている。お前は嫉妬に狂って田辺を追い込んだ」
箕島が見せた画像は俺が田辺の左右の手を靴で踏みつけているものだった。
俺が田辺の左右の手を踏みつけた。
俺は受け入れがたい出来事を思い出し、うずくまった。
エンヴィー(了)
題材 サークル 文字数 1,855 製作時間 39:22
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