創作遊戯(2020/08/30)

物事はやってみて、向き不向きがあるものだと思う。

私は漫画が好きで描いていた。

中々に上手くならない。それでも沢山の作品を見ては、自分なりに模写し技術を取り入れてた。

本当にセンスがないのかもと実感した。

それは私よりも後に漫画を描き始めた美奈子みなこの漫画を読んだからだ。


美奈子の漫画はキャラクターが生き生きとし、コマ割りも描写も全てが綺麗だった。絵も上手く、バランスがいい。


私は読んだ瞬間、負けたと思った。


「私の漫画ってどう思う?」


美奈子は自信なさげに聞いてきた。


「ううん。いいんじゃないかな」

「そう?実は雑誌に投稿しようと思っていて」


美奈子は恥ずかしそうに言った。羨ましい。心のそこから溢れてくる。黒い感情が私を覆う。


「そう。そっか」

「どう思う?投稿するべきだって思う?」


美奈子は自身の漫画に自信が持てないようだ。私は黒い感情に支配されたくないと思った。それに反するように私の口は動く。


「うーん。どうかと思うよ?インパクトに掛けるっていうか。青春漫画に有りがちみたいな」


どの口が言うのだろう。今の私は嫉妬にまみれている。美奈子は私の話を真剣に聞く。


「そっか。インパクトかぁ。うーん」

「あ、あとね。このキャラクターちょっと言動が幼稚ね」

「そうか。幼稚。あのさ、この漫画、本当に面白かった?」


美奈子は苦しそうに聞く。

美奈子の漫画に瑕疵があるとしたら、建物のデッサンの狂いくらいだ。

あと、全てのレベルが高い。心から面白いと思った。

けれど、私の口は再び、逆の言葉を言う。


「……面白くなかったよ」

「……そう。本当のこと言ってくれてありがとう」


美奈子の目は涙ぐんでいた。美奈子は手の甲で涙うを拭う。


「書き直すね。見てくれてありがとう」

「え?」

「だってこんなんじゃ、全然」


美奈子はとうとう、泣き始めた。きっと美奈子は努力をしてここまで来たのだろう。

私は罪悪感にまみれた。ただの嫉妬心で美奈子の作品を侮辱した。


「ごめん」


私は美奈子に頭を下げた。


「え?」

「私、美奈子に嫉妬していた。面白くないなんて嘘だよ。ごめん。すぐに上手くなって、こんな風に面白い作品描いてる」


美奈子は私の発言に目を開く。先ほどとは違い表情が明るくなる。


「ありがとう。うれしい」


美奈子は私の手を握って喜んだ。私はつられて笑う。


「でもね、私も紀代に嫉妬していたんだよ」

「えー。嘘でしょう。私、絵も話も下手なのに?」

「そんなことないよ。紀代にしか描けない漫画描けているから。あれは誰にも真似できない。真似しよったって出来ないよ」


美奈子は私に真剣に言った。その言葉を聞いて私はさっきまでの自分を恥じた。

自分なりの自分だけの表現を追及していこうと思った。


創作遊戯 (了)

題材 長 文字数1,095 製作時間 25:07

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