竹取物語(2020/08/29)

かぐや姫は月に帰らないといけない。

私は初めて竹取物語を読んでもらった時、おじいさんとお婆さんがあまりにも可哀想に思えた。

そんな昔のことを思い出して、私は新幹線を降り、実家に向かった。


夏休みに実家に帰ると、月雄つきおという青年がいた。

母親のみなとによると、親戚の子らしい。

泊まる宿が手違いで取れなかったそうだ。だから、家にお世話になることになったらしい。

月雄は東京から来たようだ。別に実家がここという訳ではないらしく、訳があるようだ。

深くを聞いてはいけないと思い、無難なことを質問してみる。


「月雄さんは何歳なんですか?」

「僕は25歳だよ」

「えー。私と同い年ですね!」


私は少しだけ嬉しくなった。月雄は何処か、この世の人ではない空気をまとっているようだった。

消え入りそうなそんな空気だ。

実家の縁側で、扇風機の前で私と月雄は話をしていた。


「タメだから敬語なしで」

「あ、いいよ。紗世さよちゃんはいつまでここにいるの?」

「うーん。三日間くらいかな」

「そっか。じゃ、僕と一緒だね」


月雄はふわりと笑った。その顔が綺麗で私は顔が暑くなった。


「あ、そうだ。今日、ホタル見に行かない?」

「ホタル?見れるの?」

「うん。家の裏のとこなんだ」

「おお、楽しみ」


私は誘った手前、少しだけ緊張した。

二人だけのデートのようでときめきが止まらない。私は月雄に一目惚れした。

両親も月雄を気に入り、「紗世をよろしく」とまで湊がいったりして恥ずかしかった。

楽しい夕飯が終わり、私は月雄と共に家の裏の川に行く。

私は月雄を案内する。私の隣を月雄が歩く。

懐中電灯の僅かな光が、幻想的に見えてくる。月雄の横顔をこっそり見た。


「実はさ、僕、ここに来るとき凄く辛かったんだ」

「辛かった。そう。何があったの?」

「………振られたんだ」


私はその言葉に苦しくなる。月雄が振られるようなことがあるのか。


「……そう」

「うん。だから、ここに来れば元気になるかなと」

「そう。じゃあ、ホタルを見て癒されに行こう」


私は月雄の腕をを引く。私に腕を捕まれた月雄は驚きつつも、抵抗しなかった。

月雄の腕を掴んだ手に熱が籠る。


川に行くと、ホタルが沢山見えた。自然で綺麗な光が舞っているように見える。


「うわぁ。すごい」

「でしょう」

「うん。それに加えて満月が綺麗だったな」


月雄はうっとりするようにホタルと月を見た。私はまた不意に、竹取物語を思い出した。


月雄はかぐや姫のように消えてしまうのだろうか。

私は月雄が眩しく見えて、何を言えばいいか解らなくなった。


「どうしたの?」

「あ、いや、その。会ったばかりでごめん。私と付き合ってもらえませんか?」


月雄は目を見開き驚く。沈黙した。私は慌てて訂正する。


「ご、ごめん。忘れて」

「いや、気持ちは嬉しいよ。ありがとう。でも、ごめんね」


月雄は優しく微笑むと、私の手を掴んで手の甲にキスをした。その仕草が王子様のようで体が暑くなる。


「そ、そろそろ行かないと」

「そうだね」


その後、家にどう戻ったかも解らない。

私たちは家に戻ると、順番にお風呂に入り別々の部屋で寝た。

次の日、私は月雄を起こしに部屋に行くと、姿が無かった。

私は嫌な予感がして、慌てる。私の慌てる様子に気付いた湊が言う。


「どうした?」

「月雄君がいない」

「散歩じゃないの?」


湊はあまり心配している様子はない。

私は昨日の彼女振られたと言う月雄の姿を思い出し、苦しくなる。


「いや、もしかしたら自殺」

「どうしたんですか?」


月雄の声がした。月雄は私を見るなり、微笑んだ。私は思わず涙を流す。


「?どうしたの?」

「ご、ごめん。あなたが死んだかと」

「いや。確かにここに来たとき、死のうと思ってました。けど、紗世ちゃんが慰めてくれたから………」


月雄は私の手を取った。私は思わず抱き付いた。母親の湊が咳をする。


「ゴッホン」

「あ、ごめんね」

「紗世。そんなに月雄君が好きなのね。月雄君、紗世をよろしくね」

「え?あ、すいません。僕、紗世ちゃんのこと全く知らない。けれど、これから知っていこうと思うよ。紗世ちゃん宜しくね」


月雄は眩しい笑顔を私に向けた。私のかぐや姫は月に帰らなかった。


竹取物語 (了)

題材 竹 文字数1,661 製作時間39:29

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