雨の日(2020/08/25)

雨の日は苦手。

じめじめしているからが、一般的な感覚だとそういうものだ。

最近の私は別の理由で苦手だった。

それはバイト先のファストフード店に口説きにくる品川しながわだ。

品川は必ず雨の日に来る。そんな習慣は去年からだ。


河合かわいさん、おはよう」

「おはようございます。何か用ですか?」

「今日も可愛いね。口説きに来たよ」


品川はへらへらと軽い。いつもこんな調子で私は苦手だ。


「そうですか、はい。ご注文は?」

「注文?レモンジュースをテイクアウトで」

「はい、レモンワンで」


私は事務的に対応する。品川は私の顔を見る。品川の外見は決して悪くない。ただ軽さが苦手だ。


「彼氏いるの?」

「彼氏ですか。秘密です」

「つれないねぇ」

「ところで、疑問に思ってたんですが、何で雨の日にしか来ないんですか?」

「おっ。もしかして毎日来てほしい?」


品川は逆に質問され舞い上がっているように見えた。私はため息をつく。


「別に」

「つれないねぇ。僕の秘密教えてあげるよ」


品川は真剣な表情を浮かべながら言った。危うい色気を放っているようでドキリとした。


「秘密?」

「僕は太陽の光を浴びたら駄目なんだ」


品川は軽い口調で言った。先ほどまでの真剣さは消えている。


「なーんてね」

「騙したんですか!」

「あっははは」

「代金は120円です。商品こちらです」


私はレモンジュースを渡す。品川はカードを出してきた。それで決済をする。


「からかってごめん」

「有り難うございました」


私は事務的に対応し、品川の後ろ姿を見る。

チャラついた服装が身を呈しているように思えた。一瞬でもときめいた自分を呪いたい。


「河合さん。あの人、品川しながわ瑞希みずきって言うんだよね?」


バイトの先輩が話しかけていきた。


「あー。そうらしいですね。クレジットカードに書いてありました」

「品川って私の元クラスメイトだったよ。確か色素性しきそせい乾皮かんぴしょうっていう病気だったよ」

「え?」

「日光に当たれないらしい」


品川の言っていたことは本当だったらしい。



雨の日(了)

題材 雨 製作時間30:00 文字数 801

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