別れ道(2020/08/24)

目の前に別れ道があった。

右に行けば長く苦しいけど、楽しい場所に行ける。

左に行けばすぐに楽になるけど、楽しくない場所に行けるらしい。

説明する謎の男は不適な笑みを浮かべていた。私は男に質問する。


「どっちがいいのだろうね」

「君が望むものが何かによるんじゃないかな」

「私には解らない」


私は今の状況がよく解らない。

さっきまで、私は学校のカフェテラスでお茶をしていた。

友達の香奈枝かなえと共に将来の話や、今やっていることの話をしていた。

目を開けたらよく解らない、別れ道の前にいた。

別れ道の説明をする男は白い服を着て、短髪で端正な顔をしている。


「君は今、満足しているの?」


男は逆に質問してきた。私はしばし沈黙する。


「満足とは言い難い」

「そう。どうしたいって思う?」

「どうしたい?そうね。まだやりたこともあるし。でも、少しだけ疲れたかな」

「疲れた?」


男は私の顔を覗き込む。私は男の顔をまじまじと見た。


「何か上手くいかなくて、疲れちゃったなって」

「疲れたんだ。疲れたなら、楽なほうがいいよね」


男は途端ににやにやと笑い始める。

男は私に左の道を指差した。


「あっちに行けば楽になるよ」

「楽にねぇ。楽になってどうなるの?」

「行けば解るよ」


私は男の顔を再び見る。男は私に微笑んだ。


「だって疲れたら楽になりたいよね?」

「それはそうだけど」

「……だから、左。僕なら左だな」


私は男の言葉に吸いよられるように左を見た。微かに何かが聞こえる。


「………ちゃん。起きて!」


香奈枝の声だ。私は香奈枝の声のするほうに向かう。それは右の道だった。

男は「そうか。君はまだ早かったんだね。苦しくとも頑張ってね」と笑いかけた。

私はひたすら右の道を歩く。


光に包まれた瞬間、私は見慣れない天井を見た。


「良かったぁ!やっと目を覚ました」


香奈枝が私の手を握っていた。


「え?」

「さっきまで、ずっと意識が無かったんだよ」


どうやら、さっきまで私は意識を失っていたらしい。


別れ道(了)

題材 道 製作時間 16:10 文字数 798

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る