婚約指輪(2020/08/27)

先日、先生の左薬指に婚約指輪をしているのを見てしまった。

恋人と婚約したのだろう。

私はいつものように放課後に、先生に授業で解らなかったところを聞く為に理科準備室に行く。

先生は相変わらず難しい顔で本を読んでいた。

私に気づくと、笑う。


三宅みやけさん。遅かったね」

「あ、すいません。先生」


先生は相変わらず端正な様相で、笑った顔が綺麗だった。

すらっとした体形に合った服を着て、利発的な眉毛が少し意思の強さを呈している。

私が最初に先生を好きになったのは、紛れもなく外見だった。

けれど、今は性格的な部分も気に入っている。先生はとても優しい。


「三宅さんに最近、避けられてる気がしてね」

「そんなことないですよ。ただちょっと忙しかっただけです」

「そっか。まあ、三宅は妹みたいな存在だからね」


先生は私の頭を優しく撫でた。

私は少しだけ嬉しいのを堪える。先生が私を撫でていたのは左手だった。

指輪がキラリと光る。私はそれをじっと見た。


「あ、これね。実は三ヶ月後に結婚することになってね」

「そ、そうですか」

「三宅さんには先に伝えようと思ってて、遅くなったね」

「いえ、そんな」


私は知っていた。先生は授業中、指輪を着けないでいた。

けれど、ある時、先生を訪ねて職員室に行ったら、先生がしているのを見たことがある。

だから、先生を避けていた。

私の顔を先生が見る。先生に私はどんな風に写っているのか。


「なんか元気ないけど」

「……何でもないです」

「そう。結婚しても学校を辞めるわけじゃないよ」


先生は優しく、私の肩を叩いた。先生は私の気持ちに気づいていない。

私は段々耐えられなくなり、いつの間にか涙を溢れてくる。


「どうした?」

「っ……なんでもないです」


私は思わず、先生に背を向けた。先生は沈黙する。先生が口を開く。


「三宅さんの気持ちに気づいていたよ」

「え?」

「でもね、気持ちに応えられない。女性だからということじゃなくて、三宅さんは私の生徒だから」


先生は私を優しく抱き締める。突然のことで、私はびくりとした。

先生は私の気持ちに気づいていた。

女性同士だから駄目なのではなく、生徒としか見れないから。

気づいていても傷付けずに断ってくれた。

私はそれだけで胸がいっぱいだった。


婚約指輪(了)

題材 指輪 製作時間 20:21 文字数 910

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