Q(2020/09/01)

手を繋ごうとして振り払われた。

俺から無理矢理、かおりに交際を申し込んだ。


「好きになってもらう為に努力するから、付き合ってくれ」なんて言ってみた。

友達関係から自分の中で、好きな人になっていた香。

香にとって俺は友達でしかなかった。

振り払った時の香は悲しそうな顔で言った。


「ごめんね。やっぱ友達に戻ろう」


それから俺と香は友達に戻った。

普通に会ったり、食事したりするが友達だ。

俺は香がずっと誰とも交際しないのを好きな人が出来ないからだと思っていた。けれど、それは違ったらしい。友達のたけるがぽろりと言った。


「香のやつ、アイツ、誰も好きにならないんだって。男も女も」

「は?」

「なんかそういう人らしい」

「意味解らねぇよ」


俺は猛の言葉に不快感を示した。

猛が香を罵ってるような気がして不快に思えた。俺はこの猛の話を真に受けなかった。


後日、香とカフェで話をすることができた。

俺は嬉しくて少しはしゃいでいた。

香はそんな俺の姿を微笑ましく見つめる。俺はふと、猛の言っていたことを漏らす。


「なぁ。香、猛が変なことを言ってたんだけど」

「なに?」

「香が誰も好きにならないって。男も女も」


香の表情は曇った。本当のことだったのだろうか。俺はまずいことをしてしまった。


「そうだね。やっぱ真剣に思いをぶつけてきてくれた勇治ゆうじにはカミングアウトしよう」

「え?」


香はなにかを決意したようだ。


「多分、勇治は私を嫌いになると思うけど。私はLGBTQのQなの」

「は?何それ?LGBTは解るけど」


LGBTは性的マイノリティを表している。Lはレズビアン(女性同士)、Gはゲイ(男性同士)、Bはバイセクシャル(両性愛者)、Tはトランスジェンダー(性自認と身体の性の不一致)だったような気がする。


「Qはクィア。これは自分の性や、性的思考を決めていない人なの。だから、恋愛的に好きになることがないの」


俺は一瞬、何のことか解らなかった。けれど、香のこのカミングアウトは大きなことだと思った。香は少しだけ震えている。


「はっきりと言ってくれてありがとう」

「気持ち悪いよね」

「そんなことないよ」

「ありがとう」


香はいつもの笑顔で俺を見た。本当に勇気のいることだったと思う。


「これからも友達でいるよ」

「ありがとう。本当にありがとう」


香は涙を流した。


Q (了)

題材 手 文字数 935 製作時間 34:12

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