色弱の世界(2020/08/31)

色のない世界はどんな風なのだろう。

画家の石河竜いしかわりゅうは単一の色しか見えないらしい。以前、石河がインタビューで答えていた。


「俺は色弱だから、白黒の絵しか描かない」


正確には白黒の絵しか描けないということだろう。

石河の絵は全てが白黒で表されている。

インタビューでは具体的にどう色が見えているのか答えなかった。

私はそのインタビューを思い出しながら、石河の邸宅を目指す。

今日は私が石河にインタビューすることになった。

緊張の中、邸宅のインターフォンを押す。


『石河です。もしかしてインタビュアーの神城かみしろさんですか?』

「え、あ、はい」

『開けますね。入ってください』


石河は鍵を開けてくれた。

私は玄関口から入っていく。

庭を通り、本邸への玄関の扉が開いた。石河だ。


「今日は宜しくお願いします」

「はい。宜しくお願いします」


私が石河に挨拶をすると、彼は恭しく返した。

一先ず、悪い印象を与えていないことにほっとする。

石河に案内されて、客間でのインタビューが始まった。


石河は全ての質問に一生懸命で丁寧に答えてくれた。

石河の現代美術界での評判は良い。石河自身の見てくれもあるが、性格的な面が大きい気がした。

私は石河が色弱だったことについて、聞こうと思った。

デリケートな問題で踏み込んでいいのかとも迷った。意を決して質問する。


「以前、石河さんはご自身が色弱だとおっしゃっていましたが、それはどんな感じですか?」


石河は少しだけ動きを止めたが、質問に嫌な気分を感じていないようだった。


「そうですね。ずっとそうだったので。ただ車の運転が出来ないこと、信号の判断が難しいこと。人とのコミュニケーションに問題が」

「問題?」

「ええ。色の判断が出来ないので。僕は白と黒しか見えないので」

「色弱の世界ってどんな世界なのですか?」


私は思わず気になったことを聞いてしまった。やばいと思い、謝罪する。


「ごめんなさい。今の質問失礼でしたね」

「いえ、そんなことはないです。生まれてから色弱なので、皆さんと同じです。ただ色がないだけで、見えているのです。でも、逆に色を想像するのが楽しかったりします」


石河は輝いているように見えた。


色弱の世界(了)

題材 色 文字数 879 製作時間28:33

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